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2026.06.02

「うーん、悪くはないけど…」提案しても反応がイマイチな人が見落としている“伝え方”以前に必要なこと

「どうしてあの人にはうまく伝わらないんだろう」

 そう思った経験は、誰にでもあるでしょう。同じ言葉を使っているのに、相手は誤解したり、反応が薄かったり。会議で意見を出しても、なぜか空回りしてしまう。そんなとき、多くの人は「話し方が下手なんだ」と思いがちです。

 けれど、実は“話し方”そのものよりも、「相手の文脈」をどれだけ理解できているかが、伝わる・伝わらないの分かれ道です。

 

 経営戦略、事業開発、マーケティング戦略、地域活性化などを専門とし、企業の中長期戦略策定や顧客起点の価値創造に関するアドバイザリーも多数手がける東秀樹さんは、「相手に伝わる話し方ができるようになるためには、物事や自分を客観的に見ることのできる『俯瞰力』が必要である」といいます。

「俯瞰力」とは具体的にどのような力なのか、またどうすれば身につけることができるのか? 東秀樹さんの著書『俯瞰力』から一部抜粋・再編集して解説します。

俯瞰力は「相手の文脈」を見る力

 たとえば、あなたが上司にプレゼンをしているとします。あなたは新しい企画を熱く語っていますが、上司の反応は今ひとつ。

「うーん、悪くはないけど、今は優先順位が違うな」その言葉に、少し落ち込みます。

 でも、よく考えてみましょう。上司が見ている“地図”は、あなたのものとは違うはずです。あなたは「新しいことに挑戦したい」という“個人の目線”で語っている。

 一方、上司は「限られた予算で部門全体をどう動かすか」という“全体最適の視点”で見ている。つまり、お互いが別の地図を見ながら同じ景色を語っているのです。

 

 俯瞰力とは、自分の地図だけでなく、相手の地図を想像して眺める力でもあるのです。どんな背景で、どんな責任を負い、どんなプレッシャーを感じているのか――その「文脈」を推測しながら話すと、伝え方が自然に変わります。

「今の提案は、今期の方針に合う形にすれば、もっと実現しやすいと思うんです」

 こう言えば、上司の視点を尊重しながら提案ができます。話し方の技術ではなく、見ている構造を一段引いて捉えることが、コミュニケーションを滑らかにするのです。

会話の“構造”を見抜く―「話す」「聴く」「感じる」の三層構造

 俯瞰力を持って人の話を聞いていると、会話がただの言葉のやり取りではなく、多層的なプロセスだとわかります。実際、どんな会話にも次の3つの層があります。

 

(1)話す層―言語として表に出る言葉

(2)聴く層―相手がどう受け取り、どんな反応をするか

(3)感じる層―言葉の背後にある感情・意図・雰囲気

 

 たとえば、会議中に部下が言う「大丈夫です」という一言。それをそのまま“話す層”だけで受け取ると、「任せて安心」と思うかもしれません。

 しかし、“感じる層”に耳を澄ますと、声のトーンや表情が微妙に硬い。俯瞰的にその場の空気を見れば、「何か懸念があるのでは」と察知できます。会話の上手な人は、言葉だけでなく、場全体の構造を見ています。相手の発言の背景、会議の流れ、チームの空気――それらをまとめて俯瞰する。だからこそ、タイミングを外さずに一言添えることができるのです。

 

「大丈夫そうだけど、何か気になることある?」

 この一言があるだけで、相手は安心して本音を話してくれます。「聞く」ことは、実は「見る」ことでもあるのです。俯瞰的に、“構造”を見て話す人は、信頼を得やすく、対話の質も格段に上がります。

苦手な人とも自然に通じる―感情のメカニズムを俯瞰する

 私たちはつい、苦手な人との会話になると、相手を「合わない存在」として切り離してしまいます。でも、俯瞰力を持って相手を観察すると、「合わない理由」にも構造があることが見えてきます。たとえば、あなたが「細かいことばかり気にする人が苦手」だとします。その相手をよく見ると、「失敗を恐れる責任感の強さ」や「慎重に物事を進めたいという信念」が隠れているかもしれません。つまり、あなたが“苦手だと感じる部分”は、相手にとっての“価値観の核”でもあるのです。俯瞰力は、そうした感情のメカニズムを客観的に捉える力です。

 

「なぜ私は今この人に苛立っているのか」
「相手は何を守ろうとしているのか」

 

 この2つの質問を自分に投げかけるだけで、会話の質が変わります。感情のぶつかり合いが起きても、俯瞰的に見ることで冷静さを保てます。怒りを感じたとき、「この状況の構造はどうなっているだろうか」と一歩引いて考える。すると、感情が「データ」として扱えるようになり、対話の主導権を取り戻せます。

 

 職場の人間関係も、家庭の言い争いも、同じです。感情を俯瞰することで、相手の本音や不安を受け止めやすくなり、言葉が通じるようになります。

話す前に「相手の地図」を描く具体的な方法

 ここで、実際に使えるシンプルなワークを紹介しましょう。名づけて「相手の地図を描くワーク」です。

 

■ステップ(1) 相手の立場を紙に書く

 話したい相手の名前を書き、その下に「この人は今、何を目標にしているか」「何に不安を感じているか」をできるだけ具体的に想像して書き出します。

 たとえば、上司なら「部署全体の成果を守りたい」「リスクを避けたい」、部下なら「成長したいけど失敗が怖い」、クライアントなら「予算を守りながら効果を出したい」などです。

 

