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2023.08.30

お酒を飲まない人も注意! 
最速で「肝臓」を傷つけてしまう意外な飲み物とは? 肝臓専門医が解説

 暦のうえでは秋を迎えましたが、まだまだ厳しい暑さが続いています。冷たいビールやジュースはのど越しがよく、つい何杯も飲んでしまいがちですが、飲み過ぎに気をつけたいのはアルコール飲料だけではありません。

 

 じつは、アルコールでなく、カラダによいとされている飲み物さえも実は逆効果であり、健康のかなめである肝臓を最も早いスピードで傷つけ、“脂肪肝”を作り出していることを皆さんはご存知でしょうか。

 

 

 これまで20年以上にわたり肝臓疾患の治療にあたってきた専門医 尾形哲医師は、次のように語っています。

「現在、日本人成人の3人に1人が“脂肪肝”であると報告されています。脂肪肝患者の一部は、まったくお酒を飲まないにもかかわらず、脂肪肝炎から肝硬変、肝癌となることが知られており、近年、脂肪肝由来の肝硬変、肝癌でいのちを落とす方の数は増加の一途をたどっています。一方、脂肪肝が進行しても、苦しい、痛いなどの自覚症状が現れることはほとんどありません。脂肪肝は、命に関わる疾患であるにもかかわらず、その治療の重要性に気づいておられる方は、医療関係者でさえまだ少数といってよいでしょう」。

 

 では一体、どのような飲み物が肝臓にダメージを与えるのでしょうか。また、すでに肥満や脂肪肝を指摘されている方は、どのような点に注意すれば健康なカラダを取り戻すことができるのでしょうか。その方法を、尾形さんの著書『ダイエットも健康も  肝臓こそすべて』(新星出版社刊)から一部抜粋し、再編集してお届けします。

お酒を飲まない人も注意! 日本人成人の3人に1人が脂肪肝
生活習慣病の上流に位置する「脂肪肝」

 免疫、解毒、代謝という重要な役割を担っている肝臓は、24時間365日、絶え間なく働き続けています。その重さは1000~1800gもあり、全臓器中最重量であるだけでなく、基礎代謝量の27%を消費すると言われており、その消費量も全臓器中最大です。この肝臓に脂肪が溜まるとどうなるのでしょうか。

 

 肝臓に脂肪が溜まる「脂肪肝」になってしまうと、そこを起点に糖尿病、脳血管障害、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がドミノ倒しのように生じてきます。つまり、脂肪肝はあらゆる生活習慣病の上流にあたるのです。裏を返せば、脂肪肝を改善することができれば、命に関わる病気を予防することができます。

 

 「肝臓から脂肪を落とす」ことができれば、肝機能の改善、肝炎、肝硬変の予防となるだけでなく、同時に糖尿病の指標であるヘモグロビンA1cのほか、LDLコレストロール(悪玉コレステロール)、尿酸などの生活習慣病に関わる異常値も改善することができるのです。

脂肪肝を作る最大の原因は「糖」

 では、肝臓に効率よく脂肪がついてしまう方法とは何だと思いますか? 世界三大珍味の1つとして知られるフォアグラ(フランス語でフォア(foie)=肝臓、グラ(gras)=脂肪のことで、文字通り脂肪肝を意味する)の作り方を例に解説します。

 

 フランスでは、フォアグラを作るためにガチョウにひらすらトウモロコシを食べさせる、という伝統的な方法があります(現在は動物愛護の観点から家禽の生活環境が見直されています)。

 

 

 まず、ガチョウを飼育小屋に入れ、消化がよいようにやわらかく蒸したトウモロコシを1日3回、専用の漏斗で強制的に胃に流し込みます。エサは1回250gから始めて、最終的に500gまで徐々に増やしていきます。すると、わずか1か月で肝臓は2㎏に達し、脂肪肝=フォアグラとなります。

 

 

 ここで重要なのは、「ガチョウがトウモロコシだけをエサにしていた」という事実です。トウモロコシの粒は、総熱量の75%を糖質で占めていて、脂肪の割合はわずか15%に過ぎません。すなわち食べた脂肪が蓄積して脂肪肝になったのではなく、トウモロコシのでんぷんであるブドウ糖の集まりがカラダの中で脂肪に変わり、肝臓に蓄積したのです

 

 食べたトウモロコシのでんぷんは、小腸でブドウ糖(グルコース)に分解されます。ブドウ糖は膵臓から分泌されるインスリンの働きによって細胞に取り込まれ、脳や筋肉、各臓器のエネルギーとして使われます。

 

 血中のブドウ糖濃度は、膵臓から分泌されるホルモン、インスリンの働きにより一定に保たれていますので、ヒトの血液中のブドウ糖総量はわずか5g程度しかありません。

 

 細胞のエネルギーとして使われなかった残りのブドウ糖はどこへいくのでしょうか?

