国士舘大学教授・助川成也先生に聞いた! 「次に来る」巨大市場、東南アジアを知れば新しい時代のビジネスが見えてくる! Part. 3
こんにちは。国士舘大学の助川成也です。今回は特別講義の最終回ということで、成長を続ける東南アジア市場について解説いたします。
東南アジアの主要都市を歩くと、高層ビルや鉄道など建設中のインフラ施設をあちらこちらで目にします。世界中の企業が東南アジアを主要な投資先とみており、まさに開発ラッシュの真っ只中と言えます。
投資拡大の大きな要因は、第1回でも解説した、魅力的な人口規模。ASEANの人口は約6.6億人、日本の5倍に匹敵します。今後も人口は増加するとみられるため、巨大な内需を期待して外資系のメーカーや小売企業が続々と進出しています。生産年齢人口も同時に増えるため、ASEAN全体でみれば日本にみられるような労働力不足や少子高齢化による社会停滞の懸念はありません。
東南アジアのめざましい経済成長は、1970年ごろから始まりました。インフラ整備と工業化を徐々に進めてきたことにより、年平均の経済成長率は5.6%と、極めて高い成長を続けています。また、域内外の自由貿易化も進んでいるので、さらなる市場拡大が期待されます。
経済成長についてもう少し掘り下げてみましょう。
1970年に2100億ドルであったASEANの実質経済規模は、2019年、14.2倍の2兆9800億ドルに成長。この間、世界全体では4.6倍の拡大であることから、実に急速な成長であることがわかります。
一人当たり実質所得の増加も、世界平均が2.2倍である一方、ASEANは6.0倍になっています。
途上国として出発した東南アジアの各国は、その安い賃金を背景に、先進国の工場進出を次々と受け入れてきました。例えば日本の自動車産業。特に1980年代後半の急激な円高により、生産拠点を東南アジアに次々と設置していきます。「先進国の工場」となった東南アジアは、所得向上により、内需も拡大しました。
しかし、賃金が想定を超えて上昇すると、外資系企業の中には安い労働力を求めて、別の国・地域へ生産拠点を移転するところもあります。東南アジア経済の過剰な外資依存はリスクでもあるのです。
そこで現在、東南アジア諸国は域内で連携し、地域全体で経済の活性化を目指しています。その代表例が、2015年に完成したインドシナ半島を貫く経済回廊です。下の画像見ると、物流をスムーズにするための交通網が国境を越えて整備されていることが分かります。
ASEAN全体のGDPは、3兆1735億ドル(2019年)。日本の6割を超える数字です。一方、各国の所得水準は一様ではなく、発展の段階も大きく異なります。
シンガポールは高所得国であり、一人当たりのGDPは、日本をはるかに上回ります。マレーシアとタイ、インドネシアは上位中所得国に位置し、自動車やエレクトロニクスなどの産業が発展中。フィリピン、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスは下位中所得国であり、法制や加工組み立てなど、労働集約型の産業が中心です。
高所得で人口が多ければ、市場獲得型の投資先としては魅力的ですが、シンガポールやタイはすでに高齢化が始まるなど、成長停滞リスクも潜んでいます。一方、下位中所得国は労働賃金も安く、若年層が多いのが特徴です。インフラも整備途上で、今後も発展する余地が残されています。
シンガポールやクアラルンプール、ジャカルタ、バンコク、ホーチミン…… みなさんも一度は耳にしたことのある名前ではないでしょうか。これらの巨大都市では、現在東京とほぼ遜色ない生活を送ることができます。
水や電気などのインフラについての心配はなく、街にはコンビニや外食レストラン、ショッピングモールが。Wi-Fiが使用できる場所も多々あり、おおむね日本と変わらない生活が可能と言えるでしょう。
一方で、プノンペンやビエンチャンなどの中小都市ではインフラ整備はまだ進行中。こうしたインフラ開発には、日本企業も積極的に乗り出しています。
また、都市部と地方では、医療水準の格差が顕著に。マラリアやデング熱、狂犬病など熱帯気候特有の病気もあります。
