File No.9
【メイクアップインストラクター TOMOMI先生】
十人十色、個々の魅力を引き出す! メイクのプロへの道
ブログ “スタバで同級生のスッピンを見せられ、「メイクってすごい!」と僕は声高らかに叫んだ!” が30万アクセスを超え、一躍話題に。
現在は3万人以上の女性にメイクを施してきた確かな技術と実績を基に、自身のメイクレッスンスタジオ「makeup studio TOMO」を主宰。
外部講師、企業、芸能事務所の専属講師も務める。
一流外資系ブランドM・A・Cのトップアーティストとして有名百貨店に勤務、3万人以上もの女性にメイクを施してきた実績をもつTOMOMI先生。現在はご自身のメイクレッスンスタジオ「makeup studio TOMO」を主宰し、さらに活躍の場を広げています。そこで今回は、TOMOMI先生にメイクにまつわるいろいろなお話をお聞きしました。
――現在、メイクアップインストラクターとしてご活躍中のTOMOMI先生ですが、メイクに興味を持ち始めたのはいつごろからだったのでしょうか。子どものころあこがれていた職業はありましたか?
子どものころの私は、テレビに映るアイドルを見ては「私もかわいくなりたい。いつかアイドルになりたい」という淡い思いを抱いていました。自分に自信が持てなかったので、その気持ちを表に出すことはできませんでしたが。
小・中学生のころは、習い事や部活動に力を注いでいました。なかでも音楽がとても好きだったので、小学生のころはユーフォニウムという金管楽器を習い、中学校では吹奏楽部に入ってクラリネットの練習に励む毎日。アイドルへの憧れは持ちながらも、自ら進んでかわいい服を着て、おしゃれをするようなタイプではありませんでした。
メイクに興味を持ち始めたのは、15歳くらいのころだったと思います。母は日頃あまりお化粧をしなかったので、お友達のお母さんを見ると、「あのお母さん、とてもきれいだな~」と思ったりしていました(笑)。
そんなある日、母の持っているファンデーションを借りて顔にそっと塗ってみたら、とっても楽しくて。もうちょっとやってみたいな、と思ったのがメイクに興味を持つようになったきっかけです。
高校生になり、アルバイトを始めるようになると、お小遣いでメイク用品をいろいろと買っては試すようになりました。そこからメイクへの関心がさらに高まっていき、本格的に勉強をしたいという気持ちになったので、卒業後は地元である金沢の美容専門学校へ進学しました。
実は、子どものころの写真を見ていただくとわかる通り、私はもともと一重瞼でした。二重瞼に憧れていたので、瞼を二重にする糊やアイプチなどを買い、鏡を見ながら自己流であれこれ試していきました。根気よく毎日、瞼に癖をつけていったところ、少しずつ跡がついてきて、ついに自然な二重にすることができたのです!(笑) そんなこともあり、さらにメイクに興味が出てきました。
――自分でも瞼を一重から二重にできるものなのですね! 美容専門学校へ入学してからはどのような道を歩まれたのですか?
美容を専門とする職業には、美容師、エステティシャン、ネイリスト、メイクアップアーティストなどいろいろな分野がありますが、具体的な分野までは決めていなかったので、卒業してから1年間、まずは美容師として働きました。働いているうちに、自分が極めたいと思う仕事は髪ではなく、メイクの分野だということがはっきりしてきたので、自分の好きなメイク用品のブランドであるM・A・C(マック)に転職しました。そこからですね、私のメイクアップアーティストへの道のりが始まったのは。
――M・A・C(以下、マック)はとても有名な化粧品ブランドですね。そこではどのようなお仕事をされたのでしょうか。
マックでは、美容部員として働いていました。部員同士でお互いに実践練習を重ねながら、店舗に来られるお客様の対応をすることが大きな仕事のひとつでした。メイク用品を買うためだけではなく、どうしたら自分でもきれいにメイクをすることができるのか悩んでいるお客様へ、いかに満足していただけるかが大きな課題。そのためには、メイクの技術力は当然ながら必要で、その実例として自分の顔を美しく見せることも重要なことでした。
そこで私がまず課題にしたことは、自分の顔を知ること。自分の顔の癖を知り、メイク用品の特徴と、その活かし方を模索する日々が始まりました。とにかくもう、必死でしたね。仕事から帰ってから鏡に向かい、店舗にあるアイシャドウ100色すべてを試したり、眉や目元のラインの引き方を何度も練習したり。また、どのくらいの時間でどのようにメイクが崩れるのか、ということも確認し、お客様から何を聞かれても対応できるように知識をつけていきました。
――お仕事から帰ってからも勉強の日々だったのですね。やっていくなかで、特にこれは難しいと感じたことはありましたか?
メイクの中で難しいと感じたのは、眉毛の扱いです。きちんと描けるようになるまで3年くらいかかりました。
そのうち、やっていくなかで次第にコツを覚え、次第にお客様にメイクを施すことに自信がつき始めたのですが、どんなお客様を相手にしても、その人に似合うものが提案できるようになってきたときに、メイクによって人を変えることの楽しさを知ることができました。
――言葉通り、「石の上にも三年」ですね。お客様が満足されている様子というのは、どのあたりで感じられるようになったのでしょうか?