■ステップ(2) 自分の立場も書く

 次に、自分が同じテーマをどう見ているかを書きます。「自分は成果を上げたい」「新しいことを試したい」「スピードを重視したい」などです。そして自分と相手の“視点の違い”を線でつなげる。この線こそが俯瞰力の源です。

 

■ステップ(3) 重なる部分を見つける

 最後に、両者の地図の中で「共通の目的」「安心できるポイント」を探します。「お互いに成果を出したい」「チームの雰囲気を良くしたい」など、重なり合う部分を意識して会話を設計してみてください。会話のスタート地点が“共通点”に変わると、驚くほどスムーズに伝わるようになります。

 

■「話し方」より「見方」を変える

 私たちは長年、「話し方のテクニック」を学んできました。声のトーン、ジェスチャー、間の取り方――それらは確かに大切です。けれど、どれも“表面の操作”にすぎません。本当に伝わる人は、相手の世界を“見ている”。言葉を発する前に、相手の置かれている状況、感情、背景を想像している。そのうえで、自分の意見を“相手の地図の中”で位置づけて話しています。

 つまり、「話す力」ではなく「見る力」が、最終的に人の心を動かすのです。俯瞰力を持つことで、会話の舞台全体が見えるようになり、誤解や摩擦が減っていきます。

 

■俯瞰的なコミュニケーションがもたらす変化

 最後に、ある企業研修でのエピソードを紹介しましょう。ある若手社員が、「どうしても上司と噛み合わない」と悩んでいました。話しても否定され、相談しても「それは前にもやった」と言われる。彼は「上司は理解してくれない」と嘆いていました。そこで、私はこの“相手の地図を描く”ワークを一緒にやってもらいました。すると、彼は気づきました。「上司は、僕の提案を否定しているんじゃなくて、自分が経験した失敗を繰り返させたくないだけなんだ」

 

 それ以降、彼は会話の切り口を変えました。「以前の経験を踏まえて、こう変えたらどうでしょうか?」と。驚くことに、上司の態度が一変し、二人の関係が改善しました。

「話し方を変えたわけではないんです。ただ、見方を変えただけで、全部が違って見えたんです」と彼は言いました。俯瞰力とはまさに、“見方の転換”によってコミュニケーションを変える力なのです。

俯瞰力を具体的に鍛えるための「5つの思考法」

 俯瞰力とは、全体と細部、そして未来の流れを同時に見渡す力のことであり、その力を鍛えるために知っておきたい5つの思考法は以下の通りです。

 

(1) 鳥の目:視野を高め、全体像をつかむ力

(2) 虫の目:細部に潜む本質を見抜く力

(3) 魚の目:変化の流れを読み、先を察知する力

(4) システム思考:複雑なつながりを整理し、全体最適を考える力

(5) メタ認知:自分の思考や行動を客観的に捉え直す力

 

 俯瞰力とは、特別な知識やスキルではなく、少し視点を広げて状況を見渡し、先を考えて行動を選べる「思考のクセ」のようなものなのです。

構造を見れば、言葉はいらなくなる

 コミュニケーションの本質は、相手の“内なる地図”を理解しようとする姿勢にあります。それは、相手を変える努力ではなく、自分の視座を一段高くする努力です。

 

 俯瞰力を持って会話をすれば、言葉の裏にある意図や感情が自然に見えてきます。結果として、無理に説得しなくても、相手は動いてくれる。テクニックではなく、構造を見ること。話すことより、見渡すこと。それが、俯瞰力がもたらす「伝わる話し方」の本質なのです。

出典:『俯瞰力 5つの思考法』

俯瞰力 5つの思考法 
東秀樹 著(プロフィールは下記参照)
多くの方は、日々のタスクに追われています。
膨大な情報の取捨選択や組織間の調整なども入り込みます。
その結果、努力が成果に結びつかないもどかしさを抱えています。
全体を見渡すことができず、部分最適に陥っていることが原因です。

この状況を打破するカギは「俯瞰力」です。

本書では、俯瞰力を具体的に鍛えるための「5つの思考法」を紹介し、実践していく方法を解説していきます。

5つの思考法とは、

・鳥の目:視野を高め、全体像をつかむ力
・虫の目:細部に潜む本質を見抜く力
・魚の目:変化の流れを読み、先を察知する力
・システム思考:複雑なつながりを整理し、全体最適を考える力
・メタ認知:自分の思考や行動を客観的に捉え直す力

です。これらについて具体例を多数挙げながら解説しているため、必要な実践力まで身につきます。
これらは、長年コンサルタントの現場で培った著者が大切にしているもので、できるプロフェッショナルに共通する一生役立つスキル。それが俯瞰力です。
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東秀樹(ヒガシヒデキ)
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 経営戦略グループ 主席研究員。
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 修士課程修了。総合商社で海外事業の企画・推進に従事し、アメリカ(ロサンゼルス、ニューヨーク)に二度駐在。現地法人のマネジメントやグローバル市場での事業展開、現地パートナーとのアライアンス構築を通じ、国際ビジネスの最前線で実績を積む。
帰国後、日本総合研究所に転じ、経営戦略グループの主席研究員として、多様な業種の企業に戦略立案や実行支援を提供。専門は経営戦略、事業開発、マーケティング戦略、地域活性化など。実務と理論を融合したコンサルティングを得意とし、企業の中長期戦略策定や顧客起点の価値創造に関するアドバイザリーも多数手がける。
また、出版やビジネス誌への寄稿、筑波大学大学院での非常勤講師、立命館アジア太平洋大学での講義などを通じ、実務経験に基づく知見を広く発信している。
著書に『チームの目標を達成するPDCA』(新星出版社)がある。
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