 

 ブドウ糖は、ブドウ糖のままでカラダに蓄えられ、再使用されることはありません。まず、グリコーゲンとなって肝臓あるいは筋肉に蓄えられます。肝臓、筋肉がグリコーゲンでいっぱいになると、新たに入ってきたブドウ糖は、インスリンの作用によって中性脂肪に変換されるのです。インスリンには血糖を下げる=細胞内にブドウ糖を押し込む作用があるだけでなく、エネルギーとして使われなかったブドウ糖を中性脂肪に変換する作用があることが重要なポイントです

 

 

 もうおわかりでしょう。ガチョウはフォアグラとなる際、筋肉を用いる必要のない=グリコーゲンをほとんど消費しない場所で、多量の糖質を与えられて飼われています。それゆえに、消費されるエネルギーよりはるかに多いブドウ糖から、効率よく中性脂肪への変換が行われ、肝臓の細胞内に脂肪が蓄積していくのです。

 

 脂肪肝を指摘された方は、真っ先に「脂肪をとるのを減らせばよい」と考えがちです。しかし、肉の脂身や揚げ物を食べなくても、糖質の量に無頓着なままでは脂肪肝は改善しません。真っ先に減らすべきは糖質量なのです。すなわち加糖飲料、米、パン、麺、スナック菓子などの糖質を減らす必要があるのです。

最も効率的に脂肪肝を作り上げる「砂糖水」とは?

 ガチョウに対するトウモロコシ以上に、効率的に脂肪肝になってしまう方法があります。それは、糖質が最も精製された状態、「砂糖」を食べることです。砂糖は「ブドウ糖」と「果糖」が合わさったもの。トウモロコシとの違いはこの「果糖」が含まれていることです。じつは、砂糖を摂取する方法の中でも砂糖を水に溶かした飲料、「砂糖水」を飲むことが、最も効率的に脂肪肝になってしまう方法なのです

砂糖水は最も効率的に肝臓に脂肪をつける

 清涼飲料水の砂糖含有量を表にまとめました。この中には、健康によいとして売られている飲料も含まれています。たとえば、汗をかいたときに飲むことが多いスポーツドリンク500ml中には、スティックシュガー(1本3g)約10本分の砂糖が含まれています。100%の野菜ジュース、果物ジュースも、科学の世界では加糖炭酸飲料と同じく、肝機能を傷害する可能性が高いと考えられています。

 

 これらの砂糖水は、①血糖値を急激に上げてインスリン値を上昇させ、ブドウ糖を中性脂肪に変換する、②肝臓に向かう加糖濃度を一気に高めて、効率的に肝臓で脂肪をつくり、脂肪を溜める、というダブルパンチが効率的に起こる脂肪肝の元凶なのです。

健康によいとされている飲み物にも多くの砂糖が含まれている

 

飲み物はお茶・水・ブラックコーヒーに!

 私たちが開設している「スマート外来」では、砂糖水(加糖飲料)を飲まない習慣が脂肪肝改善に再重要であると考え、肥満・脂肪肝の方への最優先の指導として、加糖飲料を禁じ、飲み物を無糖のお茶(緑茶、紅茶、烏龍茶)、水(水道水、ミネラルウォーター、無糖炭酸水)、ブラックコーヒーにしてください、とお話ししています。

 

 外来に来られる患者さまの多くも、カラダによいと信じて、エナジードリンク、乳酸菌飲料、100% 果物・野菜ジュースなどの加糖飲料を常飲しています。そのため、肥満・脂肪肝の最大の原因となっているという認識がない方がほとんどなのです。

 

 実際、さきほど示した表にある飲料のいずれかを毎日飲まれている方は、それをやめるだけで1か月で体重が減少し、血液検査でも肝酵素(AST、ALT)、γ-GTP、中性脂肪、LDLコレステロール値が低下し始めます。脂肪が落ちることで肝臓の働きが蘇ると、疲れやすさ、体のだるさなどの体調不良が、薄紙をはぐようになくなっていくことに気づくことでしょう。なぜなら、冒頭でもお話したように、肝臓は人体最大の代謝をつかさどる臓器だからです。

テレビ・雑誌で取り上げない「砂糖水」の弊害

 人気テレビドラマ「ドクターX」に登場する大門未知子医師は、難手術を終えた後、ガムシロップを飲み干す習慣があります。ガムシロップはかつて砂糖水が結晶化しないようにアラビアガムと一緒に砂糖水を煮て製造されていましたが、現在ではほとんど加糖ブドウ糖液糖が使われています。ドラマとはいえ、医師でありながら肝障害を与える液体を飲んでいるのです。

 

 実は、私も同じような習慣を持っておりました。長時間手術を終えた後に、必ず果汁100%のオレンジジュース500mlを一気に飲み干していたのです。疲れたカラダによかれと思って飲んでいた飲料で、肝臓をいじめていたことになります。

 

 スマート外来では「水分はお茶か水だけでとっています」と自己申告される方にも、先ほどの表にある加糖飲料を一つひとつ丁寧に、飲んでいないかどうかを確認しています。

 

 患者さまはカラダによいと信じて、エナジードリンク、乳酸菌飲料、100%果物・野菜ジュースなどの加糖飲料を常飲しています。そのため、肥満・脂肪肝の最大の原因となっているという認識がない方がほとんどなのです