この仕事の難しさは、お客様のニーズをうまく聞き出すことができないと、本当に求めているものを表現することができない、という部分にあります。なかでも色の表現はとても難しいです。たとえばリップ1本を選ぶ際、「オレンジがいい」と言われても、数多くのオレンジ色がありますよね。そのお客様には茶色がかっているオレンジが似合うのか、それとも黄色っぽいオレンジが似合うのか、最初のころは実際に試してみないとわからないことばかり。特にマックのコスメ用品は色のバリエーションが多かったので、初めのころは全色を出してみて、お客様を困らせたこともありました。
そのとき学んだのが、「言葉での提案力」。言葉で提案できるようになるためには、店舗にあるコスメ用品の色の特徴を覚え、肌に重ねたときにどういう色合いになるか、というところまで想像した上で、それを言葉で提案する力がないといけない、と感じたのです。
そしてそれが実現できたとき、お客様の口角が自然にだんだん上がり、口数が増えていくのを鏡越しに見ることができるようになりました。
こうした経験を積み重ねていくうちにやりがいを感じ、この仕事を一生続けていきたい、と思うようになったことを機に独立することを決めました。
――しっかりした技術力と、お客様の気持ちに寄り添い、お客様の力になれるコミュニケーション力が必要なお仕事ですね。
そうですね。本当に毎日必死にやってきて、気づいたら3万人以上ものお客様を見てきたことになるのですが、やってきてわかったのは、メイクは単にお客様をきれいにするだけでなく、それぞれの「内面の良さを引き出し、自信を持っていただくためのツールとしてとても有効である」、ということです。
メイクをして外見がより美しくなると、自然にウキウキした気持ちになり、明るくなれる。そのように、「外から自分を変える」ことも大切なことだと私は考えています。
ダイエットしたいと思っても、今日何かをやったからといって、翌日すぐに身体が理想の体型になるということはありませんが、メイクはすぐに変化を見ることができます。そう考えると自分を変える手段としてメイクはむしろ簡単な方法だと思うのです。フルメイクはさすがに難しくても、例えば、まずは口紅を1本変えてみる、というところからでもいいと思います。気に入った口紅の色を付けてみる。ほんの些細なことかもしれませんが、そこでウキウキ、わくわくしたプラスの気持ちに切り替わることができれば、その気持ちは口角に出てきます。口角が上がれば、それは表情筋を使うことに結びつき、ほうれい線が目立たなくなってきます。このように、ちょっとした変化を手軽に体験できるのがメイクのいい面だと感じています。
――たしかに、ダイエットは一朝一夕でできるものではありませんが、メイクなら、短時間で気持ちを切り替えることができますね! メイクが上手になるための秘訣などがあれば教えてください。
メイクをするときに、「こんな女性になりたい!」と思い描ける理想像があるとよいと思います。モデルにしたい方の写真など、見ることのできるものがあるとなおいいですね。
近年のファッションやメイクの傾向を見ると、昔のような一大ブームというのがなくなってきたように感じています。皆同じ格好をして街を歩く、というような光景は時代とともに減ってきました。多くの方が同じものを求めなくなったということは、逆を返せば「自分を大事にしよう」というトレンドの現れだと思うのです。つまり、「この形でないといけない」という定型がなくなってきたということ。その一方で、これからは「自分で自分をプロデュースする力」が求められてくる時代になると感じています。私もより腕を磨いて、お客様のニーズに応えられるよう、努力していきたいと思います。
――自分で自分をプロデュースしていく力を磨くためにどんなことが必要だと思いますか?
メイクの技術はある程度やれば身につくものですが、プロデュース力を磨くには、常にアンテナを張っておく必要があると思います。世の中の流れとメイクはつながっていますから。また、今はSNSの普及により、情報があふれかえっています。情報に振り回されず、自分に必要だと思うものをうまく取り込むことができるようになるといいですね。
これから思い描いている夢の1つ目は、自分がプロデュースしたコスメを出すことです。今まで経験してきたことを活かし、お客様がどんなものを求めているのかを分析したうえで、提案することができたら、と思っています。2つ目は、本をもう一冊出すことです。テクニックを教える読み物ではなく、実践できる内容のつまった教本を作ってみたいと思っています。
――2つの夢、教えていただきありがとうございました。メイクをする楽しさをもっともっと多くの方に知っていただけたら嬉しいですね。本日は、いろいろとお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
そうですね。ぜひ楽しみながらチャレンジしていただきたいと思います。本日はありがとうございました。
◆「メイクアップインストラクターに必要なのは、『お客様のニーズをうまく聞き出す力』『技術力』『言葉による提案力』である。お客様の強みや、魅力となるポイントをしっかりと伝えてあげることが重要だ」
◆「メイクは、単に顔を美しくするための手段だけではなく、内面の良さを引き出し、自信を持たせるツールとしての役割ももつ」
◆「ファッションやメイクの流行を見ると、昔のような一大ブームというのがなくなってきた。これからは『自分で自分をプロデュースする力』が求められてくる時代になるだろう。
情報に振り回されず、自分に必要だと思うものをうまく取り込むことができるとよいのでは」
取材・文/向山邦余