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2021.06.03

国士舘大学教授・助川成也先生に聞いた! 「次に来る」巨大市場、東南アジアを知れば新しい時代のビジネスが見えてくる! Part.1

助川成也(すけがわ・せいや) 国士舘大学政経学部教授。1969年、栃木県生まれ。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。中央大学経済研究所客員研究員、亜細亜大学アジア研究所特別研究員、国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員、東アジア共同体評議会有識者議員。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。専門はタイを中心とした東南アジア経済、FTA等の通商戦略。 1992年よりジェトロ(日本貿易振興機構)勤務。タイ・バンコク事務所主任調査研究員、地域戦略主幹(ASEAN)など20年にわたり東南アジア関連業務に従事。2017年に国士舘大学へ。20年に現職。東南アジアの経済・通商戦略など企業向け講演も多数行う。

 日本の南西、それほど遠くない場所にありながら、普段の生活ではあまり馴染みのない東南アジア。そこに広がる風景を、あなたはどのようにイメージしますか?水田が広がる牧歌的な農村、ヤシの木が並ぶ美しい海岸、貧困問題……。これらは、東南アジアにおける一つの側面にすぎません。

 

 現在、東南アジアは急速に発展、都市化しており、世界中の企業や政府、投資家が注目する地域です。経済成長率が高く、外資企業の参入が相次いでいるのです。域内累計6.6億人の人口や高い成長性、さらに治安が比較的安定していることから、近い将来、先進国入りを果たす国も現れるといわれています。

 

 また、日本企業も、新たな生産拠点や市場を求めて東南アジアに積極的に進出中です。海外拠点の10社に3社はASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国に位置(製造業は3社に1社)しており、既に東南アジアは私たちのビジネスにおいて欠かせない地域。いずれにしても、その実際の姿を予断なく知ることは不可欠です。

 

 そこで、今回から全3回にわたって『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』監修者の助川成也先生に、東南アジアの現況について解説していただきました。東南アジアについてもっと知りたくなること間違いナシ。

 

 今回は「東南アジアの基本情報」について。それでは先生お願いします!

 こんにちは。国士舘大学の助川成也です。まずは東南アジアについて、基本的なところを押さえておきましょう。

 

 東南アジアは11の国々からなり、人口は約6.6億人。日本の人口のおよそ5.5倍もの人々が暮らしています。東南アジアといえば、ベトナムやタイなど、旅行先としてよく名前が挙がる国がまず連想されますが、フィリピンやインドネシア、東ティモールなど、島国も数多く属しています。まずはこの11か国の位置関係をおさえておきましょう。

陸と海で構成される東南アジアの地理

 上の図にあるように、東南アジアは、大きく「大陸部」と「島しょ部」に分けられます。大陸部はインドと中国に挟まれたインドシナ半島にある地域を指し、ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマーの5か国から構成されます。

 一方で島しょ部は、太平洋とインド洋を分ける、マレー半島と無数の島々から構成される地域を指し、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、フィリピン、インドネシア、東ティモールの6か国があります。

 

 先ほど挙げたそれぞれの国々は、異なる民族が異なる言語、文化を持ち、宗教、政治体制、経済の発展度合いもバラバラです。そのため、「東南アジアはこうだ!」と語ることは困難。むしろ、多様な価値観が共存する、世界でも稀な地域であり、「ダイバーシティ」をまさに体現している活気あふれる地域です。

これぞ南国! 東南アジアの熱帯気候

 気候区分上、東南アジアは熱帯に分類されます。気温は年間を通じて高く、多湿なため、日本の夏のような蒸し暑い日が1年中続きます。雨量も多く、スコールと呼ばれる突然の強い降雨も有名です。

 

 大陸部には雨期と乾期があり、降水量が季節ごとに大きく変化することが特徴です。この雨期・乾期には、季節によって風向きが変わるモンスーンが大きく影響しています。

 

 一方、島しょ部は、年間の気温差が少なく、降水量も年中多い地域。シンガポールやマレーシアなど、赤道に近い国でも海に囲まれた環境などのおかげで、蒸し暑さはそこまで気になりません。

 

 このように高温多湿な東南アジアですが、ビジネスマンはジャケットを羽織ることがマナーであり、日本から出張する際には注意が必要です。

国内でも多様な、複雑すぎる民族と言語

 東南アジア各国の国境は、植民地時代に欧米諸国が民族やその居住域、国民の意思に関係なく人為的に定めたものです。近代以前から、現地には多様な民族が存在していましたが、第二次世界大戦後、植民地時代の国境を踏襲したまま各国が独立したという経緯から、東南アジア諸国には多様な民族が混在しています。

 

 概して、各国の多数派の民族は主に平野の都市部に、少数民族は山奥や離島に多く居住しています。

 

 それぞれの国は公用語で義務教育を行っているため、民族を超えたコミュニケーションは可能です。ただし、日常会話では、各民族各々の言語が使用されることも多々あります。

 

