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2025.12.24

睡眠不足は肥満・うつ・認知症を引き起こす! 睡眠を左右する3つの環境因子とは

 日本人の睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最下位。メディアでの報道でご存知の方も多いでしょう。

 全体平均より約1時間も短いという結果もあり、日本人の睡眠不足に注目が集りました。

 では、睡眠不足が続くと、どのような影響が出るのでしょう。

 睡眠研究の第一人者で、国際統合睡眠医科学研究機構副機構長の櫻井武さんは、睡眠不足はさまざまな疾患の発症リスクが高くなるといいます。

 いったいどのようなリスクがあるのでしょうか。睡眠不足がもたらす影響や理想の睡眠環境について櫻井さん監修の『サクッとわかるビジネス教養 睡眠の新常識』から一部抜粋・編集してお届けします。

睡眠不足は健康の敵! 疾患のリスクを高める

 睡眠は単なる休息ではありません。睡眠中、からだではさまざまな修復作業が、脳では栄養補給と掃除が行われています。睡眠不足が続くとそれらがうまく機能せず、肥満、高血圧、糖尿病、循環器病、メタボリックシンドローム、うつ病、認知症など、さまざまな疾患の発症リスクが高くなります。

 

■睡眠時間は脳のお掃除タイム
 睡眠中は、脳脊髄液が老廃物を除去する機能が、活発になっています。睡眠時間は、脳にとって、情報を整理する時間であり、栄養補給タイムであり、お掃除タイムでもあるのです。

 

■ノンレム睡眠中は記憶の定着が行われている
 これまで、記憶や学習に重要な役割を果たしているのはレム睡眠だと考えられていました。

 しかし、むしろノンレム睡眠こそが記憶の強化に貢献しているようです。

 起きているときにえた記憶は、神経細胞同士をつなぐシナプスという装置にたくわえられます。シナプスは減ったり増えたりします、増えすぎると脳が機能しなくなるため、重要な記憶をたくわえたシナプスは強化される一方で、あまり重要ではない記憶をたくわえたシナプスは刈り込まれます。

 この一連の作業は、ノンレム睡眠中に行われているという説が、現在では主流です。ノンレム睡眠中に脳がスリープモードになるのは、感覚系の入力や筋肉への出力を控えて記憶の整理・強化に集中しているためだと考えられます。

 

 また、ノンレム睡眠のN3は「深睡眠」とも呼ばれ、シナプスの刈り込みのほかにも、心身にとって重要なはたらきをしています。

●疲労回復⋯副交感神経が優位になり筋肉の緊張がゆるむ。エネルギー消費が抑えられ、体力も回復する。

●免疫強化⋯感染症やがんといったさまざまな病気からからだを守る、免疫力が増強される。

●美肌・ダイエット効果⋯成長ホルモンの分泌により、肌のターンオーバーや代謝が促される。

●ストレス解消⋯ストレスホルモンであるコルチゾールが適切に分泌されることで、メンタルのバランスが整う。

睡眠不足と疾患の関係

【肥満】

 睡眠時間が短いと食欲を抑制するホルモン(レプチン)が少なくなり、食欲増進ホルモン(グレリン)の分泌が増えます。また、脂肪の蓄積も促進されます。このような理由から、寝不足は肥満のリスクを高めます。世界各地で行われた大規模調査からも、睡眠時間が短い人ほど太っている傾向があることがわかっています。

 

【うつ】

 睡眠時間が不足するとストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加し、気分の落ち込みや抑うつ傾向が強くなります。その結果、うつ病を発症するリスクが高まると考えられます。ジョンズ・ホプキンズ大学で行われた研究では、慢性的な不眠はうつ病の発生リスクが3倍になると報告しています。

 

【認知症】

 アルツハイマー型認知症の原因の1つとされるアミロイドβというたんぱく質も、脳にとっては老廃物です。レム睡眠が減るとアミロイドβの掃除が間に合わずに脳に蓄積され、認知症を発症するリスクが上がります。オーストラリアのスウィンバーン工科大学が行った調査では、レム睡眠が1%減るごとに認知症のリスクが9%増加していました。

眠りを左右する三大環境因子とは?

