
File No.22 「絵が下手」とあきらめてしまっている人へ。その苦手意識はどこからくる? 「卵」のデッサンが画力向上に繋がる理由とは…
ダ・ヴィンチWeb(KADOKAWA)コンテンツで紹介された今月のレビュー記事は、どうしたら絵を上手に描くことができるの? と疑問に思っている方必読!『絵を描く人の思考をのぞく』(上田耕造 著)です。ぜひお読みくださいね。
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絵を描かない人は、おそらくいない。単純な線ひとつにしろ、日常で描く機会はあるはずだ。しかし、自分は絵が上手いと思っている人は多くないのではないだろうか。なぜ自分は“絵が下手”と思ってしまうのか。その答えが『絵を描く人の思考をのぞく』(上田耕造/新星出版社)にあった。本来、絵を描くのは素直に楽しい。そう思わせてくれる力が、本書にはある。
東京藝術大学出身で「絵画教室アトリエ21」の主宰を務めるなど、絵画指導にも力をそそぐ著者の上田耕造さん。その語り口は温かく、企画時点でアンケートをとり、一般の人から寄せられた「絵を描くことへの疑問や不安」をベースにした内容は、読者との距離感が近いのも魅力だ。
本書を読み進めるにあたって、私が意識したのは“なぜ、自分は絵を描くことへの苦手意識があるのか”だ。絵を描く上でのマインド、そして、マインドにもとづく実践テクニックも学べる本書で、わずかに心のハードルは下がった。
そもそも、絵を描くことは幼い頃の「落書き」にはじまる。当時、夢中になっていた人も多いはずだ。
しかし、知識や経験を重ねた大人は「描きながら、より描きやすい紙、描きやすい大きさ、鉛筆の硬さ、描きやすい形かどうか」を考えて、気負ってしまう。そうした著者の主張は、強く心に刺さった。
絵を描くマインドとして、本書では「見える」に繰り返し言及する。人の目は「知っているもの、あるいは探しているもの」しか映らない。
お手本となる「写真やモチーフ」があったとしても、ただ形をなぞるのではなく「自分の見た面白さ」をいかに再現できるかが大切で、まさしくここに、私の絵に対する苦手意識もあったのかと気が付いた。
例えば、似顔絵はどれほど誇張して書かれていたとしても、不思議と「似ている」と感じてしまう。それは、書かれた本人の特徴をあえて強調しているからで、そのまま「トレース」しても、きっと「似ている」とは思わないはずだ。
では、対象の「面白さ」を見つけるためのトレーニング方法はあるのか。その力を育むためにおすすめなデッサンのモチーフは、意外にも「卵」だった。
トレーニングは、とことん「卵」を描いて「納得がいくまで修正」を重ねるのみだ。まずは「シンメトリー」の輪郭を描いて、影を付け、殻表面の「ざらざらした質感」も表現する。一連のステップには意味があり「卵らしいやや透明感のある色、生命を感じさせる形の張りとプロポーション」を表現するためにとことん描き込めば「立体表現に必要な重要ポイント」を習得できるという。
これらのほか「二点透視図法」などの専門的な内容も網羅する本書は、QRコードを読み込み、著者が実際の授業でも使っている貴重な「手書き資料プリント」を参照できるのもうれしい。自分は“絵が下手”とあきらめてしまっていた、私のような読者の背中を押してくれる1冊だ。

「絵を描く人の頭の中って、どうなっているのだろうか?」
「絵をうまく描ける人に、世界はどう見えているのか?」
こんな疑問から本書は生まれました。
「なぜ人は絵を描きたいと思うのでしょうか。」
そんなテーマからはじまる本書は、絵画教室を主宰し、美術学校や大学など多くの場で、たくさんの人たちに絵の魅力を伝え続けてきた著者が、単なる技法書ではなく、絵を描くという素敵な行動について、その楽しさ・理由・背景などさまざまな視点から語る異色の本です。
「ものの見え方はひとりひとり違っている」
「自然物には球体にまとまろうとする意志がある」
「美術史は人類の思想史である」
絵を描いてみたい人には、背中を押されるような、絵を描いているけどもっとうまくなりたい人には、目からウロコが落ちるような、絵に興味を持つ人には、その世界をもっと知りたくなるような言葉がきっと見つかる1冊です。

無所属。
美術予備校・児童教室・高等学校講師を経て、NHK文化センターほか専門学校・大学講師。東京藝術大学美術解剖学会会員。絵画教室アトリエ21主宰。
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