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2024.09.17

更年期症状による離職者は女性46万人、男性11万人にも。
「更年期ロス」を防ぐ方法を高尾美穂医師が解説

「更年期ロス」という言葉が聞かれるようになりました。これは、更年期の症状が原因で、仕事にマイナスの影響が表れることを指します。更年期症状のために仕事を辞めざるをえなかった、人事評価が下がった、昇進を辞退した……などです。

 

 医学博士・産婦人科専門医の高尾美穂医師は、『悩み・不安・困った!を専門医がスッキリ解決 更年期 そしてなりたい自分に近づく方法』(新星出版社刊)で、次のように述べています。

 

 2021年に行われた大規模アンケート(「NHK」「女性の健康とメノポーズ協会」「POSSE」「労働政策研究・研修機構」「#みんなの生理」の共同企画により実施)では、治療が必要なレベルの更年期症状がある女性のうち、9.4%が「仕事を辞めた」と回答しました。この結果をもとに、40~50代女性全体で、更年期症状が原因で離職した人を推計すると、46万人に上るということです。

 

 いま日本社会では、女性の管理職を増やすことが求められていますが、働き盛りである40~50代が更年期に当たることが、その実現を遠ざける一因になっていると考えられます。

 

 このアンケートは男性にも行われており(男性の更年期の医学的定義はないが、ホルモンの減少が関係して不調が起こることがあると考えられている)、男性も、更年期症状が原因で離職した人は11万人に上ると推計されています。

 

 更年期症状による離職の経済損失は、男女合わせて年間約6300億円になるそうです。「更年期ロス」は社会全体で解決すべき課題となっているのです。

 

「更年期ロス」は女性だけの問題ではなく、社会全体で解決すべき課題となっている

 これまで、更年期を社会でサポートしようという意識は低いものでしたが、今後、休暇などの制度を整え、治療などによって改善する人をふやしていけば、「更年期ロス」は防ぐことが可能なはずです。

症状があっても8割の女性が受診せず

 厚生労働省が2022年に行った意識調査によると、「更年期症状が一つでもある」と回答した40代・50代の女性のうち、およそ8割の人が医療機関を受診していませんでした。

 

 受診していない理由については、「医療機関に行くほどのことではないと思うから」が最も多く、次いで、「我慢できるから」が多い回答でした。

 

 一方で、40代・50代で更年期症状が一つでもある人で、家事・外出・育児・介護・仕事を含む社会活動等において、影響が「かなりある」「とてもある」「少しある」と回答した人は合わせて約3割いました。つまり、症状があって、生活に影響があっても医療機関を受診していない人も少なくないということです。ちょっと心配な結果です。

 

 医療機関に行くほどではないと思っている人・我慢できるからという人は、実際に症状がどの程度なのか、「簡略更年期指数チェックリスト」でチェックしていただくと一つの目安になります。当てはまる程度を選び、点数を合計してみましょう。ただ、更年期世代は、更年期症状と似た症状が出る病気になりやすい年齢でもあるので、気になる症状があれば医療機関を受診したほうが安心です。

〈出典〉小山嵩夫、日本医師会雑誌109 ; 259-264.1993(一部改変)

【0~25点】
これまでの生活を続けていきましょう。

【26~50点】
食事、運動など生活習慣に注意して、無理をせずに過ごしましょう。

【51点以上】
婦人科や更年期外来を受診し、生活指導、カウンセリング、薬物療法などの適切な治療を受けることをお勧めします。

 

※ 医療機関を受診する目安などを評価したもので、スコアの数値自体が更年期障害を示すものではありません。

 私たちの親世代が更年期だったころ、世の中で「更年期」が語られることはほぼありませんでした。思うようには変わっていかないと感じるこの日本の社会も、そのころから小さな変化を積み重ね、女性の不調に向き合うことは、社会全体の課題である、という認識に移行しつつあります。

 

 ただ一つ、更年期の不調の診断には、課題があります。「生活に支障が出ている状態」が対策すべき対象である、という点です。つまり、ご本人の主観がとても重要なわけです。

 

「あまりよくわかっていない」から不安になる、「何をしたら良いのかわからない」から何となく心配、そんなみなさんに、一つだけはっきりお伝えしたいのは、「更年期の不調に対して医学的な対策方法は確立している」ということ。治療を受けることで我慢する必要がなくなることや、更年期以降の健康維持にも役立つことも考えに入れてみてください。

更年期症状はある程度軽くできる

 更年期症状全体についていえるのは、生活習慣を整えることによって、ある程度軽くなることを期待できるということです。そして、「〇歳くらいになると体にこんな変化が起こるから、早めに生活習慣を見直しておこう」という、先を予測した“あらかじめのセルフケア”がお勧めです。たとえば、「更年期には疲れやすくなるから、睡眠時間をしっかりとれる生活にしていこう」とか、「閉経後はコレステロール値が心配だから、食事と運動でカバーしよう」といったイメージです。
 

 セルフケアの要となる生活習慣は、自分の意思で変えられることが良い点であり、難しいところでもあるかもしれません。でも、内容はシンプルです。「食事」「運動」「睡眠」について見直して、いまと、これからの自分の健康を守るために必要なことを足したり、引いたりしていきます。

 

 食事と運動のバランスでありがちなのは、20代や30代と比べて運動量が減っているのに、食事のスタイルは変わらず、エネルギー摂取量を上回っているパターンです。

 