 

 健康を扱ったテレビ番組や雑誌の健康特集でも、加糖飲料の弊害についてはほとんど取り上げられることがありません。以前、ローカルテレビ局の健康番組に出演した際、加糖飲料の弊害を話そうとしたところ、番組制作会社側からストップがかかったことがあります。

 

 

 その健康番組は、専門医が自分の専門分野の疾患について、毎日5分程度の解説を5日間行うという内容で、私は脂肪肝についての講義を担当させていただきました。製作者の依頼で出演前にあらかじめ講義に用いるすべてのスライドとその解説原稿を作成し、番組担当者に送りました。

 

 そのうち、「脂肪肝の最大の原因は加糖飲料である」ということを解説する回のスライドと原稿が、まるまるボツになって返ってきたのです。担当ディレクターから「スポンサーへの説明を擁する可能性があるので、別の内容に差し替えてほしい」とのメールが届きました。

 

 私は、「加糖飲料をやめること」が脂肪肝を改善させる最重要のメッセージだという自分の考えを説明し、「差し替えることはできません。この内容をお伝えできないのであれば、出演も辞退させてください」とメールしました。

 

 幸い製作者の方の理解を得ることができ、ボツになることなく番組で解説することができました。

 

 メディアは健康になるための情報を求める視聴者、購読者を対象としていても、スポンサーの利益を優先させることがあります。スポンサーが自社の商品の売り上げに悪影響がある可能性のある情報を、あえてカットするのは当然の行為ですし、製作者がスポンサーの意向にこたえることは、仕方のないことかもしれません。

 

 私が健康によいものをおすすめすること以上に、健康に害のあるものについての情報を強調しているのは理由があります。自分のチカラで伝えられていない情報に気づくことは、伝えられている情報の間違いを見つけることより、はるかに難しいことだからです

加糖飲料をやめないと、脂肪肝は治らない

 

 脂肪肝を改善するには、肝臓にダメージを与える食材をやめることが最優先です。たとえば肺炎の治療中に、咳をしながらタバコを吸い続ける方がいたら、あなたはどのようなアドバイスをしますか?

「タバコをやめないと、肺炎は治らないよ」ですよね。

 

 

 同様に脂肪肝を治したいのに、砂糖や果糖ブドウ糖液糖入り食材を毎日多量に撮っている方にはどう声をかけますか?

「加糖飲料をやめないと、脂肪肝は治らないよ」。

肝臓専門医なら間違いなく、こう答えるはずです

 

 

脂肪肝は適切な食事により、わずか3か月で改善が可能です。まずは、「飲み物は、水・お茶・ブラックコーヒーに」。今日からぜひ実践してみてください。

出典『ダイエットも健康も肝臓こそすべて』

図版作成:吉崎広明(ベルソグラフィック)

 

本記事は、上記出典を再編集したものです。(新星出版社/向山)

写真画像:Shutterstock

ダイエットも健康も肝臓こそすべて
尾形 哲 著(プロフィールは下記参照)
脂肪肝は、お酒をたくさん飲む人の病気だと思っていませんか。

お酒を一滴も飲まなくても脂肪肝になってしまう人が増えており、現在、日本人成人の「3人に1人」が脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患〈NAFLD〉)であるといわれています。
脂肪肝を放置すると、脂肪肝炎から肝硬変、肝臓癌といった深刻な肝臓の病気になることもあります。また、糖尿病をはじめとした多くの生活習慣病は、肥満や脂肪肝を起点としてドミノ倒しのように生じてきます。
脂肪肝は「死」に直結する怖い病気なのです。

この脂肪肝を改善するにはどうしたらよいでしょう。
著者は、肝臓から脂肪を落とすには、「肝臓をいたわることが大切」だといいます。

本書で紹介する肥満、脂肪肝を改善するメソッドの極意はたった7つです。
病院に行かなくても、だれでも自宅で、今日から実践できる食べ方や運動の方法を「肝臓をいたわる7つの習慣」としてまとめました。
この「7つの習慣」には、著者が生体肝移植のドナー指導で培った脂肪肝改善法のノウハウと、佐久市立国保浅間総合病院の肥満・脂肪肝改善専門外来「スマート外来」で、著者が糖尿病専門医とともに食事や生活習慣を研究したエッセンスがすべてつまっています。

ダイエット、健康の要(かなめ)は肝臓です。
なぜ肝臓をいたわると健康になるのか。確実にやせることができるのか。
本書では、代謝や解毒、免疫という3つの重要な働きを解説し、「肝臓こそ健康の肝(きも)」である理由についても、深掘りして解説します。

「肥満・脂肪肝改善バイブル」の誕生です。
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尾形哲(オガタサトシ)
佐久市立国保浅間総合病院 外科部長(肝胆膵外科)。同院「スマート外来(脂肪肝専門外来)」担当医。医学博士。1995年 神戸大学医学部医学科卒業。
2003年 医学部大学院博士課程終了。
パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。
東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。
日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本肝臓学会専門医。
著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術』(KADOKAWA)がある。
Twitter:@ogatas0520
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