独自路線を貫き、日本一売れるアイスをつくる赤城乳業や、「売らない店」をはじめたマルイなど、成功している企業には、興味深いビジネスモデルが存在します。一体、どのような工夫をして、どのように成功しているのでしょうか。
『サクッとわかるビジネス教養 ビジネスモデル』監修者の山田英夫先生は、ビジネスモデルを「儲けるための仕組み」と定義し、次のように解説しています。
「ビジネスモデル」と一口に言っても、どのようなものなのか、よくわからない部分があると思います。実はその定義はまだ定まっていません。ここでは、「儲けるためのしくみ」と定義してお話します。
「ビジネスモデル」という言葉を聞いて、GAFA(Google , Apple , Facebook , Amazon)のようなハイテク企業のイメージを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、大事なのはむしろ成熟産業におけるビジネスモデルの変革です。こちらのほうが、より収益に関係してくるので重要だと考えています。
ビジネスモデルを考えていく際、ゼロから考えていくのはとても大変です。実際には、異業種のあるモデルを手がかりにして、それを自分の業界に持ってくるというほうが現実的といえます。ただし、異業種だからといって、そのまま持ってくるのは難しく、一度「抽象化」するというステップがとても重要です。
その際大事なのは、そのビジネスモデルは、「誰のために」「何を提供しているのか」というところを抽象化すること。そうすることで、異業種のビジネスモデルを自分の業界に取り入れることができるのです。
では、実際のビジネスモデルをいくつか見ていきましょう。
1981年発売の「ガリガリ君」で知られる赤城乳業は、ユニークなテレビCMなどで話題を集めていますが、その裏には、発売初期からチャレンジングな戦略がありました。
発売当時、アイスキャンディーは駄菓子屋の専用ショーケースで販売するのが一般的でしたが、先発の大手企業がおさえており、売上を伸ばしにくい状態でした。そこで、まだ黎明期であったコンビニでの販売に注力。コンビニの成長とともに、販売も増加していきました。
また、同社の「あそびましょ。」というスローガンもポイントです。テレビCMで、あえて「値上げ」や「売れていないこと」を訴求したり、ナポリタン味やコーンポタージュ味などの「ありえない味」を販売するなど、他社にはマネできない展開をすることで、独自性を発揮しているのです。
株式会社丸井グループは、関東の都市部を中心に「マルイ」「モディ」などの百貨店を展開しています。過去には仕入れ販売はもちろん、クレジットカードを発行して金融ビジネスに参入したり、出店企業からの賃料をメインの収益とする賃貸借型へ転換したりするなどの戦略を行ってきました。そんな丸井の新たな戦略が「売らない店」。百貨店なのに売らないとはどういうことなのでしょうか。
「売らない店」とは、ネット販売のみを行う新しい店をマルイに出店させ、基本的に店頭では販売せず、ECサイトで販売する戦略です。たとえば、その一環としてマルイに出店した、オーダースーツを手がける「FABRIC TOKYO」は、店頭では採寸や試着がメインで、販売はECサイトで行います。これではマルイがどのように収益を上げているのかがわかりませんが、実は、工夫があるのです。
「売らない店」戦略について、まずは出店する側のメリットを考えてみます。新しい店にとっては、マルイに出店することで、認知や信頼を得られます。また、マルイに運営サービスを提供してもらえるため、店舗運営のノウハウを身につけることも可能です。さらに、ネットとリアルを併用すると、客単価が増すという効果もあるといわれています。
マルイにとってのメリットは、新しい店をテナントとすることで、百貨店として独自性を高めることができます。実際に「売らない店」を出店してから、来店客は増加しているそうです。
また、販売するのはECサイトですが、その際、丸井の発行するエポスカードを使えば、丸井の収益になるのです。さらに、丸井は「売らない店」へ資本出資も行っています。将来的に「売らない店」が成長し、株価が上昇すれば、キャピタルゲインを得られる可能性もあるのです。
国内では、2021年に大丸東京店にショールミングスペースとして「明日見世」を、さらに、ニューヨーク発祥の売らない百貨店も日本に進出する計画があるといわれている。すでに、こうした「売らない店」の競争ははじまっているのです。
最近では、新しいビジネスモデルが生まれると、その業界の構造自体が変わってしまい、そのことでまた新しいビジネスモデルが生まれることもあります。
具体的には、たとえば一昔前まで電話でやりとりしていた旅行会社やレストランの予約などは、今ではWebサイトで行うのが当たり前になりました。ですが、このWeb予約の方法が生まれたことによって、今度はそれらのダブルブッキングや、お店の機会損失といった新たな問題が起きているのです。
そのため今度は、それらを一元管理する「サイトコントローラー」という新たなビジネスモデルが誕生し、現在とても重要な役割を果たしています。
このように、ビジネスモデルというのは、単一の会社が開発して終わるものではなく、それによって業界の構造が変わっていき、そしてまた新しいビジネスモデルを生む可能性があるという点にもい注目していただきたいと思います。
ぜひ、いろいろな企業のビジネスモデルを参考に、そこで見つけたヒントを手がかりにして、みなさんの業界にも取り込めそうなものを一度抽象化して、移植するとよいのではないでしょうか。
出典『サクッとわかるビジネス教養 ビジネスモデル』
イラスト 前田はんきち
本記事は、上記出典を再編集したものです。
イメージ画像 Shutterstock
・日本一売れるアイスをつくる独自路線 赤城乳業
・「売らない店」をはじめた マルイ
・入りづらい写真館のイメージを変えた スタジオアリス
・今やエレベーターは移動ではなくブランディングを担う 三菱電機
・似ているようで実は中身は全然違う Times PARKINGと三井のリパーク
■本書は「図解を見るだけで、ビジネスモデルの会話・説明ができる」ようになります。イラスト周辺の文字や図解で、各企業のビジネスモデルがわかります。文字中心のテキストを読むのは億劫。もっと手軽にビジネスモデルについて知りたい、きちんと会話・説明ができるようになりたい! という方にぴったりの一冊です。