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2022.09.13

【知っておきたいビジネスの知識】
② 取引先が倒産⁉ 倒産状態にある会社がとる手続きの特徴とは?

 連載1回目では、知っておきたいビジネスの知識として、「破綻」「倒産」「破産」の違いについて解説しました。倒産状態にある会社がとる手続きには、特徴があります。今回は、その特徴について解説します。

それぞれの手続きの特徴を知る

 倒産状態にある会社がとる手続きは、会社を消滅させる清算型のグループと、会社を継続しながら債務を弁済する再建型のグループに分類され、どちらも裁判所によって行われる法的整理と、裁判所が関与しない私的整理に大別されることを覚えておきましょう。
 

 清算型の私的整理とは、経営陣もしくは代理人である弁調士がすべての債権者と交渉を行う手続きです。穏便に交渉を終えられることは稀な上に債権者の反対があれば成立しないため、破産や特別清算の法的整理へと移行するケースが多くなります。

 

 わかりやすく言えば、債権者に対して借金の棒引きや減額を求めることになるので、交渉はスムーズに進まないのです。再建型の私的整理のほとんどは、営利を目的としない経済団体である各都道府県の商工会議所等や、法務大臣の認証および経済産業省の認定を受けた民間団体など、民間の公的機関が介在して会社の再建を目指す手続きで、交渉する対象が銀行のような金融機関のみに絞られることが特徴。裁判所は関与しないものの、法律に基づいて設立された公的機関が関与するので、準則型私的整理と呼ばれています。

 

 準則型私的整理の最大のメリットは、破産のように債務者が公開されないので秘密が守られ、取引先に知られることなく手続きを進められることで、通常の業務を続けながら銀行借入金の返済をリスケジュールすることが可能になります。

 公的機関への報酬など、多額の費用がかかっても準則型私的整理を選択する企業が増えているのはそうした理由によるもので、経営状態が悪化していても、倒産という悪いイメージから会社を守りながら再建を図れることは大きなメリットになっています。

 

 なお、公的機関が関与しない再建型の私的整理もありますが、実際に行われることは稀です。公的機関(第三者機関)による監督およびチェック手続きが担保されていないとなると、債権者は同意しにくいため、私的整理の成立が難しいからです。

 

 清算型の法的整理である破産は、裁判所が選任した破産管財人によって会社に残っている土地や建物をはじめ、機械や車などの財産すべてが現金化され、全債権者に公平に分配される手続きです。手続きが完了すると会社は消滅し、同時に債務と債権も消滅するのが最大の特徴だといえます。

 特別清算という名称は、通常清算が存在するからできたもので、株式会社が解散の手続きを進める中で行う清算業務が通常清算。現金化された財産の金額が支払う債務より多い場合に行われます。通常清算では問題があるために法的整理へと移行するのが特別清算で、破産の手続きよりも簡略化されているのが特徴です。

 
 再建型の法的整理には、大企業の株式会社に限定されて手続きも複雑になり、時間もかかる会社更生と、再建できる可能性が認められれば法人個人を問わず利用可能な民事再生があります。再建型の手続きを選択した企業でも、途中でうまくいかずに清算型へと移行するケースは少なくありません。

どの段階で倒産と呼ばれるのか?

 企業の倒産が報道されたからといって、その会社がなくなってしまったとは限りません。最終的に消滅するとしても、報道された段階では法人として存在していることがほとんどです。事業を継続することができない状況になったために報道されているといっても、具体的にその企業はどのような状態にあるのでしょうか。

 

 災害や昨今の感染症の蔓延によるような、突発的な財務状態の悪化もありますが、多くの場合、企業が倒産という状況へ至るには、徐々に経営が行き詰まり、段階を踏んで財務状態が悪化していくもので、債務超過や赤字の状態にあっても、それだけで倒産となるわけではありません。

 

 債務超過とは、現預金や売掛金、車や機械などの資産よりも、支払うべき債務や銀行からの借入金の方が多い状態を指します。一般的には債務超過が1年間続く、3年連続で赤字が続く、という状態になると銀行は融資の回収に動くので、会社を終わらせる判断をしなければいけなくなるといわれています。この状態になると、多くの経営者は、可能であれば、まず私的整理によってできるだけ穏便に会社を終わらせたいと考えます。

 

 私的整理は公に開示されるものではありませんが、取引先への支払いや従業員の賃金が滞るような状況になれば、「事実上の倒産」と報道されるケースがでてきます。私的整理を選択しても、債権者による破産申立が行われれば、これも「事実上の倒産」と呼ばれるでしょう。

 

 明確なのは、法的整理による手続きを開始した段階で倒産と呼ばれるケース。法的整理は、必ずしも私的整理が失敗した後にとられる手続きではありません。

👉次回は、倒産だけではない会社の終わらせ方、倒産する企業のタイプ【急成長急転落型、大ヒット破綻型】を解説します。

出典『図解わかる 倒産のすべて』

本記事は、上記出典を再編集したものです。(新星出版社/向山)

 

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倒産のすべて
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増田智彦(マスダトモヒコ)
弁護士。東京丸の内法律事務所パートナー。
慶應義塾大学法学部卒。一橋大学法科大学院了。
麒麟麦酒株式会社法務部での勤務を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。
事業再生実務家協会会員、第二東京弁護士会倒産法研究会会員。
私的整理手続(事業再生ADR、中小企業再生支援協議会、特定調停、地域経済活性化支援機構(REVIC)等)
から法的手続(会社更生、民事再生、特別清算、破産)まで、これまで多数の案件を、債務者代理人、
債権者代理人、第三者専門家又は裁判所から選任された破産管財人等の公的立場として取り扱ってきた。
企業法務に精通しているほか、事業再生・倒産の分野で特に強みをもつ弁護士。
共著書に『破産手続書式集 新版』(慈学社)などがある。
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