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2021.10.07

宗教学者・島田裕巳先生に聞いた! 意外と知らない?「わたしたちの社会と宗教の結びつきのハナシ」

島田裕巳(シマダヒロミ)
1953年東京生まれ。宗教学者、作家。
東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。
大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任し、現在は東京女子大学、東京通信大学非常勤講師。日本と世界の宗教について幅広い内容の著述活動を行っている。
30万部のベストセラー『葬式は、要らない』(幻冬舎)をはじめ、『創価学会』(新潮社)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『0葬』(集英社)、『日本の10大新宗教』(幻冬舎)『戦後日本の宗教史』(筑摩書房)など、著書多数。『0葬』は、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。

 

 こんにちは。宗教学者・作家の島田裕巳です。今回は、「私たちの社会と宗教の結びつき」について解説します。記事の終わりに動画もありますので、ご覧ください(詳しい内容は、私が監修した『サクッとわかるビジネス教養 宗教と世界』に載っています。ぜひ本書もお読みください)。

宗教は「人々を救う」もの?

 

 

 「宗教」ときくと、あなたはどのようなイメージを持つでしょうか。漠然としていて、十人十色の答えが出そうな質問ですね。しかし、宗教とは「人々を救うもの」であるという認識は、誰しもが持っているのではないでしょうか。

 

 たとえば、キリスト教の宗教観を見てみましょう。キリスト教の神は、英語で “God” のほかに、 “the Creator” と呼ばれる通り、この世の創造主です。世界や人間を作ったのが神ならば、世界を終わらせるのもまた、神。人類を守ってくれる救世主、イエスを信じれば、この世が終わる際に救われるというのが、キリスト教の考え方です。

政治に「利用」される宗教

 さて、「人々を救うもの」というとらえ方は、宗教の持つある一つの側面を見ているにすぎません。人間社会をよりよく保ち、円滑にする目的――宗教は政治のために「利用」される場合もあります。

 

 かつてローマ帝国では、宗教(キリスト教)が国家の統治の手段として利用されました。

 

 ユダヤ教の一派として広がったキリスト教では、1世紀頃、イエスの弟子たちによって盛んな布教活動が行われました。これによって信者を大きく増やすキリスト教でしたが、その教徒の拡大はローマ帝国の皇帝たちにとっても無視できないものとなっていきます。

 

 当初、ローマ帝国の皇帝たちは、皇帝崇拝を拒むキリスト教徒を迫害する傾向にありました。しかし、そんな厳しい状況においても、キリスト教徒の数は増え続けます。対してローマ帝国は、度重なる皇帝交代などが招いた国力の低下に直面してしまいました。そこで、キリスト教徒を味方にした方が得策だと考えた皇帝によって、キリスト教は国教に制定されたのです(313年)。

ローマ帝国のように、政治と宗教が一体となって結びついている国家を、「宗教国家」と呼びます。
人々の「ライフスタイルを決める」宗教

 

 国家という大きな枠組みだけでなく、習慣や規範といった、個人の生活にも、宗教は深く関わっています。

 

 誕生以降、長く受け継がれてきた宗教ですが、その教義に沿った行いや信仰の実践は、現代人の生活にも根付いているものです。「無宗教」といわれる日本人も、初詣に行ったり、仏教式の葬式をしたりと無意識であれ、宗教的な生活を送っていることは、まぎれもない事実でしょう。

 

 宗教ごとの戒律・ルールに従うことも、宗教的実践です。イスラム教で豚肉やアルコールが禁じられていたり、キリスト教徒の多いアメリカで人工妊娠中絶が社会問題になったりと、宗教の教義や戒律は、人々の生活に深く関わっているのです。

宗教のマネタイズ

 宗教は、お金とも深い関係があります。宗教を存続させるために、無視できない問題――それが経済です。そもそも、宗教はどのようにお金を集めているのでしょうか。

 