東南アジアでは急速にデジタル化が進んでいます。インターネット利用者数は増加しているほか、携帯電話の利用者が特に多く、人口比の139%になっています。また、多くの人がスマートフォンだけでネットにアクセスしている点が特徴です。こうした現象は離島や山岳地帯にいたるまで見られ、重要な情報収集ツールになっています。
都市部で公共の無料Wi-Fiが増えているだけでなく、電子決済が可能な店舗も増えており、キャッシュレス決済は今後もますます浸透していくと考えられます。
インターネットの普及により、人々のライフスタイルは大きく変化しています。インターネットとSNSに費やす時間は世界一といわれており、下の図のように、1日当たりの利用時間を比較すると東南アジアの国々が上位を占めています。
日本がおよそ4時間半(インターネット)であるのに対し、1位のフィリピンではなんと11時間弱、その他東南アジアの国々でも8~9時間と、日本よりはるかにインターネットを積極的に活用する社会と言えるでしょう。
Eコマース(電子商取引)も主要な購入手段になりつつあり、アリババ系のLazadaやシンガポール系Shopeeなどが有力なプラットフォーム。日本ブランドも人気で、これらのプラットフォームを通じて、販路を広げる「越境EC」に挑戦する日本企業も急増中です。
東南アジア各国において、日本製品は技術、品質、耐久性等の面で高く評価されており、あこがれの的です。さらに親日家が多く、東南アジアは、日本企業・製品が「入りやすい」市場となっています。
こちらの動画では、東南アジアからの日本への認識について概説していますので、本講義の最後にご覧ください。
以上、助川先生による特別講義でした。前回、前々回とあわせて、東南アジアについての知識を大きくアップデートさせることができたのではないでしょうか。より詳しく知りたい方は、『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』をぜひご一読ください♪
助川先生、ありがとうございました!
6億超の人口を抱える東南アジアはGDPの成長も著しく、生産拠点としての機能だけでなく新しいビジネスが次々と生まれる新興市場として注目を浴びています。世界各国の大手企業が続々と進出している昨今、東南アジアの成長は世界の関心を集め、ビジネス発展の一大市場となっているのです。
日本企業ももちろん例外ではありません。様々な業種の企業が東南アジアに拠点を置き、親日感情も相まって、現地に暮らす人々の生活に深く浸透しています。
たとえば、日系のコンビニは現地法人との提携をあわせると2万店前後に。ほかにも自動車・バイク・家電・金融・飲料・食品・アパレルなど、多岐にわたる業種・企業が東南アジアで市場を開拓しています。
親日感情が高く今後も更なる発展が期待される東南アジアは、ビジネスを展開する上で有望な地域。教養として知っておく必要があるのです。
そんな「東南アジア」はそもそもどこからどこまでの何カ国を指しているのか?「東南アジア」と「ASEAN」は何が違うのか?国ごとの文化・宗教の違いや最新情勢は? 本シリーズのコンセプトである見るだけでスッと頭に入るわかりやすい特別な図解で、地理や歴史などの基本的な情報から最新の経済シーンや現地の人々の暮らしに至るまで、東南アジアについて体系的に理解し、一歩進んだ会話ができるようになる一冊です。
本書では東南アジア全域についての詳しい解説に続いて、国ごとの特徴も紹介。更に地域内での関係性や日本・中国・アメリカなど域外国との関係性もしっかりおさえ、「東南アジアの今」がどんどん理解できるようになります。
1992年よりジェトロ(日本貿易振興機構)勤務。タイ・バンコク事務所主任調査研究員、地域戦略主幹(ASEAN)など20年にわたり東南アジア関連業務に従事。2017年に国士舘大学へ。20年に現職。東南アジアの経済・通商戦略など企業向け講演も多数行う。
共著書に『ASEAN大市場統合と日本』『ASEAN経済共同体と日本』『日本企業のアジアFTA活用戦略』(共に文眞堂)、『アジア太平洋地域のメガ市場統合』(中央大学出版部)、『ASEAN経済共同体―東アジア統合の核となりうるか』(ジェトロ)など多数。