今回のスペシャル対談は、長年にわたる豊富な鑑定経験を活かした丁寧な指導に定評があり、鏡リュウジ氏を主幹とする東京アストロロジー・スクールでも講師とチューターを務める賢龍雅人氏と、現在は作家として活躍中の元外務省主任分析官、佐藤優氏との対談をお届けします。
📕賢龍雅人の近著…『新ウェイト版フルデッキ78枚つき タロット占いの教科書』…224ページ大ボリュームのフルカラーの書籍に78枚のカードつき!一番おトクで一番使えるタロット占い本。
📕佐藤優の近著…『死の言葉』…全人類に共通する「死」について、「知の巨人」佐藤優が歴史に残っている偉人たちの言葉をピックアップし、死生観について語っている。
―自分で真剣に向き合わないときちんとした回答は出てこないー
佐藤優(以下、佐藤) 今回、新星出版社から『タロット占いの教科書』というタロットカード付きの書籍を出されたということで、今回はぜひお話を聞いてみたいなと思いまして。早速ですが、こちらはどういった形で起案されたものなんですか?
賢龍雅人(以下、賢龍) この本を作る前から、タロットやホロスコープなどの鑑定をしながら自分の講座をやりたいと思っていたので、そのためのテキストを作っていました。今回刊行した『タロット占いの教科書』は、それを基にしつつ、残りの半分くらいは僕が実際の鑑定でどういうふうにやっているのかをまとめたものです。ですので、占いに対する心がまえについての内容は、僕のこれまでの体験から書いている部分が結構あります。
佐藤 占いを学んだのは先生に師事されたのですか? それとも独学だったのでしょうか。
賢龍 僕は占いを始めてまだ15年くらいなのですが、じつは最初は占いに対してアンチの気持ちがありました。占いを始める前には音楽活動をしていたのですが、周りの音楽仲間がしだいに仕事を変えていき、活動していくのが難しくなってしまった。そのときに自分の生きていく術を考えた末、「自分がすぐに習得できそうで食べていけるもの」として選択したのが占いだったんです。学び方はいろいろありますが、僕は誰か一人の先生に師事して学ぶのではなく、ありとあらゆる先生の所へ行って学びました。
佐藤 たった一人の先生にだけ就く形だと、皆と同じ内容の占いになりますよね。賢龍先生はいろいろな先生に就いて多角的な学び方をしたから、書かれていることがとても面白いんだと思います。
なかでもこの書籍を読んで重要だと思ったのは、「自分自身が正直に、素直に自分をちゃんと見つめる」というところですね。曲がった心だと占いの内容も曲がって出てきますよ、ということをご指摘されているところです。
賢龍 有難うございます。とても嬉しいです。
佐藤 また、賢龍先生が「占いのアンチ」だったから、この本が面白くなっていると思います。最初から占いの世界が好きで、子どものころから占いに傾倒している人だったら、こういう作りにはならないのでは? と。
例えば、鏡リュウジさんの『タロットの秘密』(講談社現代新書)などの書籍が優れているところは、突き放してタロットのことを語っているということです。鏡リュウジさんほどの方がタロットの論理を対象化して示しているということがすごいなと思ったんですけども、やっぱりそれと相通じるものを強く感じたんです。
しかもこの本にはデッキ(カード)がついていて手に取りやすく、しかも個人的な問題などのところも解決できて、これだけわかりやすく書いてあるっていうのはすごいなと。正直、出版社からお近づきの印みたいな挨拶をされて手に入れた書籍だったのですが、その日のうちに読みふけっちゃってね。これは面白いから、きちんと書評をしないといけないと思ったわけです。それで、ある雑誌にこの本の書評を寄稿しまして、そこにも書いたのですが、この本に書かれている「タロットへの質問を決める」っていう部分がとくに面白い。
タロットについての本をいくつか読んでも、いろいろシャフルして出てきたカードの「読みかた」に内容が集中していて、どういう質問なのか、どういう問題意識を持つかというところがあまり書かれていないものが多い。それに対し、この本では、「タロットへの質問を決める」つまり、何をもってタロットに向き合うのかを自分自身できちんと考えて、真剣に向き合わないときちんとした回答が出てこない、と書いてある。賢龍先生の本はそうした部分をものすごく丁寧に書いてあるところが良いと思いました。
賢龍 ここは僕がとても大事にしているところなんです。
当初、占い舘に入って鑑定をしていたころ、相談者の方が満足して帰っているような感じがしなかったんです。どうしようかと思った時期に、ちょうど臨床心理学者の河合隼雄先生のカウンセリングシリーズ『河合隼雄のカウンセリング教室』(創元社)などを読んだのですが、そこに「とことん聞け」ということが書かれてたので、なるほどと思い、これを自分でも実践してみようと思ったんです。そして占う前に相談者からいろいろ話を聞いていくようにしたところ、「先生に話したらなんかスッキリしちゃったわ」と言ってくださる方もいらっしゃって。
占うことと併せて、相談者の話を「聞く」ということが重要であり、一つのカウンセリング的な形になるのかなと思いました。
相談者の方が何を悩まれているのかは、その場では混乱してこられる方がほとんどですので、ご本人に質問することもそうですけど、なるべくその質問に至るまでの背景や、何を知りたいのか、ということをじっくり聞くことも必要だと感じています。とはいえ、そこまで話すと一人に費やす時間がかなり長くなってしまいますが……。
―占星術は科学であるー
佐藤 ところで、タロットと占星術について私はこういうふうに考えているんですよ。近代は理性を重視して、A=B, B=CだからA=Cだという、そういった限られた考え方で近代の考え方ができているんだけども、それが今、限界に来ている。そして(世の中に)突然コロナが出てきたりとか、戦争が起きたりしている。
理性を重視する、思想を超えるという考え方は、ひと昔前にポストモダン(※脱近代主義)として流行しましたが、今(モダン)と違う思想を知るためには、さらにその前のプレモダン(※前近代的な考え)を知らないといけない。
