ここ数年で、「言語化」という言葉がビジネスシーンなどでよく使われる機会が増え、重要なビジネススキルの1つであると認識されるようになりました。
言語化には、「頭の中のモヤモヤとした情報を言葉にする(=一時言語化)」、「相手に伝わりやすい言葉にする(=二次言語化)」、「瞬時に思考や意見を言葉にする(=最終言語化)」といったように、いくつかの段階はありますが、言語化とは文字通り「言葉にすること」がもっとも重要な意義で、トレーニングによって向上させることができます。
しかし、トレーニングによって向上させるのが難しく、ある程度長い時間をかけてコツコツ学ばないと身につかない、けれど重要な要素が語彙力です。「語彙力がないので、いつも同じような文章、同じような営業トークになってしまう⋯⋯」と感じているビジネスパーソンは想像以上に多いようです。
しかし、現実的にはこうした悩みを抱えていながら、語彙力がなかったとしても致命的に困る場面はあまりなく、同時に、ほとんどのビジネスパーソンは毎日の業務やプライベートな用事で手一杯であるため、わざわざ語彙力を増やそうという訓練をする人は、あまりいません。
そこで、ここでは、新たな手間などをなるべく増やさずに語彙力を増やす方法を紹介します(本稿は、『頭がいい人は身につけている 言語化トレーニング』(監修 横川裕之/新星出版社)より抜粋し、再編集したものです)。
語彙力を増やすにあたり、まずは、「自分が知らなかった新しい言葉に出合う」ことが出発点です。そのためにもっとも簡単で重要なのが、「新しい経験をすること」です。ここでいう経験とは、「業務に関わりのある新しい分野の勉強をはじめる」や「新たな趣味としてトライアスロンをはじめる」といったような大きなことでももちろんかまいませんが、「簡単な料理をはじめる」や「これまであまりみたことのないジャンルの雑誌を買ってみる」など簡単なことで構いません。
言語化には「経験をしたことがある」というのは非常に重要な要素ですが、語彙力の向上という面においても、新たな経験をすることにより、これまでの自分の中には存在しない新しい言葉に出合う可能性が高まるのです。
例えば、何か新しい経験をするとなると、セミナーや講座、ワークショップなどに参加したり、経験者に話を聞きに行ったりするなど、新しい人と会話をする機会が必然的に増えるでしょう。日常的にコミュニケーションをしている、よく知った同僚や友人などとは異なる人と話すことで、「自分のまったく知らない」、もしくは「何となくは知っているけれど自分はほとんど使わない」言葉に触れることになるのです。
また、これまでは手に取ったことのなかった書籍や雑誌、見たことのない Webサイトの記事を読むようになり、新しい言葉に触れる機会がさらに広がります。
このように、新しい経験をすることは、普段とは異なる領域に触れるため、新たな言葉に出合うことに繋がるのです。
少し注意が必要なのが、昨今、SNSなどでの発信や、YouTubeなどに流れてくる解説動画やショート動画です。これらは、文字数が限られていることもあり、「草(ネットスラングで笑っているという意味)」「それな(完全に同意している)」「ガチ勢(真剣に取り組んでいる人々)」などと簡略された表現になりがちです。
同時に、語彙力のあまり高くない一般の人々が制作していることも少なくないため、「新しい言葉に出合う」という面でみると、プラスになりづらい可能性が高いのです。もしSNSを活用するなら、自分が尊敬する専門家や、言葉遣いが美しいと感じる書き手を意識的にフォローし、『質の高い言葉』に触れる機会を増やしたほうがいいでしょう。
また、会話をするという意味では、インターネットを通じたオンラインでももちろん問題はありませんが、可能であれば、対面のほうが望ましいといえるでしょう。対面で話をしたほうが、お互いの感情やテンションが伝わりやすく、深い内容になるので、あまり使わない言葉が登場する可能性が高まるのです。
さまざまな経験を通じて新しい言葉と出合ったら、一度きちんと調べることが重要です。これをしておかないと、「勘違いして何となく意味を覚えてしまい、信頼を損ねる」ことになりかねませんし、「調べる」ことで言葉に向き合い、頭に入りやすく、使える言葉になるのです。
語彙力を向上させることを考えると、この「きちんと調べる」というのが、もっとも手間がかかる部分でしょう。少し前までは、言葉のきちんとした意味を調べるには、重い国語辞典を引くか、持っていれば電子辞書を使うしかありませんでした。意識的に時間を取らねばならず、忙しいビジネスパーソンにとってはなかなか難しいでしょう。
しかし、現在は、誰もが持っているスマートフォンやパソコン、タブレットを使えば、すぐにその場で調べることができます。ですので、移動中や空き時間、ちょっとした休憩などにでも、出合った言葉は国語辞典サイトなどで調べ、きちんとした意味を把握しておきましょう。
生成AIなどを使うと、より多面的に意味を把握することができます。
ただし、インターネットには、真偽不明の情報も多数ありますから、なるべくまとまった国語辞典などのサイトで調べるのがおすすめです。また、生成AIは、インターネット上にソースの多い”一般的な情報”の正確性は比較的高いといえますが、ソースの少ない専門分野などは、正確性が疑わしいことが少なくないので注意したほうがいいでしょう。
「知らない、もしくは何となくしかわからない言葉に出合ったらすぐに調べる」ことを習慣にしておくと、意外と誰でも簡単に取り組むことができるようになります。
