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【古文・漢文講師 岡本梨奈先生】
ピアノの道から古文講師の道へ!
~「好きなこと」と「やりたいこと」が合致―
それが古文講師の道へのはじまりだった~
大阪教育大学・教養学科芸術専攻音楽コース(ピアノ科)卒業後、予備校講師となり、映像授業にも多数出演されている岡本梨奈先生。フランス・アルザス地方にレストラン研修生として留学などの経験も持つ岡本先生ですが、現在はスタディサプリのほか、高校の学校内予備校にも出講し、古文・漢文を教えていらっしゃいます。今回は、岡本先生の幼少期から今に至るまでの道のりをお話しいただきました。
――現在、スタディサプリの古文講師として大活躍中の岡本先生。小社刊の『古文単語キャラ図鑑』や『万葉集キャラ図鑑』では、オリジナルのイメージキャラクターを通じて古文の楽しさを教えてくださっています。そこで今回は、岡本先生にとって古文とはどのような存在なのか、これまでのエピソードとともにお話しいただきたいと思います。ではさっそくですが、子どものころの岡本先生についてお話しいただけますか?
私は大阪府出身なのですが、祖父母が島根県隠岐の島に住んでいたこともあり、折に触れ自然を楽しむことができました。そのおかげで動物が大好きでした。なかでも水辺で見るヤドカリやザリガニなどが好きで、特に好きだったのはサワガニです。甲羅の模様が笑った口元のようで、にっこり笑っているように見えるのが、たまらなくかわいかったです(笑)。
子どものころの憧れは、ズバリ、料理人でした。私たちにとって「食」はないと生きていけないものですが、あらゆる食材をあっという間に魅力的な料理に仕上げていくその姿を見るにつけ、男女問わずかっこいい! とひそかに思っていました。
動物や食への関心が高かった私ですが、3歳のころからピアノのレッスンを続けており、地元の音楽教室のコンクールなどで賞をよくもらっていましたので、小学校高学年のころになると音楽好きだった母親と練習熱心な先生から将来は音大へ、という話がでてきました。私自身としては、「ピアノが大好きで進みたい」というよりも、どちらかというと周囲からの勧めで「そうするものなんだ」という意識の方が強かったです。
――周囲の勧めから音大を目指すことになったとのことですが、実際に進学するまでの間、どのような学校生活を送られてきたのでしょうか? やはりピアノ一筋といったかんじだったのでしょうか?
中学校に入学するときには、すでになんとなく音大を目指す流れにはなっていましたが、まだはっきりと決めたわけではなかったこともあり、仲の良い友人たちとテニス部に入部しました。とはいえ、運動するのがもともと得意ではなかったので、練習するのが苦痛でした。ピアノももちろん続けてはいたのですが、練習する時間が減ってしまったことを、あるとき先生からものすごく叱られてしまいました。結局、テニスは長続きさせることができず、2年生のときに退部しました。内心、テニス部でのきついトレーニングをしなくてよくなったので正直ほっとした部分もありましたが(苦笑)、そのぶん、ピアノ以外の選択肢がなくなり、「もう音大を目指すしかないんだ」という気持ちになりました。
高校に入学してからもピアノ中心の生活は続きました。楽譜などの教材費やレッスンに通う交通費、大学受験に向けての模擬試験代くらいは自分で出そうと思い、アルバイトもしました。
そしていよいよ大学受験。現役では無理だと言われていた大学を1つ受験したのですが、合格するには至らず、浪人生活を経て大阪教育大学・教養学科芸術専攻音楽コース(ピアノ科)に進学しました。
――大学のピアノ科に進学された岡本先生が、どのようなきっかけで古文の楽しさと出会ったのでしょうか?
さきほど、大学に入学するまでの間、浪人生活を過ごしたとお話ししましたが、そのとき通っていた予備校で受講した古文の講義をきっかけに、楽しさを知りました。古文というと、それまでは正直なところ「暗い」とか「眠くなる」というようなマイナスイメージしかなかったのですが(苦笑)、その講義はとてもわかりやすく、始まったと思ったらもう終わりと感じるくらい、あっという間でした。
そこから古文に対する印象が変わりました。勉強すればするほど点が取れるようになり、「浪人してよかった!」と思えるほどに。自分から進んで古文を読み、その楽しさを感じるようになってから大学へ進学しました。
――浪人してよかったと思えるほどの楽しい授業とは、なかなか味わえないものですね。その後、大学生活はいかがでしたか?
大学ではピアノをソロで演奏するよりも、声楽を学んだり、他の楽器の伴奏をするほうが楽しかったですね。なかでも貴重な思い出として残っているのは、夏休みの集中講義で雅楽を学んだときのことです。暑い中、酸欠で倒れそうになりがら篳篥(ひちりき)や笙(しょう)を吹く機会があったのですが、なかなか体験することのできない雅楽に触れられたことがとても嬉しく、また楽しかった予備校での古文講義を思い出したりもしました。
音楽専攻ならではの貴重な体験も。
そしていよいよ、卒業後の進路を決める時期になりました。ピアノの道をこのまま進むことは難しいと感じ、どうしようかと悩んでいたまさにそのとき、ある予備校で古文講師を募集していることを知りました。その募集内容を見たときに、「これだ! この仕事をやってみたい!!」 という気持ちが心の奥底から沸き上がってきたのです。そこからとにかくみっちり古文の勉強と授業練習をし、予備校講師になる試験を受けることに。大学で古文を学んではいませんでしたが、筆記試験と面接試験、さらに模擬授業に臨み、合格することができました。
大学を卒業して就職すると、すぐに専任講師としてのスタート。いきなり100人以上もの高校生を目の前に講義をすることになりました。
――高いハードルを越え、古文の講師になられたのですね。初めての講義でいきなり壇上に上り、100人以上の前で話すことになるとは、さぞかし緊張したのではないですか?