このいわゆる「プレモダン」としての存在であるタロット・占星術は、現在ではサブカルとかちょっと端っこのほうに位置してるんですけれども、体系立てて捉えると、実は大学とか、小学校から大学まで教えている学問の全体の体系と拮抗するくらい実は大きいものではないか。私はそんな仮説をもっています。
歴史的に見ると、キリスト教から近代において禁圧さえされた占星術が、近代の中でうまく合わせることができて強く生き残った。これがタロットなのではないかと考えています。
キリスト教がなんで最初科学を嫌ったのか? それは、科学が魔術に似ているからなんです。
キリスト教の場合には、1回1回(の人間の行動に)神様が働いてるから、全ての人は違うのでは? という考えです。例えば、同じ渋谷で1960年の1月の18日に渋谷で10時2分に生まれた人だとしても、キリスト教的な考え方といったら全員違う人間なんです。
つまり、ホロスコープで何時何分にどこで生まれた人っていうことだったら、このように同じ結果が出てくるっていうのは、むしろ科学と一緒なんですよね。このような考え方の違いで、むしろ占いの考え方の方が近現代の主流なのではないだろうか? と。
そのような観点から現代の社会のある一面を考えたとき、占いの間違えた適用法として、例えば、「お受験神話」みたいなことが浮かび上がってくると思うんですよ。
つまり、難関校に子どもが入れれば、そのまま高収入の職につけて安定した人生を送れるなんていうのは、これは占い(的な思考)の誤使用。実際は、そんな単純な因果関係はありませんからね。
賢龍 なるほど。確かにそう捉えることはできますね。
賢龍 私が占いをするうえですごく気をつけなければいけないな、と思うところはいくつかありますが、特に気をつけるべき点は、占いは密室の鑑定場で行うということ。密室であるがゆえに、占い師はお客様の心を操ることができてしまう。だからこそ発言の一つ一つには非常に気を使います。また、相談者に対する「モラル」を守ることもとても重要なことだと思っています。
佐藤 そうですね。相談者との間に共依存の関係が悪い方向に生じたら、極端な話で言えば相談者への1時間の占いで100万円の料金だって取れてしまうわけで。現にそういうことをする人もいますからね。もし占い師の狙いがお金ということになってしまったら、大事な足場が崩れてしまいます。
賢龍 そうなんです。やはり占い師というのは、発言する言葉が特別なものになるということを自覚しておくべきです。言葉にすごく重みがあるし、相談者にとっては親が言ったことよりも響いてしまうことがある。また、相手の潜在意識に楔(くさび)を打ち込むような形になってしまうことさえもあるので、そのあたりもすごく意識していかないといけないですね。
また、佐藤先生が書評に書いてくださった言葉のなかに、「占いを分析する、質問を分析する」とありましたけど、これはまさにその通り。自分でやっている時はあまり気づかなかったんですけど、この言葉を佐藤先生からいただいたことで、改めて自覚することができました。「何を見たらいいのか?」ということをしっかり分析すること。そこからある程度のカウンセリング的なことが始まっているんですよね。この書評を読んでから、「占いを分析する、質問を分析する」という言葉を、自分の座右の銘というか、自分の中に肝に銘じておこうと思いました。
佐藤 賢龍先生のところに通うことによって、救われたという人がたくさんいる。だから、そうやって人を助けるっていうことのその部分が好きだという気持ちは大切ですよね。これ、きっとね、かつて賢龍先生が音楽で人を喜ばせるということが好きだったということと通じているんじゃないかとも思いました。
それからもうひとつ。いまこうして賢龍先生の話を伺いながら、私、かすかに影響を受けているなと感じたことがあるんです。徳川十五代将軍の徳川慶喜の孫で、日本のプロパガンダ戦の中心にあった池田徳真さんという人がいるんですが、この人が書いた『プロパガンダ戦史』(中公新書)という書籍のなかに、プロパガンダの本質は、物事を人に影響を与える形で記述するということであるという定義が示されています。これは今最先端のインテリジェンスの技法でもあるわけなんです。賢龍先生の中にはこの技法がすごく埋め込まれてるので、それをそうやって解き明かしていって、タロット、占星術の間口を広げていったら、また新たに面白い本ができるのではないかと思いました。
占星術の世界と現実の世界との架け橋的な存在として、これからもさらにご活躍いただけることを祈っております。
本日はありがとうございました。
賢龍 ありがとうございました。
鏡リュウジ氏を主幹とする東京アストロロジ ー・スクールでも、講師とチューターを務める。占星術ソフトやアプリにも精通し、様々な占星術書にマニュアルを寄稿。
著書にマイ・ホロスコープ BOOK シリーズ『本当の自分に出会える本』『本当の恋愛・結婚観がわかる本』『本当の仕事・お金観がわかる本』(説話社)がある。
🌟新星出版社からの近著…『新ウェイト版フルデッキ78枚つき タロット占いの教科書』
224ページ大ボリュームのフルカラーの書籍に78枚のカードつき!一番おトクで一番使えるタロット占い本。👉書誌情報ページ
1985年に同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省に入省。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
『読書の技法』(東洋経済新報社 )、『勉強法 教養講座「情報分析とは何か」』(KADOKAWA)、『危機の正体 コロナ時代を生き抜く技法 』(朝日新聞出版)など、多数の著書がある。
🌟新星出版社からの近著…『死の言葉』
全人類に共通する「死」について、「知の巨人」佐藤優が歴史に残っている偉人たちの言葉をピックアップし、死生観について語っている。👉書誌情報ページ