さらに、余裕があれば、調べた言葉の類義語や対義語などを調べると、その言葉が持つより細かなニュアンスまで鮮明にすることができます。類義語や対義語を知っておくと、言語化という面においても、例えば、以下のような表現が可能になります。
「このプロジェクトは、ただの”成功”というよりも、”達成”というのが我々の実感です(“成功”の類義語が”達成”。単純に「うまくいった」というのではなく、「目指していたゴールまでやり遂げた」というニュアンスを表現)」「弊社の商品は、他社商品と比較して抑えめの価格にはなっていますが、商品の最大のポイントは”価格”ではなく、”価値”にあります(”価格”の類義語が”価値”。商品に大きな価値があるという意味を強調している)」
インターネットなどで検索をする際、調べる単語に「類義語」や「対義語」と追加するだけで簡単に調べられますので、ぜひ取り組んでみてください。
新しい単語に出合い、その意味を調べたら、あとはとにかく「使う」ことが何よりも重要です。
単純に「知っている」ことと、「使える」ことには想像以上に大きな隔たりがあります。例えある単語を知っていたとしても、一度も使ったことがなければ、それは言語化の能力にプラスになったとはいえませんし、そのうちに忘れてしまう可能性が高いでしょう(忘れてしまっても、その都度調べて何度も思い出しながら身につけることもできると思いますが、すごく効率が悪いです)。
一般的に、読んだり、聞いたりした際に意味が理解できる言葉を「理解語彙」、日常的に自分が話したり、書いたりする言葉を「使用語彙」などといい、日本語を母語とする日本語話者であれば、「理解語彙」はおよそ4〜5万語程度、「使用語彙」はおよそ2万語程度とされています。
「理解語彙」を増やすことも、文書や発言の理解という意味では大切ですが、ビジネスシーンで問われる語彙力は、基本的には「使用語彙」のほうでしょう。もちろん、全ての「理解語彙」を「使用語彙」にする必要はありませんが、意味を調べて「理解語彙」になった言葉を「使用語彙」へと変えていくことが必要です。
不思議な感じがするかもしれませんが、「使用語彙」にするために、「使う」ことが必須なのです。
というのも、人間の脳は、時事刻々、無数の情報が入力されており、自動的に「使わない情報」と「すぐ使う情報」を分けています。「調べる」ことによって一時的に覚えた言葉であっても、すぐに使わなければあっという間に「使わない情報」に分類され、忘れてしまうものなのです。そのため、「すぐ使う情報」として脳に定着させるために、とにかく「使う」ことが欠かせません。
ここでいう「使う」というのは、誰かに話す、人に言葉の意味を教える、多少無理やりでもメールの文章などに書いてみるなど、とにかく自分の外側にアウトプットできれば問題ありません。こうして頻繁に使っているうちに、その言葉は「すぐ使う情報」になり、忘れない記憶になっていきます。
その日覚えた言葉はその日中、遅くとも次の日には何度か使うと、記憶に残りやすいでしょう。
新しい経験をして新しい言葉に出合い、出合った言葉の意味やニュアンスをスマートフォンなどですぐに調べ、意味を知った言葉をどんどん使う、これが忙しいビジネスパーソンが語彙力をつける、もっとも簡単な方法です。
誰でも今日からできますので、ぜひ、取り組んでみてください。
出典『頭がいい人は身につけている 言語化トレーニング』

・ビジネス書にありがちな「読んだけど何も変わらない」「結局何なのか覚えてない」「最後まで読めなかった」という読後感ではなく、ゴールは「ビジネススキルが身についた」
・ビジネススキルを身につけるため、「実践的な問題を解きながら読む」形式で展開
テーマはビジネススキルとしてはもちろん、深く思考するために必須である「言語化」
1章「言語化とは」【必要なマインドセット】
<言語化の定義と心構え>
友達と趣味の話はできる→つまり言語化できている。できないという思いをなくし、「まずは30点でいい」というマインドセットを身につける
2章「自分の無意識を言語化」【アイデア構築】
<自分1人で考えを掘り起こして具体化>
ビジネスシーンにおいて、「相手に伝わる」「有効なアイデアを出す」というレベルではなく、間違えていてもいいので、自分の頭にある考えを掘り起こして言葉にするための方法やメソッドを紹介
3章「相手に伝わる言語化」【会議、プレゼンテーション】
<相手にとってわかりやすい伝え方>
ここから、「相手」を考えて行う言語化を紹介。
ある程度考えてから行うプレゼンテーションや会議での発言で使える言語化のメソッドを掲載
4章「瞬間的な言語化」【会議、ブレスト】
<会議などで意見を求められた際のその場での言語化 >
ブレストや日常業務などで「どう思う?」と急に意見を求められた際のメソッドを紹介
5章「言語化がうまくいく環境」【マネジメント】
会議のファシリテーターなどの立場での言語化しやすい空気作り>
誰しも評価を下げたくないという思いがあるから、どんな発言も受け入れて、心理的安全性を高める
早稲田大学卒業後、一部上場ICT企業、外資系生命保険会社を経て独立。「思考を文字化すると現実化する」というコンセプトの「文字化メソッド」を開発し、オンラインスクール『文字化合宿』で提供。思考現実化コーチ。著書に『思考を現実化する「ねるまえ」ノート』(2021)、『人も仕事もお金も引き寄せる すごい自己紹介』(2020)、『思考は文字化すると現実化する』(2020)。







