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2020.11.12

日本の特徴を「地政学」から見てみよう。
島国であること以外にも、日本には多くの恵まれた環境が!

まずは、ここから! いま注目されている「地政学」ってなあに?

 最近よくニュースなどで見聞きするワード、「地政学」。グローバル化が進んだ現在、いかに世界各国の動向を知っているか? は、これからを生きる世代にとってとても重要です。

 

 そこで今回は、『地政学』(奥山真司監修)から、知っておきたい「地政学とはなにか?」「地政学から見た日本の特徴」について解説します。

 

 地政学とは、地球全体をマクロな視点でとらえ、世界各国の動向を分析する学問をいいます。

 といってもなんだか難しいと思いますが、簡単にいうと「国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考える」アプローチのことをいいます。例えば海に囲まれ、大軍が押し寄せるリスクが少ない日本と、内陸国で常に攻め込まれるリスクのあるウズベキスタンでは、防衛戦略は異なります。防衛以外でも、国際政治やグローバル経済などでの国の行動には、地理的な要素が深く関わっているのです。この地政学を、演劇にたとえてみます。国際政治を「劇」とすれば、「舞台装置」が地政学です。表に見える「劇」の裏側で、そのシステム全体の構造を決めているのは「舞台装置」ですから、国際政治の表面的な部分だけでなく、その裏にある各国の思惑を理解するには、地政学の考え方を身につける必要がある、というわけです。

 

 地理学の最大のメリットは、自国を優位な状況に置きながら、相手国をコントロールするための視点を得られること。地政学を活用すれば、リスクの高い「戦争で領土を奪う」ことをしなくても、「相手国から原料を安値で買う」など、経済的なコントロールを考えることが可能になるのです。また、国家のふるまいは、「利益」「名誉」「恐怖」など、リアルな本能の部分が関わっています。イデオロギーを排除し、地理的な側面から国家のふるまいを検証する地政学を学べば、国の本音を見抜けます。

 現在の覇権国であり、世界をコントロールする存在がアメリカです。アメリカは必要な相手を、「完全支配」から「選択的関与」「オフショア・バランシング」「孤立主義」という4つのオプションに分け、関与するレベルを考えています。

 

 さて、それでは、私たちが住む日本の特徴を、地政学の視点から見てみましょう。

地政学で考える日本の特徴

 日本の歴史を地政学で見ると、江戸時代までは海外との衝突がほとんどなく、島国でありながら内向きのランドパワーの国でした。(※ランドパワーとは、ユーラシア大陸にある大陸国家を指し、ロシアやフランス、ドイツなどが分類される)👉詳細はこちらから。

 明治になると海洋進出を始め、昭和には陸と海の両方に進出しますが失敗し敗戦。現在はアメリカのシーパワーの勢力の一員です。

 地理的な特徴は、海流や季節風に守られた島国で、かつ、自給可能な面積があること。海外から攻めづらく、また、貿易をしなくても国力を維持できたことは、日本が独立を守れた大きな理由の1つです。

 また、日本はヨーロッパから遠かったため侵略されにくく、産業が発達する時間がありました。その間に軍事力をつけられたため、かつての中国のように植民地にならなかったのです。

 国内の流通に関しては、陸上ルートの発達が遅く、古くから流通の基本は海運だったことも日本の特徴です。

📝江戸時代より前、海外との衝突はたった3回

 江戸時代より前の日本と外国の公式な衝突は、建国以降の2500年以上ともいわれる歴史のなかで、飛鳥時代の『白村江の戦い』と鎌倉時代の「元寇(げんこう)」、安土桃山時代の豊臣秀吉による『朝鮮出兵』というたったの3回のみ。

 

 

📝ランドパワーだった日本が海外へ向かった理由

 明治期に産業の工業化により、農村で人が余り、都市に移動した人のために新しい土地が必要になりました。また、欧米諸国から国土を守る意識も理由の1つ。さらに、“アジアの盟主になる” という名誉も海外進出の理由でした。

📝島国でも、長きにわたり独立を維持できる国はほとんどない!