それが、全く緊張しませんでした。これには自分でも驚きました。とにかく、古文の面白さを伝えたい! という気持ちの方が強く、自分からやりたくて選んだ道でしたので、緊張するどころか、「どんな話をしようかな? こんなことも話してみたい、あんなことも話してみたい」という気持ちがあふれていたからだと思います。能動的になれば、自然に積極性も身につくものだと実感しました。
――ここで、岡本先生の「好きなこと」と「やりたいこと」が合致したのですね! そこからはずっと予備校の講師を続けていらっしゃるのですか?
じつは、7年ほど予備校講師を続けた後、いったん退職して他の道を試してみたことがあります。生徒のみなさんと進路について話すとき、「人生は一度なのだから、やってみたいことがあれば、諦めずにやってみたら?」と返していましたが、そう言っている自分に対し、「じゃあ、自分は本当にやってみたいと思ったことをちゃんとやってきたのか?」と問いかける自分がいて……。
そんなときに子どものころ料理人への憧れを抱いていたことを思い出したのです。古文講師をずっと続けていくのもいいけれど、何もチャレンジしていないのに諦めた自分を嫌だなと思ったので、思い切って調理学校に入学しました。そして、フランス料理を学ぶため現地へ留学し、日常会話を話せる程度にフランス語も習得しながら料理の勉強をしたのですが、何をやるにしても自分は作業が遅い。残念ながら自分には向いていないという結論に達し、料理を生業とすることは諦めて帰国しました。
その後、日本語教師の資格まで取ったりもしましたが、いざ就職先を探してもピンとくるものはなく、つい、古文講師を募集しているところを探してしまう自分がいました。一度辞めてから数年間の月日が過ぎていましたが、ある大学受験専門塾の試験を受けてみることにしました。その結果、合格することができ、再び古文講師に復帰。それからというもの、「やはり古文を教えることは楽しいな。この仕事が好きだな」とひしひし感じるようになり、改めて「この仕事を選んでよかった」と思うようになりました。そして数年後にスタディサプリへ移り、今に至ります。
――古文を教え続ける間にも、かつてやってみたいと思ったことにもチャレンジされ、そのうえで向いているかどうかを確かめながら前に進んでこられたのですね。
そうですね。紆余曲折はありましたけど、人生は一度きりですから。興味を持ったことがあれば、ひとまずやってみることは大事だと思います。いくら好きなことであっても、向いていない場合もありますし。私自身、向いていないと諦めたこともいろいろありますが、やってきたことに対しては、まったく後悔していません。
初めから夢を持っている人は素晴らしいですし、それが自分に合うと思えれば理想ですが、私の場合はそうではありませんでした。ですが、ふとしたことをきっかけに、新たな道が開ける場合もあるので、それを見逃さないことが次への布石になるのではと思います。
そのためには、待っているだけではなく、動き続けること。動いていればいつか何らかの契機にぶつかる時が来ると思うので、これからもワクワクドキドキすることに出逢えたら躊躇なくやってみたいと考えています。
紆余曲折ののち、再び古文講師の道へ。やはりこの仕事が好きなのだ、と思う自分がいたー。
――また何かチャレンジされた際には、パワフルな岡本先生の素敵なお話を聞かせていただきたいと思います。最後に、古文の楽しさを知りたい方々に、「古文のここを押さえておくと面白くなる」というポイントと、初心者向けの読みやすい書物があれば教えてください。
古文を読解するためには「情報分析能力」が必要だと、普段の講義でよく話しています。文法を学習する際には「助動詞が重要」と言われますが、要領よく学習するためには、用言(動詞、形容詞、形容動詞)をまず押さえること。助詞については、ある程度決まったものを覚えておけば、公式を解くように読むことができます。もちろん基本的な単語や文法を覚えることは必要ですが、単語ひとつとってみても、昔と今とで意味が全く正反対になっているものもあれば、同じものもあります。覚えるコツは、言葉のもつ大元の意味をしっかり覚えておくこと。語源を理解していれば、文脈に合う意味を推測することができます。
また、その時代の一般常識(=「古文常識」)をある程度押さえておくことがとても大切です。そこには、その時代特有の慣習があるからです。たとえば、男女の恋愛について一例をあげますと、今から1000年前の時代では、夜、男性が女性のもとに3日間続けて通えば結婚が成立するというルールがありました。このような時代背景を知っておくと、とても理解しやすくなりますし、面白さも感じられると思います。
初心者向けの読みやすい物語としておすすめなのは、『伊勢物語』や『宇治拾遺物語』。個人的に面白いと思うのは、『源氏物語』『雨月物語』です。『枕草子』も実は毒舌で、面白いですよ。今まで苦手意識を持ったままという方も、機会があれば、ぜひトライしてみてくださいね。
◆「『好きなこと』が『やりたいこと』と結びつくこともあれば、そうでないこともある。興味があればやってみよう。そこから向き不向きを判断するのも大事である」
◆「待っているだけでは何も変わらない。動いていれば、いつか何らかの契機にぶつかる時が来る。それを見逃さないことが次への布石となる」
◆「能動的になれば、自然に積極性も身につくものである」
◆「古文を読解するために大事なことは、じつは理系的な論理思考や『情報分析能力』である」
(取材・文 向山邦余)