 東南アジアは総じて、民族や宗教の多様性に寛大です。しかし一部では、特定の民族を優遇する制度や、民族間の争いも未だ残る地域なのです。

政治、経済に影響を及ぼす外来の民族

 東南アジアには、各国の国籍を持った中国由来、インド由来の人々が数多くいます。特に、現地国籍を持つ中国系「華人」は、東南アジア社会や経済界の重要な構成員で、シンガポールでは人口の7割超を占めています。マレーシアには、華人よりもマレー人を優遇する政策も存在します。

1971年、マレーシア政府は「ブミプトラ」というマレー人優遇政策を開始。政府調達におけるマレー企業の優先受注や、雇用や大学入学におけるマレー人比率の設定を行いました。1960年代に華人が経済的優位に立っており、多数派のマレー人と華人の格差が拡大した状況を変えるためのものでしたが、現在でも一部の廃止されたものを除き、基本的には現存しています。
仏教、イスラム教、キリスト教......生活に深く根差すそれぞれの宗教

 

 東南アジアで信仰されている宗教というと、何を思い浮かべるでしょうか? 仏教? キリスト教? イスラム教? じつは、ヨーロッパにおけるキリスト教、中東におけるイスラム教のような、東南アジア地域全体を包含する形で信仰される特定の宗教はありません

 

 大陸5か国とシンガポールでは、仏教が多数派となっています。しかし、同じ仏教でも異なる流れを汲んでおり、ベトナムは日本と同じく大乗仏教が主流ですが、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマーの主流は上座部仏教です。

 

 植民地時代の文化が色濃く残るフィリピンや東ティモールではキリスト教が主要宗教だったり、マレーシアとインドネシア、ブルネイではイスラム教が多数派だったりと、国によって大きく異なります。過去には特定宗教の過激派による悲惨な事件も起こりました。

 

 しかし、それぞれの国民は寛容で、他宗教の行事を楽しむ光景も多く見られます。

インドで生まれた仏教は、ブッダの没後、大乗仏教と上座部仏教に分離しました。大乗仏教は多くの人が救われることを理想としますが、上座部仏教は個人が修行をして自力で救済されることを理想とします。

 助川先生による東南アジア特別講義、第1回でした!

 

 次回は東南アジア各国が加盟する共同体である、「ASEAN」について解説していただきます。お楽しみに!

助川先生の解説動画はコチラ👇

東南アジアについてもっと詳しく知りたい方はコチラ👉『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』

 

出典:『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』

本記事は上記出典を再編集したものです。(新星出版社/大森)

 

イラスト:田中未樹

サクッとわかる ビジネス教養 東南アジア
助川成也 監修(プロフィールは下記参照)
【東南アジアは次のビジネスの中心!】
6億超の人口を抱える東南アジアはGDPの成長も著しく、生産拠点としての機能だけでなく新しいビジネスが次々と生まれる新興市場として注目を浴びています。世界各国の大手企業が続々と進出している昨今、東南アジアの成長は世界の関心を集め、ビジネス発展の一大市場となっているのです。

日本企業ももちろん例外ではありません。様々な業種の企業が東南アジアに拠点を置き、親日感情も相まって、現地に暮らす人々の生活に深く浸透しています。
たとえば、日系のコンビニは現地法人との提携をあわせると2万店前後に。ほかにも自動車・バイク・家電・金融・飲料・食品・アパレルなど、多岐にわたる業種・企業が東南アジアで市場を開拓しています。
親日感情が高く今後も更なる発展が期待される東南アジアは、ビジネスを展開する上で有望な地域。教養として知っておく必要があるのです。

そんな「東南アジア」はそもそもどこからどこまでの何カ国を指しているのか?「東南アジア」と「ASEAN」は何が違うのか?国ごとの文化・宗教の違いや最新情勢は? 本シリーズのコンセプトである見るだけでスッと頭に入るわかりやすい特別な図解で、地理や歴史などの基本的な情報から最新の経済シーンや現地の人々の暮らしに至るまで、東南アジアについて体系的に理解し、一歩進んだ会話ができるようになる一冊です。

本書では東南アジア全域についての詳しい解説に続いて、国ごとの特徴も紹介。更に地域内での関係性や日本・中国・アメリカなど域外国との関係性もしっかりおさえ、「東南アジアの今」がどんどん理解できるようになります。
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助川成也(スケガワセイヤ)
国士舘大学政経学部教授。1969年、栃木県生まれ。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。中央大学経済研究所客員研究員、亜細亜大学アジア研究所特別研究員、国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員、東アジア共同体評議会有識者議員。専門はタイを中心とした東南アジア経済、FTA等の通商戦略。
1992年よりジェトロ(日本貿易振興機構)勤務。タイ・バンコク事務所主任調査研究員、地域戦略主幹(ASEAN)など20年にわたり東南アジア関連業務に従事。2017年に国士舘大学へ。20年に現職。東南アジアの経済・通商戦略など企業向け講演も多数行う。

共著書に『ASEAN大市場統合と日本』『ASEAN経済共同体と日本』『日本企業のアジアFTA活用戦略』(共に文眞堂)、『アジア太平洋地域のメガ市場統合』(中央大学出版部)、『ASEAN経済共同体―東アジア統合の核となりうるか』(ジェトロ)など多数。
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