ビジネス&マネー&スタディビジネス&マネー&スタディ

2025.02.25

ZOZO、ユニクロ、西松屋、収益力がもっとも高いのはどの会社か 
初心者でもわかる決算書の見方

 3月といえば多くの企業にとって決算期。会社の経済活動の結果をあらわず決算書には、ビジネスモデルや経営戦略が反映されています。決算書とはどのようなものか、どこを見ると企業の儲けがわかるのか?

 

 人気のアパレルメーカーであるZOZO、ユニクロ、西松屋のザックリした儲けを決算書から読み解く方法を、公認会計士の川口宏之さん監修本『サクッとわかるビジネス教養 決算書』(新星出版社)より一部抜粋、再編集して紹介します。

決算書は会社の実情をステークホルダー(利害関係者)に正しく伝えるツール

 決算書は、ステークホルダーに向けてつくられているいくつかの書類の総称です。財務諸表、計算書類ともいいます。

 

 なかでも特に重要な3つの決算書(損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書)を、主要財務3表と呼び、それぞれ異なる役割をもっています。その1つ、損益計算書は、1年間の経済活動の結果、何によっていくら稼ぎ、儲けたか。また何にいくら費用がかかったかなどの経営成績をあらわします。会社のお金儲けのしくみがわかる決算書です。損益計算書は英語名を略して「P/L(ピー・エル)」と表記します。

 

■まずチェックしたいのは、“アラリ”

 

 損益計算書には、中身の異なる5つの利益が書かれており、これにより会社がどのようにして儲けを生み出したのか、儲ける仕組みを読み解くことができます。その内容は、売上総利益(本業での粗利益、略してアラリ)、営業利益(本業での儲け)、経常利益(本業以外も含めた儲け)、税引前当期純利益、当期純利益(最終的な儲け)です。

 

 売上高に始まり売上原価など様々な費用を差し引いていくと、5つの段階で中身の異なる利益(段階利益)があらわされます。

 

 まずチェックしたいのが、会社がザックリいくら儲けたか、いわゆるアラリ(粗利益)です。売上総利益ともいい、売上から原価を差し引いた残りです。

まずチェックしたいのは、第1段階の利益である“アラリ(粗利益)”だ
売上に対するアラリの割合から収益力を見る

 会社が本業で得たザックリとした儲けの額が、アラリ(粗利益)です。会計の世界では「売上総利益」といいます。アラリは売上高から売上原価を差し引いた残りの額です。売上原価とは、小売業なら商品の仕入値など、製造業なら原材料費や製造関係の人件費などです。アラリが売上高に占める割合が「売上総利益率(アラリ(益)率)」です。会社の収益力を示す指標の1つで、業種によって水準は異なりますが、高い数字ほど会社の商品やサービスの付加価値の度合いが高く、競争力があり、収益力が高いと考えられます。

売上総利益率(アラリ(益)率)が高いほど収益力が高いと考えられる
ZOZO、ユニクロ、西松屋、アラリがいいのはどの会社?

 たとえば、同じアパレル小売りでも「手数料を得る」「作って売る」「仕入れて売る」など収益をあげる仕組みが違うと“売上総利益率(粗利益率/アラリ率)”の割合にも差が出ます。

ZOZO、西松屋、ユニクロ(ファーストリテイリング)の損益計算書

■ZOZOのビジネスモデルは売上原価がかからない

 

 ZOZOの主力事業は1,500店以上が出店するEC(電子商取引)サイトのショッピングモール「ZOZOTOWN」などでの通販事業。取扱高は5,000億円超ですが、同社の売上となるのはこの売上代金ではなく、その3割程度とみられる受託販売手数料です。

 

 ZOZOは各店舗から商品を受託在庫の形で預かり、販売するビジネスモデルであるため、商品の仕入コストを負う必要がありません。収益は販売時に得られる手数料収入であり、これならコストがかからず、売上原価が低く抑えられることから、売上原価率(売上総利益率)は90%超という非常に高い数値です。ちなみに、アラリから販管費を差し引いた後の営業利益率は約30.5%です。

 

■SPAのファーストリテイリングと仕入販売の西松屋のアラリ率は?