 ドイツなどでは、キリスト教の教会経費を賄うための教会税がありますが、日本にはありません。その分、宗教法人が行う事業は、非課税(宗教活動)もしくは減税(収益事業)という税の優遇が受けられます。身近なところでいえば、おみくじや墓地の販売は非課税、機関誌の発行や不動産事業は減税になります。

宗教は経済発展とともに拡大する

 国の経済発展と宗教には、密接な関わりがあります。国が経済成長を遂げると、国民はよりよい仕事を求めて都市に移り住みます。しかし、経済発展が進むと格差の拡大が起こりますし、地方から都市に来たことで孤独を感じる人も多くなることでしょう。

 

 このように、経済の発展によって新たな問題が起こっているところに、宗教の登場です。宗教の信仰によって孤独を忘れることができた人には、その後、「悩んでいる人をもっと救いたい」という思いが生じます。戦後の日本における新宗教や、昨今の中南米におけるプロテスタント福音派の広がりも、これで説明できます。

世界的に宗教の影響力は弱まっていく

 しかし、経済成長を遂げてしまうと、宗教の役割は減ります。近年、ヨーロッパのキリスト教や日本の新宗教で衰退が指摘されていますが、その背景には、先ほど挙げたような経済の問題が関係しているのです。

 

 経済が成熟期を迎えて以降、宗教離れが進行した日本のように、宗教の影響力は弱まっていく(世俗化)ことが予想されます。近年拡大傾向にあるイスラム教やプロテスタント(福音派)も同様です。実際、イスラム国家で経済成長が続くイランでも、欧米流のファッションを好み、政府の制限をかいくぐってSNSを利用する人が多いといいます。経済が成熟した段階で、宗教の求心力が弱まり、徐々に消滅していく……。多くの宗教が歩むライフサイクルといえるでしょう。

🎦動画はこちらから

 

次回のトピックは「イスラム過激派」について

 今回は、「宗教と私たちの社会の結びつき」について解説しました。次回は連日国際ニュースで話題になる、「イスラム過激派」について解説いたします。

 

 「イスラム過激派」はどのようにして生まれたのか?「タリバン」とは?「IS」はどんなことをしたのか?などについて解説いたします。ぜひお楽しみに。

出典『サクッとわかるビジネス教養 宗教と世界』

イラスト 玉田紀子

 

本書は上記出典を再編集したものです。(新星出版社/大森)

サクッとわかる ビジネス教養 宗教と世界
見るだけで、世界の宗教の「会話・説明」ができる!
急速にグローバル化が進んでいる時代。だからこそ、ビジネスの現場では「宗教」を知らなければなりません。
外国人の考え方を理解し、話をするには「宗教」の知識が必須です!
そんな世界の宗教の基本的な知識と、宗教が関係する国際社会のなぜ?を宗教学の第一人者「島田裕巳」先生が解説します。

○外国人の考え方を理解するには、宗教の知識が必要
これらを理解するには、その根本にある「宗教」の知識が大切です。なかでも、世界の5大宗教の基本について「会話」ができる、国際問題を宗教的な見地から語れるようになることで、日本人のもつ宗教のイメージが世界の常識ではないことを理解でき、相手のバックボーン(宗教観)をつかみ、外国人との仕事をスムーズに進められるようになります。

本書は、文字中心のテキストを読むのは億劫。もっと手軽に宗教のことを知りたい。それも上辺だけの理解ではなく、きちんと会話・説明ができるようになりたい! という方にぴったりの一冊です。
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島田裕巳(シマダヒロミ)
1953年東京生まれ。宗教学者、作家。
東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。
大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任し、現在は東京女子大学、東京通信大学非常勤講師。日本と世界の宗教について幅広い内容の著述活動を行っている。
30万部のベストセラー『葬式は、要らない』(幻冬舎)をはじめ、『創価学会』(新潮社)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『0葬』(集英社)、『日本の10大新宗教』(幻冬舎)『戦後日本の宗教史』(筑摩書房)など、著書多数。『0葬』は、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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