 睡眠になんらの不満があるなら、寝室の環境を整えてみましょう。眠りを左右する三大環境因子は「光」「温度」「音」です。

【①光】

「眠るときは完全に真っ暗に」するのが望ましく、寝室へのスマホの持ち込みはNGです。また、朝起きたら太陽の光を浴びるようにしましょう。

 

【②温度】

夏場の寝室の温度設定は24℃、冬場は20℃くらいがよいでしょう。

 

【③音】

寝室は無音がベスト。「眠れる音楽」は効果が薄いです。とはいえ、何を心地よいと感じるかは人によって違うもの。自分に適した環境をつくりましょう。

よく眠れる環境のつくり方は?

■「眠るときは完全に真っ暗に」する

 睡眠モードをオンにする要素の1つが体内時計であることはすでにお話ししました。体内時計は、目から入ってくる光によって、その時刻の補正がなされています

 午前中の明るい光は体内時計を前にずらします。一方、夕方以降の光は体内時計をうしろにずらしてしまいます。そのため、夕方以降も明るい環境に身を置いていると体内時計は後ろにずれてしまい、眠れなくなってしまうのです。

 体内時計のずれを防ぐには、夕方以降は部屋の照明を落として明るい光を浴びないようにすることが大切です。目安は100~200ルクス程度で、これは、本がぎりぎり読める程度の明るさ。色は暖色系がおすすめです。

 また、就寝中は寝室の照明を消して真っ暗にするのがベスト。それでは不安という人は、ロウソクや蛍光灯の豆電球程度の明るさの30ルクス未満なら睡眠へ影響しないでしょう。

■寝室へのスマホの持ち込みはNG

 質のよい睡眠をとりたいなら、ベッド(寝室)には、スマホを持ち込まないことをおすすめします。

 理由の1つはブルーライトです。スマホやタブレット、パソコンの画面から出ているブルーライトは、光のエネルギーが強く、目に入ると体内時計にずれが生じてしまいます。

 2つめは、スマホで見るSNSやゲーム、動画が与える脳への影響です。
 これらは刺激的な内容のものが少なくないため、報酬系にかかわり覚醒を高める作用をもつドーパミンを、脳内に放出させ、眠気を吹っ飛ばしてしまいます。
 その影響はブルーライト以上に深刻です。眠るときはできるだけ、スマホデトックスを心がけるようにしましょう。

■朝起きたら太陽の光を浴びる

 睡眠に大きな影響を与える体内時計は、脳の視床下部の視交叉上核(しこうさじょうかく)にあり、時計遺伝子のはたらきで機能しています。実は、時計遺伝子は、生殖細胞を除く細胞の1つひとつにそなわっているのです。

 時計遺伝子がサブクロックなら、体内時計はマスタークロック(中枢時計)。朝、太陽の光を浴びて体内時計がリセットされると、サブクロックである時計遺伝子が同調します。こうして体内時計と時計遺伝子は互いに活性化させたり抑制したりしながら、脳とからだを24時間という地球のリズムに同期しているのです。

 朝の光を浴びて脳とからだを地球のリズムに合わせれば、夜、スムーズに寝つける可能性が確実に高まります。快眠への準備は朝からはじまっているのです。

■快眠を助ける室温

 地球温暖化の影響で、日本の夏はどんどん暑くなっています。熱中症を防ぐためにも、睡眠中もエアコンをつけたほうがいいという報道を見聞きしたことがあるでしょう。では、エアコンの温度は何度に設定すればよいのでしょうか。

 動物が体温維持に特別なエネルギーを必要としない温度帯をサーモニュートラルゾーンといいます。ヒトのサーモニュートラルゾーンは22〜26心です。睡眠中は深部体温が1℃ほど下がり、サーモニュートラルゾーンも少し下がります。この点を加味すると、質のよい睡眠を得るのに適した温度は24℃前後です。

