
歴史を振り返ると、世界の覇権国は例外なく、まずは自国周辺の海を押さえることから影響力を広げていきました。アメリカはメキシコ湾からカリブ海を事実上の支配下に置いた後、大西洋へ進出しました。イギリスもまた、ドーバー海峡やマルタ島を拠点に地中海を掌握し、その後、世界の海へと勢力を広げています。
では現在、日本の周辺で起きている対馬列島や尖閣諸島をめぐる緊張は、どのような位置づけで捉えればよいのでしょうか? 個別の領土問題として見るだけでは見えにくい背景も、視点を変えることで整理できるかもしれません。
本記事では、こうした近海をめぐる動きを手がかりに、国際情勢を読み解くための考え方を紹介します。
※本稿は地政学・戦略学者の奥山真司さん監修の『サクッとわかるビジネス教養 新地政学』(新星出版社)から一部抜粋した記事です。
経済発展を果たした中国は、世界の大国になろうとしています。地政学的に、大国になる国が最初に行うのが、近海の制覇です。というのも、世界の覇権国は、常に“近海の争い”を制覇したのちに世界の海に展開しています。つまり、対馬や尖閣をめぐる争いは、拠点を得て日本海や東シナ海を制覇したいランドパワーの中国と、阻止したい日本・アメリカのシーパワー勢力の争いの一環なのです。
2022年には米国の下院議長、ナンシー・ペロシが台湾を訪れ、中国が反発しました。
あまり知られていませんが、中国側の目的は近海の拠点を手に入れることですから、対馬・尖閣以外の島でも、近海の争いははじまっています。
つまり、対馬列島、尖閣諸島といった島々の衝突の根底にある“近海の争い”とは、海洋進出を目指し、近海を制覇したい中国側の勢力と、封じ込めたいアメリカ側の勢力の衝突といえるのです。
■対馬列島…長崎県に属し、韓国と日本の中間に位置する。対馬島の人口は約2万7,000人。
■尖閣諸島…沖縄県に属し、石垣島の北西170kmの位置。全部で8島からなる。
日本海から東シナ海に点在する対馬列島や尖閣諸島。日本政府は、歴史的にも、国際法上も、明確に日本の領土だとしていますが、対馬列島は主に韓国、尖閣諸島は主に中国や台湾が領有を主張しています。韓国に近い対馬列島には、自衛隊の基地もありますが、韓国人による土地の買収が起こっています。
【米国で“事実上のナンバー3(当時)”である政治家の台湾訪問】
過去25年で台湾を訪れた政治家としては最高位であるナンシー・ペロシ。現地では立法府への訪問や、総統との会談を行い、台湾の揺るぎない支持を表明。これに対し、中国は、“一つの中国”の原則に反し、中国の主権を害する「公然たる政治的挑発」と主張し、猛反発したのです。
【周辺にあるほかの島も危ない!? 石垣島や宮古島の原状】
対馬列島や尖閣諸島以外でも、東シナ海周辺にある島は、ランドパワー勢力が拠点としてねらっています。ですから、日本側も防衛のため、2016年には与那国島に、2019年には宮古島に自衛隊の駐屯地を開設しました。さらに、2023年3月に陸上自衛隊石垣駐屯地が完成。
■与那国島…沖縄県に属し、台湾の東、約110kmにあり、日本の最西端。人口は約1700人。
■宮古島…沖縄県に属し、沖縄本島の南西300kmに位置する。人口は約5.5万人。
■石垣島…宮古島からさらに南西へ130kmに位置する。人口は4.9万人程度。
ここで、地政学の基礎的な概念である「ランドパワー」と「シーパワー」についても解説します。「ランドパワー」とは、ユーラシア大陸にある大陸国家で、ロシアやフランス、ドイツなどが分類されます。一方の「シーパワー」とは、国境の多くを海に囲まれた海洋国家のことで、日本やイギリス、大きな島国と見なされるアメリカなどのことをいいます。
人類の歴史では、大きな力を持ったランドパワーの国がさらなるパワーを求めて海洋へ進出すると、自らのフィールドを守るシーパワーの国と衝突する、という流れを何度も繰り返しています。つまり、大きな国際紛争は、常にランドパワーとシーパワーのせめぎ合いなのです。
もう1つ、歴史から浮かび上がるポイントが、“ランドパワーとシーパワーは両立できない”こと。古くは、ローマ帝国はランドパワーの大国でしたが、海洋進出をして国力が低下し、崩壊しました。また、日本の敗戦も太平洋の支配に加え、中国内陸部への進出を目論み、シーとランドの両立を目指して失敗したと地政学では考えます。