 食事の内容・量の見直しと、運動習慣がない人はいかに運動を生活に取り入れるかなど、両方向からの対策が必要になります。

 

 睡眠については、更年期には自律神経の乱れが影響して、深い睡眠を得られなくなることがありますが、睡眠時間が不足しているために不調が出やすくなることもあります。

 

 ですから、十分な睡眠時間をとることは何より大切ですし、自律神経の働きを整える生活習慣を取り入れることも大切です。

 

生活習慣を整えることによって、更年期症状はある程度軽くなることが期待できる

自律神経を整える生活習慣

 自律神経は本来、自分の意思ではコントロールできないものですが、そのように体を使ったり、環境を整えたりすることで、ある程度コントロールできます。「自律神経をコントロールできる人」になれるように、生活を工夫してみましょう。

 

①毎朝、同じくらいの時刻に起き、日光を浴びる 

 生活のリズムを整えることで体内時計が正しくセットされ、自律神経のバランスが整います。また、朝、日光を浴びるとその約14~16時間後に眠りを促すホルモンであるメラトニンが分泌されて、スムーズに眠りにつけます。

 

②日中は適度な運動をして、体をよく動かす

 適度な運動は、不眠やうつを改善するほか、自律神経のバランスを整える効果があります。日中に意識的に体を動かすことでぐっすり眠れるように、翌日に疲労が残らない程度の運動を行いましょう。

 

③夜は早めに休み、十分な睡眠時間をとる

 眠りにつくときに副交感神経が優位になり、朝起きると交感神経の働きが徐々に高まっていくという自律神経の自然なリズムが保たれるには、質の良い睡眠をとれていることが大切です。質の良い睡眠とは十分な時間が確保され、途中で目が覚めたり、起きた時に疲労感が残っていたりすることのない睡眠です。体と脳の疲労を回復させ、細胞を修復するためにも睡眠は重要です。

 

④ゆっくり呼吸する

 ここで紹介する「1分間に6回のゆっくり呼吸」や、ゆっくりした呼吸をしながら行うヨガもお勧めです。

 

【1分間に6回のゆっくり呼吸】

「4秒で吸う」「6秒で吐く」の呼吸をくり返しましょう。10秒で1呼吸、1分間で6回のゆっくりした呼吸です。ゆっくりした呼吸をするだけで副交感神経の働きが高まります。

⑤自分なりのリラックス法を見つける

 アロマテラピー、ヒーリングミュージックを聴く、大人の塗り絵、写経、漸進的筋弛緩法(力を入れ、そのあと一気にゆるめることをくり返す)など、自分に合う方法を見つけて生活に取り入れましょう。

更年期ロスを防ぐために

 女性にとって更年期は、人生の一つの節目で、折り返し地点でもあります。

 

 エストロゲンの変動に振り回されて、体調が大きくゆらぐこともありますが、この時期が過ぎれば、ゆらぎによる不調を感じずに過ごせるようになるでしょう。

 

 もちろん、更年期にもできるだけ不調に悩まされることなく過ごしたいものです。更年期ロスを防ぐためにも、自分が心地よいと思える体を手に入れるためにも、まず正しい知識を持って、正しく対処することです。

 

 正しい知識を持つだけでも、不必要な心配をしなくてすむようになりますし、治療や対策をすることの大切さもよくわかるでしょう。あとは、それを行動に移すだけですね。

 

 できる対策の中には、「生活習慣の見直し」も含まれます。更年期になれば、大きな不調はなくても、以前より疲れやすくなったり、寝付きが悪くなったり、食べすぎているつもりはないのに体重は増えたり……と、人それぞれ何かしらの変化があるものです。

 

 その変化に気づいたら、それまでの生活習慣をそのまま続けていいのか、何かできることがあるのではないかと、見直しをするきっかけにしましょう。

 

 ストイックになるということではなく、むしろ自分を甘やかす機会を持ったり、リラックス法を身につけたり、生活習慣を変える方法はいろいろです。新しい生活習慣は、思った以上に楽しいのかもしれませんよ。

出典 『悩み・不安・困った!を専門医がスッキリ解決 更年期 そしてなりたい自分に近づく方法』

イラスト 植木美江

 

本記事は、上記出典を再編集したものです。

イメージ画像 Shutterstock

更年期
そしてなりたい自分に近づく方法
高尾美穂 著(プロフィールは下記参照)
更年期の女性には、エストロゲンの分泌量が減ることでほてりや動悸などさまざまな不調があらわれる。本書は、さまざまな悩みや疑問、困りごとを解決して、この時期をできるだけ快適に過ごせるよう、対策やセルフケアを紹介。更年期の不調が解決するよう、また、更年期後の体と心も快適でいられるよう導く。

巻頭 更年期とその先の不安や悩みを解決しましょう!
第1章 更年期についての「思い込み」をなくすQ&A
第2章 更年期についての「不安」をなくすQ&A
第3章 更年期の悩みを「婦人科」で解決!
第4章 更年期の不調をセルフケアで緩和!
第5章 更年期から先の人生の不安を解決!
購入はこちら
高尾美穂(タカオミホ)
医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者。女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。
東京慈恵会医科大学大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。音声配信プラットフォームstand.fmでは「高尾美穂からのリアルボイス」をほぼ毎日配信し、リスナーの多様な悩みに答え、楽に生きられる考え方を届けている。
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