 「島国なら独立を保つのは難しくないのではないか」と思うかもしれませんが、数千年にわたり外国からの侵略がなく、独立を維持できた島国はほとんどありません。あまり知られていませんが、イギリスもかつて多民族に征服された歴史があります。

📝国内の物流は海運が発達。一方、陸上交通の発達は遅い

 ランドパワーの時代も、五街道はありましたが、西廻り海運が中心。一方、高速道路も含め交通網が完成したのは20世紀に入ってからであり、海路に比べ、陸路の発達は相当に遅かったのです。

 このように、地政学上、国土の形には非常に重要な意味があり、その国の人種や産業、政治システムなどと同様に国のふるまいに大きく関与します。

 例えば、世界に50程度ある島国。島国は、海という天然の要塞に囲まれているため、他国が侵略しようとした場合、非常に攻めづらく、守る島国側が非常に有利です。そのため、陸の国境がある国に比べて防衛費や低くなります。ただし、自国から周辺国に攻め入る際には、海を移動するための手段が必要になるため、経済的な余裕がないと、大規模な軍隊を派遣するのは難しい面もあります。

 一方、島国とは反対に周囲がすべて陸の国境で囲まれた内陸国は、侵攻しやすく・されやすいため、「侵攻されないために、こちらから侵攻する」と考え、国土を拡大していく傾向があるのです。

 半島にある国は、他国が陸続きの”付け根”から攻めてきた場合、”付け根”以外の周囲を海に囲まれているため逃げ場がなく、どうしても周辺の強国の影響を受けやすくなる傾向があります。現在は北朝鮮や韓国がある朝鮮半島も、はるか昔から今日に至るまで、中国の強い影響をうけています。

 このように、「島国」や「半島」「内陸国」などといった国土の形の特性は、地政学戦略に深く関わっているのです。ぜひ、この機会に「地政学的観点」を身につけ、日々起きている世界のさまざまな事象を、ご自身の着眼点から紐ひも解いてみてくださいね。

※イラスト/前田はんきち

※写真/shutterstock

 

※本記事は下記出典を再編集したものです。(新星出版社/向山)

地政学(サクッとわかる ビジネス教養シリーズ)
奥山真司監修 (プロフィールは下記参照)
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奥山真司(オクヤママサシ)
1972年横浜市生まれ。地政学・戦略学者。戦略学Ph.D.(Strategic Studies)。
国際地政学研究所上席研究員。戦略研究学会編集委員。日本クラウゼヴィッツ学会理事。
カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学(BA)卒業後、英国レディング大学院で、戦略学の第一人者コリン・グレイ博士(レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事。
地政学者の旗手として期待されており、ブログ「地政学を英国で学んだ」は、国内外を問わず多くの専門家からも注目され、最新の国家戦略論を紹介している。
現在、防衛省の幹部学校で地政学や戦略論を教えている。また、国際関係論、戦略学などの翻訳を中心に、セミナーなどで若者に国際政治を教えている。

著書に『地政学 アメリカの世界戦略地図』(五月書房)、『“悪の論理"で世界は動く! 』(李白社)、『世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう』(フォレスト出版)、訳書に『大国政治の悲劇』(ジョン・ミアシャイマー著)、『米国世界戦略の核心』(スティーヴン・ウォルト著)、『進化する地政学』(コリン・グレイ、ジェフリー・スローン編著)、『胎動する地政学』(コリン・グレイ、ジェフリー・スローン編著)、『幻想の平和』(クリストファー・レイン著)、『なぜリーダーはウソをつくのか』(ジョン・ミアシャイマー著、以上、五月書房)、『戦略論の原点』(J・C・ワイリー著)、『平和の地政学』(ニコラス・スパイクマン著)、『戦略の格言』(コリン・グレイ著、以上、芙蓉書房出版)、『インド洋圏が、世界を動かす』(ロバート・カプラン著、インターシフト)がある。

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