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2024.07.10

大きな被害をもたらす「線状降水帯」の正体とは?

 集中豪雨の被害が発生したときに、ニュースなどで線状降水帯という言葉を耳にすることがあります。これは、激しい雨を降らせる積乱雲が次々と発生して、線状に並ぶように積乱雲の群れができていることを意味します。積乱雲が幅20~50km、長さ50~300kmの帯の中で群れとなっている状態のため、同じところで数時間から半日もの間、大雨が降り続けることがあり、こうなると河川の洪水や土砂災害など大きな災害をもたらす危険があります。
 

 では、線状降水帯を作り出す原因とはどのようなものなのでしょうか。そのしくみを『こども気象学』(隈健一監修/新星出版社刊)から一部抜粋し、解説します。

激しい雨を降らせ、雷の原因にもなる積乱雲

 積乱雲は、高さ10㎞を超えることも多い、とても背の高い雲です。さらに発達して対流圏と成層圏との境目である「圏界面」に達すると、頂上部分が横に広がってできる「かなとこ雲」をつくります。積乱雲は、激しい雨を降らせたり、雷を発生させたり、ときには竜巻などの突風を吹かせたりすることもあります。 

雲の形や大きさは、そのときの条件で変わる。積乱雲の高さは10㎞を超えることも多い
積乱雲は超巨大なタンク

 積乱雲は水平方向にも10㎞を超えることもあるとても大きな雲です。高さ10㎞、東西南北それぞれ10㎞の巨大な積乱雲に1立方mあたり2gの雨つぶが含まれていたとすると、その水の量は200万トンにもなります。

 

 学校の水深1.2mの25mプール、6コース分の水量が360トンなので、その約5500杯分にもなります。積乱雲はこれだけの水を含んでいるので、バケツをひっくり返したようなすごい雨が降るのです。

【積乱雲発生3つの条件】

 積乱雲が発達するには、大きく3つの条件があります。

①【下層がいつもより暖かく、上空がいつもより冷たい不安定な状態であること】

 このような条件下では、空気はひっくり返りやすくなります。

 

②【水蒸気が多い状態であること】

 水蒸気が水や氷に変わるときに発生するエネルギーが積乱雲のエネルギー源となります。

 

③【空気が上昇するきっかけがあること】

 風が山にぶつかって上昇する、夏の強い日射で空気が上昇する、前線に伴って空気が上昇する、などのきっかけが必要です。

【積乱雲の一生】

 1つ1つの積乱雲は、生まれてから成長して最盛期となり、そこから衰弱していくまで、30分~1時間程度で一生を終えます。

 

 軽い暖かい空気は、上昇をはじめると水蒸気が凝結して熱を出すので、空気の軽さを維持しながらますます上昇していき、大量の雨つぶや氷のつぶを含む積乱雲ができあがります。

 

①【空気が持ち上げられる】

 地表の暖かく湿った空気が、冷たい空気や山などによって持ち上げられると、上昇をしながら凝結して水を含む雲(積雲)となります。

 

②【雲が発達する】

 水蒸気が水に変わる時に出る熱により、上昇する空気は温かく軽いままさらに上昇するようになります。このようにして積雲はさらに大きく成長していきます。

 

③【さらに成長して、雷を伴うことも】

 さらに上昇して冷たい上空に達すると氷のつぶができるようになります。雨が降るようになると下降気流も発生して、この氷のつぶが上昇と下降を繰り返しながら大きくなり、お互いに衝突することで電気が発生して雷を引き起こします。こうなると積乱雲と呼ばれるようになります。

 

④【最盛期】

 さらに上昇して状態が安定している成層圏に近づくと、積乱雲も上昇できなくなり、かなとこ雲へと変わっていきます。雨が強くなるにつれてそれに引きずられるように下降気流の勢力が強くなっていきます。雷や竜巻やダウンバーストなどの突風が起きやすくなるとともにどしゃ降りの雨が降ります。

 

⑤【衰弱】

 下降気流がどんどん強まり、地上の空気は上昇しづらくなって、積乱雲は衰弱していきます。

積乱雲の一生は、短いけれど激しい
線状降水帯をつくる「バックビルディング」

 風上で次々と新しい積乱雲が発生し、発達しながら移動することをバックビルディングと呼びます。バケツをひっくり返したような激しい雨が数時間続くこともあり、土砂災害や洪水の被害に注意が必要です。

バックビルディングのしくみ

① 地上の近くに暖かく湿った風が吹き、その空気が何らかの理由で持ち上げられることで、積乱雲が発生・発達する。

 

② この積乱雲が発達して激しい雨を降らせることで生まれる下降気流と、風上からの暖かく湿った下層風がぶつかることで、また上昇気流が発生し、新たな積乱雲ができる。

 

③ ②を繰り返すと、同じ場所で積乱雲が発生して風下側に移動。1つの積乱雲は1時間程度で消えていくが、次々と新しい積乱雲が発生して移動してくることで、同じところで長時間の大雨が降る。

線状降水帯の予測はとても難しい

 線状降水帯の存在は、2014年に広島県で起きた豪雨災害で注目されるようになりました。

 

 近年、九州地方などで集中豪雨や大雨の被害が多く発生していることから、気象庁では2021年から線状降水帯についての情報を発表するようになりました。

 

 2021年は線状降水帯が発生したことを伝える情報を、2022年には線状降水帯による大雨の可能性を予測する情報をそれぞれ提供開始し、今後もスーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」を利用するなどにより、さらに精度を高めていく計画です。

『こども気象学』でもっとくわしく知ろう!

 『こども気象学』は、これからの時代を生きていく子どもたちにもわかるよう、気象の知識を豊富なイラストや図で解説しています。大人の方にもおすすめの1冊なので、ぜひ読んでみてくださいね。

 

出典『こども気象学』イラスト イケウチリリー

本記事は上記出典を再編集したものです。(新星出版社/向山)

こども気象学
隈健一 監修
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隈健一(クマケンイチ)
東京大学先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー
気象庁で数値予報開発に携わり台風予報の精度向上に貢献。東京管区気象台長、観測部長を経て2019年3月に気象研究所長にて定年退職。東京大学先端科学技術研究センターにおいて、JSTのCOI-NEXT(共創の場形成支援プログラム)のClimCORE(地域気象データと先端学術による戦略的社会共創拠点)の立ち上げに関わり現在このプロジェクトの推進中。
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