1973年6月23日生まれ。千葉県出身。97年に四段に昇段しプロデビュー。2002年に新人王に輝く。2007年、A級八段に昇級昇段後、2017年、九段昇段。2019年、第60期王位戦タイトル獲得。千駄ヶ谷の受け師」と呼ばれている。
みなさん、将棋の世界にようこそいらっしゃいました。
将棋はとても楽しいゲームです。コマの動かし方といくつかのルールを覚えれば、だれでもすぐに将棋を楽しむことができます。
今回、私が監修を務めた書籍『はじめてでもたのしめる かんたんマスター将棋』から、将棋のルールと動かし方、それぞれの駒についての考え方など、基本的な内容について解説していきます。今回は「得する駒・損する駒」についてです。ぜひこの夏に、トライしてみてください。
将棋の最終目標は、相手の「玉」を取る(詰ます)ことです。そのために互いの駒がぶつかり合い、取ったり取られたりします。このときにそれぞれの駒の「点数」を覚えておくと、不利な交換を避け、有利な交換を目指すことができます。
将棋の駒を見てみると、それぞれの駒の大きさが違っています。一番大きいのは王将と玉将で、次が飛と角、以下、金、銀、桂、香、歩、の順にだんだんと小さくなっていきます。
この駒の大きさは、そのまま「駒の価値」を表しているのです。表にすると次のようになっています。
取られたら負けとなってしまう玉は、最も価値が高く∞(無限大)の点がついています。玉を除いた駒では、飛が100点で価値が高く、次いで角が95点、金が60点、銀が55点、桂が35点、香が30点、歩が5点くらいです。この点数は厳密に覚える必要はありませんが、だいたいこんな価値なんだなということをおぼろげで結構ですので記憶しておいてください。
上の図を見てください。Aグループの飛と角は「大駒」と呼ばれており、最も価値の高いグループになります。
次のBグループは金と銀で、「金駒」(かなごま)と呼ばれるグループです。そしてCグループが桂と香、一番点数の低いのが歩です。
次にどちらかが駒を取った場合に、互いの戦力の点数がどうなるかを考えてみましょう。
下のA図では、まだ駒を取ったり取られたりしていません。ですから、まだ互いに600点ずつの戦力を持っています。
ここから☗3五銀(B図)と相手の歩を取ったとします。
歩を取った先手は、戦力が5点プラスされて605点になります。一方、歩を取られた後手は戦力が5点マイナスとなり、595点になりました。
歩の点数は5点ですが、互いの戦力点を比べると、取った人のプラスと取られた人のマイナスがあるため、倍の10点差がつきます。
次に、もっと大きな駒を取った場合を見てみましょう。
下のC図は、後手が5五に角を飛び出してきたところですが、この手は角をタダでとられてしまうことを、うっかり失念した悪い手です。
駒の点数を覚えたら、駒得を狙って指してみよう。相手の駒を取るだけでなく、成ることでも駒得になります。
戦力点がスタート時の点数(この場合は600点)よりも高くなった場合を「駒得」(こまどく)、600点よりも低くなった場合を「駒損」(こまぞん)といいます。将棋では、駒得している方が大体、有利に戦いを進めているといえます。
ですから、将棋の上手な戦い方は、まずは駒損をしないように注意して指し、チャンスがあれば駒得を狙うのがいいのです。
飛と角は、周囲に隙のない駒になり、利きが4つ増えます。大体20点くらいの戦力アップです。飛や角が成るチャンスがあれば、どんどん成りましょう。
銀、桂、香、歩は成ると金と同じ動きになりますので、金と同じ60点にパワーアップします。
ここで注意してほしいのは、銀が成ってのパワーアップは5点しか増えないのですが、桂⇒成桂(25点アップ)、香⇒成香(30点アップ)、歩⇒と(55点アップ)と、小さな駒ほど成ったときの戦力点アップが高いことです。
特に「歩が成ることは非常に価値が高い」ということを覚えておきましょう。
将棋にはいろいろな戦法がありますが、いずれの戦法にも「駒得」や「駒損」という考え方が根底にあります。また駒がぶつかり合い、駒が交換されたり、駒を取ったり取られたりするときにも「駒得」や「駒損」を考えることになります。
最初のうちは「駒得」や「駒損」が上手にできないので、なかなか勝つことができません。
逆にいえば、「駒得」や「駒損」を考えて指すことが将棋の上達にとっては不可欠なことなのです。
そこで、まずは「駒取りの法則」を覚えましょう。「駒取りの法則」を覚えれば、悪い手を考えなくなり、自然ないい手を考えることができるようになります。
上のA図を見てください。どちらも竜で金取りになっていますが、右の金は一人ぼっち(取られたらそれきり)なので、この金はタダで取ることができます。
一方、左の金は、一人ぼっちではありません。左の金には香が利いています。このように、駒に自分の駒が利いているものを「ヒモ付きの駒」といいます。
ヒモ付きの駒は「取られても取り返すことができる」ので、一人ぼっちの駒に比べるとはるかに強いといえます。
例えば、☗1四竜と金を取れば金をタダ取りしたことになり、自分の戦力がプラス60点、相手の戦力がマイナス60点となって、合計120点の駒得になります。一方、☗9四竜と金を取ると、☖同香と竜を取り返されてしまいます。金を取りましたが竜が消えてしまいましたから、こちらの戦力は、+60点(金)-120点(竜)で、合計60点のマイナス、相手の戦力は、-60点(金)+100点(飛)で合計40点のプラスになります。
互いの損得を合計すると、こちらが100点の駒損となるので、左の竜で金を取る手は損になります。
一人ぼっちの駒は「タダ取りできる」のですが、ヒモ付きの駒は「取ったら取り返される」のが大きな違いです。しかし、ヒモ付きの駒を取っても駒得になる場合があります。それは「安い駒で高い駒を取る」ケースです。
下のB図を見てください。香で銀を取ることができますが、銀には歩のヒモが付いています。こんなときは取る方がいいでしょうか、それとも取らない方がいいでしょうか。
上のE図から、☗2四飛(F図)と銀を取った場合を考えてみます。この手はヒモ付きの安い駒(銀)を高い駒(飛)で取ってしまいました。
このやりとりで、先手は銀を取りましたが(+55点)、飛を失いました(-100点)から、合計で45点のマイナスです。これは駒損です。
一方、後手は45点のプラスですから、先手は90点の駒損になりました。このように、高い駒でヒモ付きの駒を取ると、駒損してしまいます。
「と」は、相手に取られても歩に戻る安い駒なので、☗6三「と」、として金を取りましょう。☖同銀と取られても、金と歩の交換なので駒得になりますし、☖同銀の後に☗5三歩成として、さらに「と」で攻めることができます。
練習問題は解けましたか? このように、取ると得する駒、損する駒、について知っておくと、より踏み込んだ戦い方ができるようになります! さらに手の強さや駒組みの基本、序盤・中盤・終盤それぞれの考え方にも基本的なセオリーがあります。ぜひこの機会に将棋の基本をマスターしてみてはいかがでしょうか(さらに知りたい方は、こちらへ)。
※イラスト/井塚剛
※本記事は、下記出典を再編集したものです。(新星出版社/向山)
1973年6月23日生まれ。千葉県出身。97年に四段に昇段しプロデビュー。2002年に新人王に輝く。2007年、A級八段に昇級昇段後、2017年、九段昇段。2019年、第60期王位戦タイトル獲得。千駄ヶ谷の受け師」と呼ばれている。