2021.06.10

国士舘大学教授・助川成也先生に聞いた! 「次に来る」巨大市場、東南アジアを知れば新しい時代のビジネスが見えてくる! Part. 2 ASEANについて学ぼう

助川成也(すけがわ・せいや) 国士舘大学政経学部教授。1969年、栃木県生まれ。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。中央大学経済研究所客員研究員、亜細亜大学アジア研究所特別研究員、国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員、東アジア共同体評議会有識者議員。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。専門はタイを中心とした東南アジア経済、FTA等の通商戦略。 1992年よりジェトロ(日本貿易振興機構)勤務。タイ・バンコク事務所主任調査研究員、地域戦略主幹(ASEAN)など20年にわたり東南アジア関連業務に従事。2017年に国士舘大学へ。20年に現職。東南アジアの経済・通商戦略など企業向け講演も多数行う。

 前回は、国士舘大学の助川成也教授に、東南アジアの現況について解説していただきました。今回のテーマは、東南アジア10か国が加盟しているASEAN(東南アジア諸国連合)について。それでは助川先生、お願いします!

 

 こんにちは。国士舘大学の助川成也です。今回は、東南アジアを語るうえで欠かすことのできない、ASEAN(東南アジア諸国連合)について解説いたします。

尊重し合う共同体「ASEAN」の光と影
全会一致と内政不干渉がASEANのルール

 さて、ASEAN(東南アジア諸国連合)は、東南アジアの政府間組織です。東南アジアの国々11か国のうち、現在10か国が加盟しており、残る1か国の東ティモールはオブザーバーという位置づけです。年に2回の首脳会談が行われ、議長国はアルファベット順で毎年変わります。その他、閣僚会議も行われ、経済や防衛、教育など、あらゆるテーマについて協議されます。

 

 ASEANの特徴は互いを尊重し合う姿勢です。加盟国は対等であるという考えが根底にあり、基本的に全会一致で意思決定が行われます。事実上、加盟国すべてが拒否権を持つ仕組みで、国によって発言権に大小があるEU(欧州連合)とは大きく異なります。

 

 もう一つの大きな特徴が、内政不干渉の原則。つまり、他国の国内事情には口を出さないことです。ASEANでの決定事項は各国が自発的に実行することも原則で、極めて緩やかなルールになっています。

 

 前回の講義で説明したように、東南アジア諸国は、宗教や文化などさまざまな点で多様性に富んでおり、各国の個別事情、価値観、思想などの相違への配慮が欠かせません。したがって、意見が一致しない場合は、その事案を「棚上げ」します。国家間の対立を避け、チームワークを強める秘訣というわけですね。

 

 これらの原則や考えは「ASEAN Way」と呼ばれ、2007年に憲章にも盛り込まれました。

ASEAN Way のマイナスの側面

 ASEAN Wayは良いことばかりではありません。全会一致が必要ということは、たった1か国の反対で足並みがそろわなくなるということ。内政不干渉により、非民主的な政治が放置されれば、国際社会から批判を受ける懸念もあります。

 

 軍事政権時代のミャンマーが議長国となった2006年、人権侵害を問題視した欧米諸国が、ASEANとの会合をボイコットすると圧力をかけ、機能不全に陥ったことがありました。ミャンマーが形式上、自発的に議長を辞退することで収束しましたが、それでもASEANは内政不干渉の原則を維持し、現在に至っています。

信頼感を醸成し結束したASEANの強み

 ASEANの発足は1967年「バンコク宣言」を発出したことにさかのぼります。当時の加盟国は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5か国。アメリカとソ連の東西冷戦時代、共産主義国家であったベトナム、カンボジア、ラオスに対する「反共の砦」として結成されました。

 

 一つの地域としてまとまったASEANは、先進国からの投資を呼び込み、経済を発展させていきます。冷戦が終結した1990年代以降ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアが加わり、現在のメンバーが出そろいました。

 

 団結力を強めたASEANは、諸外国との集団交渉でも機能します。自国に無関係の問題であっても、他の加盟国のために協調し足並みをそろえて交渉するなど、世界で最も成功を収めた地域協力機構ともいわれています。

 

 さっそくその一例を覗いてみましょう。

一枚岩で戦った日本との合成ゴム問題

 1971年、日本の安価な合成ゴムが、タイやマレーシア、インドネシアの天然ゴム産業を圧迫していました。マレーシアは個別で日本と交渉を進めていましたが、ASEANにこの問題を持ち込み、加盟国は連携して日本との交渉にあたることを決定。日本はASEANの天然ゴム市場に不利益を与えないことを約束しました。

ASEAN経済共同体で実現する自由貿易と競争力強化
アジア通貨危機を乗り越えて強化されるASEANのネットワーク

 さて、次はASEANにおける貿易について学んでいきましょう。貿易といえば、政治・経済で非常に重要なことがらですね。

 

 関税などの障壁を削減・撤廃するFTA(自由貿易協定)や、FTAをグレードアップし、投資の自由化や人の移動も促進するEPA(経済連携協定)は、企業の多国間取引を活性化するだけでなく、消費者に他国の物品を安く届けるなど、多くの点でメリットがあります。

 

 ASEAN加盟国は1992年、域内の関税率を段階的に引き下げるAFTA(ASEAN自由貿易地域)に署名。加盟国の国際競争力を高めることを目指し、域内のFTAを構築しました。しかし、1997年、現地通貨の過大評価を投機筋に狙われ、アジア通貨危機が発生してしまいます。これは、各国の現地通貨が暴落し、経済が大混乱に陥った事象のことです。危機感を強めたASEANは、より広範な経済統合を目指し、EPAに近い、AEC(ASEAN経済共同体)を構想します。そして2015年、AECが正式に発足。現在は関税以外でも経済の一体化が進んでいます。