 ヒトは生物学的に、夏は睡眠時間が短くなります。だから夏こそ意識して、睡眠の質を確保する必要があるのです。

 では、室温コントロールは夏だけでいいかというとそうではありません。

 冬は厚手の寝具を使うため夏より低く、外気より少し暖かめの20℃前後がよいでしょう。

音は睡眠のためには避けたい刺激

 テレビを見ながら、あるいは音楽を聞きながら寝てしまう人もいるかもしれません。ですが、光と同様、音も質のよい睡眠のためには避けたい刺激の一つです。

 睡眠中は聴覚をはじめとする感覚系からの入力は鈍くなっていますが、完全に機能停止しているわけではありません。そのため、一定のレベル以上の音が聞こえる環境では寝つきが悪くなったり、中途覚醒が多くなったりすることが明らかになっています。

 なお、ネットには「よく眠れる」と謳った音楽がたくさん出まわっていますが、エビデンスはありません。

図書館並みの静かさでも睡眠には悪影響

寝室は無音がベスト。「眠れる音楽」は効果薄。

 

 睡眠に悪影響を与えるといわれる音のレベルは40dB以上です。40dBは図書館並みの静かさ。起きているときはなんとも思わない音でも、睡眠中は非常に気になってしまうのです。

 騒音によるストレスは睡眠障害だけでなく、高血圧症や心血管疾患の発症と関与しているという報告もあります。ベッドに入ったらテレビも音楽も消したほうが、睡眠環境としては理想的です。

出典『サクッとわかるビジネス教養 睡眠の新常識』

睡眠の新常識(サクッとわかる ビジネス教養)


櫻井武 監修(プロフィールは下記参照)
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日本人は諸外国と比べて睡眠不足です。あるデータでは、およそ10人に1人が不眠症に悩んでいます。とくにビジネスパーソンは自覚のない睡眠不足から不眠症へと発展することもしばしば。そんな時代を受けてか、快適な寝具、サプリメントや睡眠のアプリなど睡眠にまつわるビジネスが急成長しています。その市場規模は2024年に約6兆円、2030年には14兆円超になると推測されています。
そもそも睡眠は、体の休養だけでなく、脳の再構築や免疫の調整などに必要なもので、睡眠不足は健康にも仕事のパフォーマンス、ひいては国の経済力にも悪影響を及ぼします。日本人一人ひとりが適正な睡眠時間をとるよう心がければ、数十兆円規模の経済損失を防げる可能性があります。

また、睡眠負債(=寝不足)を解消するためには眠ることでしか返済できません。大切なのは平日の睡眠負債を少しでも減らすことです。つまり、いつもより30分早く寝ることが大切なのです。

本書の監修には令和7年度科学技術賞を受賞した、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS) 副機構長の櫻井武氏が初監修。
本書は今までの睡眠の常識が間違いだった「睡眠のシン常識」をイラストで解説します。

Chapter 1 睡眠のシン常識
Chapter 2 あなたの知らない睡眠の世界
Chapter 3 明日から使える快眠のヒント
Chapter 4 ビジネスパーソンのための睡眠ハック
購入はこちら
櫻井武(サクライタケシ)
筑波大学医学医療系教授、国際統合睡眠医科学研究機構副機構長。医学博士。研究テーマは「神経ペプチドの生理的役割」、とくに「覚醒や情動に関わる機能の解明」「新規生理活性ペプチドの検索」「睡眠・覚醒制御システムの機能的・構造的解明」。筑波大学大学院在学中に、血管収縮因子エンドセリンの受容体を単離。テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターに移り、柳沢正史教授とともにナルコレプシーの発症にかかわるオレキシンを発見。冬眠様状態を誘導するQニューロンを発見、マウスやラットに人工冬眠様状態を惹起することに成功。睡眠研究の第一人者。著書に『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』『睡眠の科学 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか 改訂新版』『SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか』(以上、ブルーバックス)など。
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