 

 商品を委託販売するZOZOとは異なり、ファーストリテイリングは自社ブランドの商品を企画から製造販売まで一環して手がけるビジネスモデル。これにより一般の仕入販売よりもコストが抑えられ、高いアラリを生み出しています。一方、西松屋チェーンは商品を仕入れて低価格で販売しているため原価率(仕入値)は高くならざるを得ません。その代わりに少人数で店舗運営を行い、業務のマニュアル化などで人件費を抑え、出店も賃料の安い郊外に展開するなどして販管費を抑制。営業利益を確保しています。

 

 ここまで同業3社のアラリ率を比較しましたが、手数料収入を柱とするZOZOが断然高い数値でした。といっても他の2社の業績がふるわないわけではありません。それどころかどちらも前期よりも売上を伸ばしています。

 

■3社を比較してみよう

 

 ここまで見てきた売上総利益率を同じ衣料品小売業の3社で比較してみましょう。まずは、アパレルEC大手の(株)ZOZO。同社の売上原価は売上高の1割弱に過ぎません。そのため大きなアラリを稼ぎ出しています。売上総利益率はなんと93.0%。これほど高い数値を実現できる理由は、商品の仕入れコストがかからず、売上の約6割を受託販売手数料が締めるという同社のビジネスモデルにあります。

 

 続いて同じアパレル小売の2社を見てみましょう。ユニクロブランドを主力とする(株)ファーストリテイリングはSPA(製造小売業=アパレル業界などで自社ブランドのオリジナル商品を企画・製造から販売まで合わせて行う業態)と呼ばれるビジネスモデルを展開しています。メリットは大量生産による製造コストの抑制。同社の売上原価率は約46%と小売業の水準である7割を下回り、売上総利益率は約54%。

 

 一方、子供・ベビー服の専門店を郊外に数多く展開する(株)西松屋チェーンは、基本的に仕入れた商品を低価格で販売する業態なので、どうしても仕入原価が大きな割合を占めます。売上総利益率は3社中では最低の34.7%です。

 

 このように、同じアパレル小売りでも、「手数料を得る」「作って売る」「仕入れて売る」など収益をあげる仕組みが違うとアラリの割合にも差が出るのです。

会社の経済活動の結果をあらわす決算書には、ビジネスモデルや経営戦略が反映されている

 会社はそれぞれ、事業の進め方(事業戦略)や、稼ぐ仕組み(収益構造)など、独自のビジネスモデルをもっています。会社の経済活動の結果を数字であらわした決算書には、そうしたビジネスモデルや経営の特徴がしっかりと反映されています。

 

 決算書をもとに割り出した各種の経営指標を使って経営分析を行うときは、会社のビジネスモデルや戦略、特性などと関連づけて数値を読み解くと、財政状況や経営実態をより深く理解することができるのです。

出典 『サクッとわかるビジネス教養 決算書』

アイキャッチ画像 Shutterstock

決算書 サクッとわかる ビジネス教養
購入はこちら
川口宏之(カワグチヒロユキ)
1975年栃木県生まれ。公認会計士。
2000年より国内大手監査法人である有限責任監査法人トーマツ(旧・監査法人トーマツ)にて、主に上場企業の会計監査業務に従事。2006年から、みずほ証券(旧・みずほインベスターズ証券)にて、新規上場における引受審査業務(IPO審査)などを担当。2007年に、ITベンチャー企業の取締役兼CFOに就任。財務・経理・総務・法務・労務・資本政策・上場準備などを統括。2009年より、独立系の会計コンサルティングファームにて、IFRS導入コンサルティングや決算支援業務、財務デューデリジェンスなど、幅広い業務を経験。その後、2019年に独立。「監査法人」「証券会社」「ベンチャー企業」「コンサルティング会社」という4つの立場で「会計」に携わった経験を持つ、数少ない公認会計士として多くのクライアントから信頼を集める。現在は、これらの経験をもとに、実務に役立つ会計研修(上場企業の社員研修、公開セミナー、動画講座)など、講師活動を精力的に行っている。著書に、『[決定版]決算書を読む技術』、『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(いずれも、かんき出版)、『決算書の基本』(日本実業出版社)などがある。「公認会計士・川口宏之オンラインスクール」主宰。
👉川口宏之 オフィシャルホームページ
新着記事