メガFTAの中で試される東南アジア

 世界中で進む「FTA」の仲間づくり。より広域な地域で自由貿易を目指す「メガFTA」は、トランプ政権時代に保護貿易路線をたどったアメリカや、EU離脱により先行きが不透明だったイギリスなどの影響で、複雑化しています。アジア・太平洋地域とのつながりが強い東南アジア諸国は、ASEANを超えたFTAネットワークに積極的に参入しています。

 

 アメリカの離脱で話題となったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、TPP11として引き継がれ、2018年に発効。日本やASEANの一部の国を含む11か国でスタートしました。一方、中国、インドなどを含む東アジアの16か国で構成されるRCEP(地域的な包括的経済連携)は、2020年に合意(インドは参加見送り)され、ASEANがその中心にいます。

 

 メガFTAは、企業にとってのASEANの活用方法の幅を広げるでしょう。

 TPPやRCEPについてもう少し掘り下げましょう。

 

 2010年に開始されたTPP交渉は、アメリカからの厳しい条件に翻弄されたあげく、2017年のアメリカの離脱により発効できなくなりましたが、残された11か国が協定を復活させるべく、一部修正して2018年12月に発効されました。ASEANからは、ベトナム、マレーシア、シンガポール、ブルネイが参加しており、タイやインドネシアが参加への関心を表明しています。

 

 

 RCEPは、ASEANと日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、インドが2013年以降交渉を続けてきた協定で、インドが離脱したものの世界人口・GDPの約3割を抱える巨大な経済圏形成を目指しています。関税の撤廃率は品目数で91%に上り、2020年11月の合意は大きな注目を集めました。

 

 TPPとRCEPを包含する、より広大なアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)も提唱されていますが、覇権争いを繰り広げる中国とアメリカを含むFTA構想であるため、交渉に至るかは見通せません。

仲が悪いわけではないけれど......錯綜する各国の力関係

 上の図は、東南アジア各国の力関係を表したものです。ASEANのルール上では、すべての国々が対等とされていますが、実際には政権の安定性や経済力によって力関係や発言力に強弱が生じています

 

 シンガポールをはじめとする島しょ部の国々は古くから海運の要衝であったために、速い経済発展を遂げていました。一方で、大陸部の国々は、長らく戦時下にあったことから、社会整備に取り組んだ時期が遅く、発展の度合いが発言力にも影響しています。

 

 各国の詳細な力関係や、米中との関係について触れた、より詳しい解説は『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』をご一読いただければと思います。

今回はここまで!

 助川先生による東南アジア特別講義、第2回でした!

 

 次回は東南アジアの「巨大市場の現況」について解説していただきます。お楽しみに!

 助川先生の解説動画はコチラ👇

東南アジアについてもっと詳しく知りたい方はコチラ👉『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』

 

出典:『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』

本記事は上記出典を再編集したものです。(新星出版社/大森)

イラスト:田中未樹

サクッとわかる ビジネス教養 東南アジア
助川成也 監修(プロフィールは下記参照)
【東南アジアは次のビジネスの中心!】
6億超の人口を抱える東南アジアはGDPの成長も著しく、生産拠点としての機能だけでなく新しいビジネスが次々と生まれる新興市場として注目を浴びています。世界各国の大手企業が続々と進出している昨今、東南アジアの成長は世界の関心を集め、ビジネス発展の一大市場となっているのです。

日本企業ももちろん例外ではありません。様々な業種の企業が東南アジアに拠点を置き、親日感情も相まって、現地に暮らす人々の生活に深く浸透しています。
たとえば、日系のコンビニは現地法人との提携をあわせると2万店前後に。ほかにも自動車・バイク・家電・金融・飲料・食品・アパレルなど、多岐にわたる業種・企業が東南アジアで市場を開拓しています。
親日感情が高く今後も更なる発展が期待される東南アジアは、ビジネスを展開する上で有望な地域。教養として知っておく必要があるのです。

そんな「東南アジア」はそもそもどこからどこまでの何カ国を指しているのか?「東南アジア」と「ASEAN」は何が違うのか?国ごとの文化・宗教の違いや最新情勢は? 本シリーズのコンセプトである見るだけでスッと頭に入るわかりやすい特別な図解で、地理や歴史などの基本的な情報から最新の経済シーンや現地の人々の暮らしに至るまで、東南アジアについて体系的に理解し、一歩進んだ会話ができるようになる一冊です。

本書では東南アジア全域についての詳しい解説に続いて、国ごとの特徴も紹介。更に地域内での関係性や日本・中国・アメリカなど域外国との関係性もしっかりおさえ、「東南アジアの今」がどんどん理解できるようになります。
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助川成也(スケガワセイヤ)
国士舘大学政経学部教授。1969年、栃木県生まれ。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。中央大学経済研究所客員研究員、亜細亜大学アジア研究所特別研究員、国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員、東アジア共同体評議会有識者議員。専門はタイを中心とした東南アジア経済、FTA等の通商戦略。
1992年よりジェトロ(日本貿易振興機構)勤務。タイ・バンコク事務所主任調査研究員、地域戦略主幹(ASEAN)など20年にわたり東南アジア関連業務に従事。2017年に国士舘大学へ。20年に現職。東南アジアの経済・通商戦略など企業向け講演も多数行う。

共著書に『ASEAN大市場統合と日本』『ASEAN経済共同体と日本』『日本企業のアジアFTA活用戦略』(共に文眞堂)、『アジア太平洋地域のメガ市場統合』(中央大学出版部)、『ASEAN経済共同体―東アジア統合の核となりうるか』(ジェトロ)など多数。
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