アフガニスタン介入でアメリカが撤退したのは、シーパワーの国が大陸内部に進み過ぎたためと考えられます。国際情勢を読み解く際、関係する国がシーパワーかランドパワーのどちらかを考えるのは、非常に重要な視点なのです。
出典 『サクッとわかるビジネス教養 新地政学』
本文イラスト 前田はんきち

本書は「特別な図解を見るだけで、地政学の会話・説明ができる」ようになります。地政学の第一人者「奥山真司」先生が伝授します。
○ニュースを本当に理解するには、地政学の知識が必要
アメリカと中国の関係、沖縄基地や北方領土の問題、中国の一帯一路政策など、日々さまざまなニュースが流れています。
これらを理解するには、その根本にある「地政学」の知識が大切です。
たとえば、
・なぜ、ロシアが北方領土を返還しないのか?
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監修は、防衛省や大学などの教育機関で地政学を教えている奥山真司先生。
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本書は、文字中心のテキストを読むのは億劫。もっと手軽に地政学のことを知りたい。それも上辺だけの理解ではなく、きちんと会話・説明ができるようになりたい! という方にぴったりの一冊です。
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改訂によって、国同士の関係や各種データを最新の情報に更新
○『サクッとわかるビジネス教養 地政学』が出版された2020年から、大きく変わった現在の国際情勢に合わせて中面も大きく更新。
わかりやすさはそのままに、細かな解説や各種データを最新の情報にリニューアルしています。
以下、具体的な改訂点です。
・「パレスチナ・イスラエル戦争」「ロシアのウクライナ侵攻」「台湾有事」「アメリカの分断」という4つのトピックスを追加して解説
・上記の追加分により、総ページ数は160P→176P
・その他、細かなデータや国際関係などで変化があったものは最新の情報に更新。大幅な修正が3割程度、ちょっとした修正が入るのが6割程度
・価格は、昨今のビジネス教養シリーズと合わせて1200円→1400円

国際地政学研究所上席研究員。戦略研究学会編集委員。日本クラウゼヴィッツ学会理事。
カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学(BA)卒業後、英国レディング大学院で、戦略学の第一人者コリン・グレイ博士(レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事。
地政学者の旗手として期待されており、ブログ「地政学を英国で学んだ」は、国内外を問わず多くの専門家からも注目され、最新の国家戦略論を紹介している。
現在、防衛省の幹部学校で地政学や戦略論を教えている。また、国際関係論、戦略学などの翻訳を中心に、セミナーなどで若者に国際政治を教えている。
著書に『地政学 アメリカの世界戦略地図』(五月書房)、『“悪の論理"で世界は動く! 』(李白社)、『世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう』(フォレスト出版)、訳書に『大国政治の悲劇』(ジョン・ミアシャイマー著)、『米国世界戦略の核心』(スティーヴン・ウォルト著)、『進化する地政学』(コリン・グレイ、ジェフリー・スローン編著)、『胎動する地政学』(コリン・グレイ、ジェフリー・スローン編著)、『幻想の平和』(クリストファー・レイン著)、『なぜリーダーはウソをつくのか』(ジョン・ミアシャイマー著、以上、五月書房)、『戦略論の原点』(J・C・ワイリー著)、『平和の地政学』(ニコラス・スパイクマン著)、『戦略の格言』(コリン・グレイ著、以上、芙蓉書房出版)、『インド洋圏が、世界を動かす』(ロバート・カプラン著、インターシフト)がある。








