
3月といえば多くの企業にとって決算期。会社の経済活動の結果をあらわす決算書には、ビジネスモデルや経営戦略が反映されています。決算書とはどのようなものか、どこを見ると企業の儲けがわかるのか? 今回は、Jリーグの2023年度クラブ経営情報開示資料から読み取れる日本のプロサッカーリーグの収支について、公認会計士の川口宏之さん監修本『サクッとわかるビジネス教養 決算書』(新星出版社)より一部抜粋、再編集して紹介します。
Jリーグの2023年度クラブ経営情報開示資料によると、売上が最も多かったのは、浦和で103億円。リーグで唯一100億円の大台を突破しています。次いで川崎Fの79億円、神戸の70億円と続き、JI在籍18クラブの平均では52億円となっています。
売上高の内訳はスポンサー(広告料)収入、入場料収入、Jリーグ配分金、物販(グッズ等)収入などで、各金額上位のクラブは表のとおり。スポンサー収入、入場料収入とも、やはり浦和が1位です。
■売上高1位は浦和で100億円超
売上高1位の浦和はスポンサー収入、入場料収入、物販収入のいずれもリーグ1位。100億円の大台突破は過去に元スペイン代表・イニエスタ選手の活躍で話題となった2019年度の神戸114億円以来史上2度めです。優勝争いをはじめACLやカップ戦の勝ち上がりなどでホームゲームの試合数が多かったこともあり入場料収入は前期比150%の伸び。また物販収入も入場料収入の4分の3に迫る額でした。売上高2位の川崎F、3位の神戸も毎年安定して好業績をあげているクラブです。
費用では、売上高上位の浦和、神戸、川崎Fが売上原価、販管費でも上位にランキング。J1全クラブで売上原価の約6割を占めるのがトップチームの人件費です。前期までは神戸が連続1位でしたが、2023年度は浦和が1位。J1全体の平均では、売上原価が40億円、販管費が12億円です。
利益を見ると、本業の儲けである営業利益の1位は浦和ではなく、売上高13位の新潟。トップチーム人件費をJ1全クラブで最も安く抑えたことが大きな要因です。ただ最終的な当期純利益は柏が1位。新潟は法人税等で儲けを削られました。
■平均では売上原価40億円、販管費12億円
費用のうちトップチームの人件費は、J1全体の平均でも売上原価の約6割を占めます。ただしその額は浦和の38億円強を筆頭に、その4分の1以下の9億円弱という新潟までかなり差があります。また営業利益は18クラブ中で黒字が10クラブ、赤字が8クラブ。実は全体平均だと約2,000万円の赤字となっています。営業黒字1位はトップチーム人件費が最下位だった新潟で6億2,000万円の黒字。なお2023年シーズンの優勝はヴィッセル神戸。クラブ創設以来の快挙となりました。
決算書には会社の様々な実情をあらわす重要な情報が載っています。この情報を読み解く力、分析する技術を身につければ、ビジネスに大いに役立てることができます。
例えば、会社がいくら稼いでいるか。あるいは損をしているか。利益はどれだけ確保しているか。元手を効率良く売上に結びつけているか。資金繰りは大丈夫か。倒産のリスクはないか。
将来的な成長を見込めるか―― これらはすべて、決算書の数字と、そこから導き出される様々な経営指標を使った経営分析によって読み解くことができます。
また決算書には、その会社の経営戦略や特性、ビジネスモデルが反映されるものです。どんな方法で稼ぎ、儲けているのか=収益の構造や、何に費用をかけているのか=コストの構造は、会社ごとに特徴があります。それらを読み解くことで、その会社の強み・弱みをつかむことができます。
このように決算書を使いこなせるようになれば、ビジネスパーソンとして1つ上に成長できるでしょう。
出典『サクッとわかるビジネス教養 決算書』
本記事は、上記出典を再編集したものです。
アイキャッチ画像 Creativa Images/Shutterstock
2000年より国内大手監査法人である有限責任監査法人トーマツ(旧・監査法人トーマツ)にて、主に上場企業の会計監査業務に従事。2006年から、みずほ証券(旧・みずほインベスターズ証券)にて、新規上場における引受審査業務(IPO審査)などを担当。2007年に、ITベンチャー企業の取締役兼CFOに就任。財務・経理・総務・法務・労務・資本政策・上場準備などを統括。2009年より、独立系の会計コンサルティングファームにて、IFRS導入コンサルティングや決算支援業務、財務デューデリジェンスなど、幅広い業務を経験。その後、2019年に独立。「監査法人」「証券会社」「ベンチャー企業」「コンサルティング会社」という4つの立場で「会計」に携わった経験を持つ、数少ない公認会計士として多くのクライアントから信頼を集める。現在は、これらの経験をもとに、実務に役立つ会計研修(上場企業の社員研修、公開セミナー、動画講座)など、講師活動を精力的に行っている。著書に、『[決定版]決算書を読む技術』、『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(いずれも、かんき出版)、『決算書の基本』(日本実業出版社)などがある。「公認会計士・川口宏之オンラインスクール」主宰。
👉川口宏之 オフィシャルホームページ