こんにちは! 前回に引き続き、微生物の勉強をしていきましょう。今回のテーマは、お酒に関係する微生物。名前だけなら聞いたことのある方も多いはずですから、肩の力を抜いて読んでいってくださいね。
「コウジカビ」は、日本酒、焼酎、泡盛などの酒類や、みそ、しょうゆなどの発酵食品の醸造に利用される微生物です。ホウキ状に広がった菌糸の先端から、デンプンやタンパク質を分解する酵素を大量に生み出す作用を持っており、このちからを借りて、先に挙げたような食品の醸造を行うのです。
例えば、日本酒は蒸した米にコウジカビを振りかけて「麹」をつくり、この麹と米を混ぜることで、米のデンプンをブドウ糖に分解します。日本の食文化において欠かすことのできないコウジカビは、日本醸造学会から「国菌」に認定されています。
その一方で、ぜんそくや肺炎、出血性壊死といった症状が出る「アスペルギルス症」の原因になるなど、病気を引き起こすこともあります。他にも、食品上でカビ毒を生み出し、人体に有害なコウジカビの仲間も存在します。
「酵母」は空気中や土壌、水中などどこにでもいる単細胞性の真菌類の総称です。糖を分解し、エタノール(アルコール)と二酸化炭素を作る発酵を起こすことから、酒やパンなどの発酵食品づくりに利用されています。
酵母が学術的に発見されたのは17世紀のヨーロッパといわれていますが、人類はそれ以前から、自然界の酵母を酒造りなどに利用してきました。現在、発酵食品に使われる酵母は、調理に適した種類を自然界から分離して、人工的に培養したものです。
例えば、パン生地の材料であるイーストや、日本酒造りに適した清酒酵母、ワインづくりに使われるワイン酵母などがあります。
このように有用性が高い酵母ですが、本来の「単細胞の真菌類の総称」という意味では、マラセチア菌やカンジダなどもその仲間であり、人間に対する病原性があるものも存在します。
酢は、穀物や果実を原料とする醸造酒からつくられます。その際、醸造酒に含まれるアルコールを分解し、酢酸をつくる細菌の総称が「酢酸菌」です。
ほかにも、糖類を分解してセルロース繊維をつくる性質を利用し、ナタデココや紅茶きのこ(コンブチャ)の生産にも役立てられています。
酢酸菌は自然界に存在し、アルコール度数が低い酒の表面に膜を張るように増殖し、酢に編成させることもあります。「酒づくりに失敗すると酢になる」というのは、このような酢酸菌のはたらきによる現象です。
こうした性質から、紀元前4000年ごろ、酒の醸造とほぼ同時期に酢もつくられはじめたといわれています。
さいごに、少しだけむずかしくて大切なおはなしを。酢酸菌は「グラム陰性菌」と呼ばれる分類にあたります(細菌を染色して分類する「グラム染色」という手法を行った際に赤くみえるもののこと)。近年の研究で、このグラム陰性菌は花粉症などのアレルギー症状を和らげるはたらきがあるとわかりました。人体に悪影響がないグラム陰性菌である酢酸菌は、アレルギー治療への注目が集まっています。
私たちの食生活は、微生物と切っても切れない関係にあることがわかっていただけましたか? みなさんに、微生物について少しでも詳しくなってもらえていたら、たいへんうれしく思います。以上、発酵食品に関係する微生物のおはなしでした。
※本記事は、下記出典をもとに、一部加筆し、再編集したものです。(新星出版社/大森)