川口春奈さんとSnowManの目黒連さんが共演しているフジテレビ系列ドラマ『Silent』。
聴覚障害をテーマとした恋愛ドラマで、見逃し配信では民放歴代最高記録を更新。切ない恋愛・友人関係を描く数々のシーンが泣けると話題になっています。
このドラマを通じて、手話に興味を持ち勉強を始めた方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、視聴者の心に刺さった手話での名シーンを『ひと目でわかる実用手話辞典』から手話のポイントとともに解説していきます。
第1話の最後に目黒連さん演じる佐倉想(以下、想)と川口春奈さん演じる青羽紬(以下、紬)が8年ぶりに再会したシーン。
再会の想いを口話で伝えようとする紬に、難病のため聴力をほとんど失ってしまい、大好きだった紬の声が聞こえない想は、手話で「うるさい!」と返します。
「うるさい」の手話は、右耳に右手人差し指を近づけ、ねじるように動かします。いやそうな表情で伝えます。耳に音が入って痛いことが語源です。
「うれしい」「悲しい」などの気持ちや「暑い」「寒い」などの状況を手の動きだけでなく、表情を使って伝えます。手話における表情は音声語でのイントネーションのようなはたらきをし、重要な要素の1つです。
ドラマのこの場面でも表情が重要な役割を果たしていることがわかります。8年ぶりに再会した驚きと紬への思いが、ごちゃごちゃになって出てきた「うるさい!」という表情は、手話の解読を超え、胸が締め付けられました……。
第3話で、鈴鹿央士さん演じる湊斗の様子を心配した想が、カフェで紬と話すシーン。
紬と想が一緒にいるところに遭遇してしまった湊斗は、気持ちの整理がつかず、感情が乱れてしまいます。想は、紬への想いがありながらも、大切な存在である紬と湊斗の関係を心配して、自分のせいではないかと「大丈夫?」と紬に問いかけます。
「大丈夫」の手話は、指をそろえやや湾曲させた右手の指先を左胸、右胸の順に当てます。大丈夫、と胸を張るあるいは叩くしぐさが語源です。
日本手話には独自の文法があります。例えば、疑問法では表情を利用します。疑問の表情で行うことで「意味」の単語が「なぜ?」に、「あなた」の単語が「あなたは?」になります。
ドラマのこの場面でも、「大丈夫?」と聞く想の手話と、「大丈夫」と答える紬の手話は同じ形をしています。疑問の表情を使うことで、相手に質問する意味に変わります。
第5話で、紬からの返信を待つ想が、紬に直接会いに行き「顔を見て話したい」と伝えます。対して、「顔を見て話せない、つらい」と紬は返します。
この「顔見て話したい」は4つの単語の手話を繋げています。
顔を見て話したい=「あなた」+「見る」+「会話」+「したい」
右手の甲を右に向け、相手を人差し指でさします。視線は相手に向けます。
「顔」の単語を示す手話は別にありますが、ドラマではこの「あなた」の手話を「顔」と訳しています。身体の一部としての「顔」の手話ではなく、「あなた」の手話を使って伝えることで、相手への思いや気持ちがよりこもっているように感じますね。
人差し指と中指を伸ばした右手の指策を前に向けて目の前で構えます。
「見る」の手話は、この形以外にも意味合いによって別形があります。今回使われている「見る」の手話は、じっと「見つめる」の意味でも使われます。
5指の先をつけた両手を向かい合わせ、交互にパッ、パッと開きます。「話す」の手話を基本にしたもので、交互に声を出しているようすです。
右手親指と人差し指を開いてのど元をはさむように当て、斜め前下に動かしながら2指を閉じます。
「好き」と同形の手話でもあります。「帰る」や「飲む」といった動詞の手話の後につけることで、「~したい」という願望の言葉にすることができます。
1つの手話が1つの日本語に必ずしも対応するわけではありません。例えば、「勉強」と「学校」は同じ形で表現します。また、さきほど説明した「見る」を表す手話が数種類あるように、1つの単語に1つの手話形とはかぎりません。
第6話で、想が紬に、女友達のことを「すごく大事な人」と説明します。
この「すごく大事な人」は2つの単語の手話を繋げています。
すごく大事な人=「愛している」+「女」
■「愛している」
左手のひらを下に向け、右手で左手の甲の上をなでるように2~3回、気持ちを込めてまわします。
手の甲は前向きにして、右手小指を立てます。
「人」を表す別の手話もありますが、「愛している女性」という手話の形をとって「すごく大事な人」と表現しています……。手話を始めて日が浅い紬は、この手話を「恋人」と認識してしまっているかもしれません。女友達と想、そして紬との今後の関係が気になります。
今回は、ドラマ「サイレント」を取り上げて、手話での名シーンを『ひと目でわかる 実用手話辞典』をもとに解説しました。
少しだけでも手話の知識を持ってドラマを見ると、字幕から読み取れるもの以上の表現やその意味が理解できて、よりグッと心に刺さりますね。
本書では、指文字、アルファベット、数詞、表現法など手話に必要なすべてを網羅しており、例文が豊富で組み合わせ方がわかるため、実際に手話を使う際にとても役立つ一冊です。これをきっかけに、ぜひ本書で手話を覚え、役立ててみてはいかがでしょうか?
出典『ひと目でわかる 実用手話辞典』
本記事は、上記出典を再編集したものです。(新星出版社/内園)
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参考 フジテレビ『silent』
手話技能検定協会公式ホームページ