簡潔にまとめるつもりが、なぜかいつも長文メールになってしまう……。長々とメールで説明したのに相手に伝わらず、誤解が生じてしまった……。このような経験、あなたはありませんか?
相手に伝わらない文になってしまう原因のひとつは、長い文に見られる「余計な言葉」。話しことばと違い、書きことばは文字だけで言いたいことを相手に伝えなければなりません。伝えようとすればするほど言葉が多くなりがちですが、そうすることで逆に伝わりにくい文になってしまいます。
そこで今回、『サクッと書けちゃう文章レシピ60』から、「余計な言葉」を削り、伝わる文にするための方法を紹介します。
伝えたいことを詳しく正確に書こうとすることは大切です。でも、その結果、もってまわった長い文になるのは好ましくありません。余計な言葉が増えれば増えるほど、文の意味はわかりにくくなります。文についた「贅肉」を削り、伝えたいことをはっきりさせましょう。
【問】 以下の文には、3か所「贅肉」部分があります。その部分を削り、すっきりした文に直してください。
しかし、現状はどうかというと、コスト削減のために、まず人件費を削るという方法を取る企業もなお多いわけである。
しかし、現状では、コスト削減のために、まずは人件費を削る企業もなお多い。
★POINT★ 原文では、次の下線部分が「贅肉」です。
しかし、現状はどうかというと、コスト削減のために、まず人件費を削るという方法を取る企業もなお多いわけである。
「贅肉」は削れましたか? 文が長くなったと思ったら、言葉をひとつひとつチェックして、意味を変えずにもっと簡単な表現はできないか、考えてみます。言い換えられる箇所は意外に多いはずです。
【伝わらない!】
問題の1つは、タクシー代わりに救急車を呼ぶ人がいるということだ。
↓ 改善後
【伝わる!】
問題の1つは、タクシー代わりに救急車を呼ぶ人がいることだ。
【伝わらない!】
今後採算を取ることのできない支店は、徐々に閉鎖に追い込まれざるをえない状態になっていくであろう。
↓ 改善後
【伝わる!】
今後採算が取れない支店は、徐々に閉鎖に追い込まれるだろう。
【伝わらない!】
ここでは具体的な事例を示すといったようなことは目的としてはいない。
↓ 改善後
【伝わる!】
ここでは具体的な事例を示すことは目的としていない。
「贅肉を削る」に続き、2つ目のポイントは、「重言」を避けること。
「馬から落馬する」のように、同じ言葉の繰り返しを含む表現を「重言」と言います。重言は、一概に悪いわけではありません。強調を目的としたものや、「大学に入学する」のように違和感の少ないものもあります。その一方、不注意から同じ言葉を重ねてしまったものもあります。使う必要のない重言は改めましょう。
よく起こる重言の例を挙げてみます。気づかずに使っていた! という方も多いのではないでしょうか。
●あらかじめ予定していた ⇒ あらかじめ決めていた・予定していた
●いまの現状 ⇒ 現状
●炎天下のもと ⇒ 炎天下
●価格を値下げする ⇒ 価格を下げる・値下げする
●およそ3000万円ほど ⇒ 3000万円ほど・およそ3000万円
●会を閉会する ⇒ 閉会する・お開きにする
●辞意の意向 ⇒ 辞任の意向・辞意
●受注を受けた ⇒ 受注した・注文を受けた
●食事を食べる ⇒ 食事する・食事をとる
●製造メーカー ⇒ メーカー・製造業者
●年内中に ⇒ 年内に
次の文例をみてみましょう。どの部分が重言か、わかりますか?
【伝わらない!】
商品の代金がいまだに未納です。
☆ここが重言!…「未納」は「いまだに納めていない」という意味です。元の文では、未納と、直前の「いまだに」の意味が重なります。
↓ 改善後
【伝わる!】
商品の代金が未納です。
【伝わらない!】
技術開発の体制を整えなければ、この先は生き残れていけないだろう。
☆ここが重言!…「生き残れる」は可能表現なので、さらに「~ていける」という可能表現を重ねる必要はありません。
↓ 改善後
【伝わる!】
技術開発の体制を整えなければ、この先は生き残れないだろう。
または、
技術開発の体制を整えなければ、この先は生き残っていけないだろう。
3つ目のポイントは「繰り返し」を避けること。複数回言わなくて済むことをことさら繰り返している文や、同じ言葉がたまたま「かぶって」しまっている文も、意味を取りにくくします。繰り返しの表現は、次のように削っていきましょう。
【伝わらない!】
多様な観点から考えていくべきだと考える。
☆改善方法 … 「考えて」、と「考える」をひとつにまとめます。
↓ 改善後
【伝わる!】
多様な観点から考えていくべきだ。
【伝わらない!】
申込書はリンク先のページからダウンロードしていただき、必要事項をご記入いただき、当社宛にご送付いただければ、改めてこちらからご連絡させていただきたく存じます。
☆改善方法 … 「いただく」の繰り返しを削りましょう。
↓ 改善後
【伝わる!】
申込書はリンク先のページからダウンロードできます。必要事項をご記入の上、当社宛にお送りください。改めてこちらからご連絡いたします。
このように、文についている余計な言葉を削り、すっきりさせることができれば、何を伝えたいのかがはっきりします。今回お伝えした「文についている贅肉を削る」「『重言』を避ける」「繰り返しを避ける」の3つの改善方法を、ぜひ覚えてくださいね。
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※写真/shutterstock
※本記事は、下記出典を再編集したものです。(新星出版社/神前・向山)
1967年、香川県高松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。同大学院博士課程単位取得。現在、『三省堂国語辞典』編集委員。
国語辞典の編纂を続けるかたわら、大学生や社会人に対し、クイズやディベートなどを取り入れた独自の文章指導を十数年にわたって続けている。NHK Eテレ「使える!伝わるにほんご」講師を務めるなど、放送による日本語・国語教育番組にも長くたずさわる。著書に『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァ‐携書)、」『伝わる文章の書き方教室』(ちくまプリマー新書)、『辞書を編む』『小説の言葉尻をとらえてみた』(以上、光文社新書)など。https://twitter.com/iima_hiroaki
1968年、東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。ビジネス書、実用書を中心に執筆。手掛けた作品にはベストセラーも多い。どんなテーマの原稿も「わかりやすく、おもしろく」、そして「読者の心に引っ掛かる」ものにすることをめざしている。著書に「精神分析ってなんだろう?」(日本実業出版社)など。