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2025.01.20

視野が欠けていく……自覚なく進む緑内障 失明を防ぐために知っておきたい眼科医の選び方

 日本における中途失明原因の第1位である「緑内障」。しかし、「緑内障」について正しい知識を持ち、しっかりと治療を続ければ、99%は失明を防ぐことができるといわれています。自覚症状なく進む緑内障の症状と、よい眼科医の選び方を、眼科専門医であり、「YouTubeチャンネル 眼科医平松類」でもおなじみの平松類医師が刊行した『悩み・不安・困った!を専門医がスッキリ解決 緑内障』(新星出版社刊)より一部再編集して解説します。

緑内障の視野欠損はどう進むか

【欠損の自覚症状はほとんど現れない】

 

 緑内障は、視神経がダメージを受けることで、視野が徐々に欠けていく病気です。視神経は、網膜の神経節細胞から伸びた約120万本もの神経線維が束になったもので、それぞれの神経節細胞および神経線維が、視野として「見える」部分をそれぞれ受けもっています。つまり、ある神経節細胞・神経線維がダメージを受けると、担当していた部分の視野が欠けるようになります。

 

 しかし、神経線維は約120万本もあるため、少々傷ついても視野が欠けたようには感じられません。さらに緑内障の初期には、私たちが日常生活で「見る」ために使っている視野の中心部分(中心視野)には欠損は生じず、そこから少し外れた鼻側から欠損が起こり始めることが多いため、視野の異常に気づくことはほとんどありません。中期に入ると、視野の欠けが周辺から徐々に広がりますが、見えない部分の情報を脳が補ったり、片目の視覚欠損をもう一方の目が補ったりするようになるため、まだ自覚症状としては現れないのです。そして後期になると、見える範囲がわずかになったことで、視野欠損を自覚するようになります。しかも、そこに至るまでは自覚症状がないことから、「急に視野が悪くなった」と感じることが多いです。

 

 一度欠けた視野は、元に戻ることはありません。そのため、視野欠損が広がった後期になると、日常生活にも不自由が生じるようになります。

視野欠損進行のイメージ

視野と視力は違う 

【視野は「目を動かさないで見える範囲」のこと】

 

 緑内障と診断された患者さんのなかには、「視力は問題ないので、大丈夫だと思うのですが」とおっしゃる方がいます。しかし、緑内障は視力ではなく、「視野」に異常が出る病気なのです。

 

 視野は、目を動かさないで見える、上下左右の範囲のことをいい、目を動かさずに見る1点(固視点)を中心にして、角度で表します。目に異常がない場合、片目ごとに、耳側約100度鼻側約60度、上方約60度、下方約75度と、広い視野があります。

 

 一方で、視力は対象物を見分けられる能力のことです。視力は視野の中心部で高く、周辺部になるほど低くなります。緑内障では、視野が欠ける「視野欠損」が起こりますが、どんな人の目にも視野の欠けている部分があります。それは「盲点」と呼ばれ、見ようとする1点より耳側にあります。

 

 盲点を実感する方法をひとつ、ご紹介しましょう。まず、両腕を前に伸ばし、両手の人差し指を立てます。右目で左の人差し指の爪先を見つめます。そのまま右人差し指をゆっくり右へとスライドさせると、左人差し指から20~30㎝ほど動いたところで、右の指先が消えるポイントがあります。これが盲点です。

 

 盲点の場合、視野の欠損は一部分だけですが、緑内障ではまだらに欠けていくことから、視野の欠けを実感しにくいとされています。

イラストのように指を動かすと右の指先が消えるポイントがある。これが盲点だ

私たちの「見える」にかかわる視野は「中心30度」

 私たちの視野は意外と広いものです。しかし、日常生活でその視野に入るものをすべて感知しているかといえば、そうではありません。広い視野のうち、中心から30度ほどの「中心視野」で見ているものを、おもに認識しています。人の顔の判別や読書、車の運転など、日常の多くの活動においては、この中心30度の視野を使用しているため、この部分の視野が失われると日常生活が困難になります。

 

 緑内障では、「周辺から視野が欠けていく」とよくいわれますが、これは広い視野全体の周辺から欠けていくわけではなく、中心30度の視野において「周辺から欠けていく」のです。そこで、緑内障の診断の視野検査では、この中心30度(または24度)の視野の測定を行います。また最近は、とくに見え方を左右する中心10度の視野を測ることで、より正確に視野の異常を発見できることがわかっています。

 

 一般的な視野検査の方法には、検査員が光の強弱を変えたり動かしたりして検査を行う「動

的視野検査」と、光の強弱だけで検査を行う「静的視野検査」の2種類があります。いずれの場合でも、検査機器を覗いて中心を見つめ、光が見えたらボタンを押すという方式で検査をします。緑内障の診断時には、中心30度の視野を重点的に検査できる静的視野検査を用います。

【早期発見で失明は防げる】

 

 緑内障は、適切な治療を受けていれば99%失明しません。私が勤務する病院の外来でも、ほとんどの患者さんが視力を失わずに、不自由なく生活されています。

 しかし、1%の患者さんが失明することは事実です。失明に至る場合、緑内障に気づいたときにはすでに進行していて、治療による効果があまり期待できない状態だったことがとても多いのです。つまり、緑内障に早期の段階で気づき、適切な治療を開始していれば、失明することはほとんどないといえます。

 

 緑内障はだれでもなりうる身近な病気であるからこそ、定期的な検診やセルフチェックで、視野の異常に早めに気づくことが大切です。

よい眼科医の選び方 

 緑内障は、最初の診断がとても重要で、その後の治療方針の決定や、長期間にわたる治療を大きく左右します。そのため、最初から信頼のおける眼科医にかかることをおすすめしています。しかし、何を基準に「信頼できる」といえるのか、そしてどのように医師を選べばいいかは、とても難しいところです。

 

 そこで私は、「まわりの人やインターネットの口コミ」「病院の対応」「医師の話し方」の3点が、眼科医選びのポイントになると思っています。

 

 そして、受診する眼科医は、緑内障の専門であることが望ましいです。最近では、多くの眼科がウェブサイトで眼科医のプロフィールを公開しています。そこには緑内障の専門か、専門なら過去にどのような緑内障の治療を行ってきたかが記載されていますので、それを判断材料にしてもいいでしょう。

 

 なお、緑内障における受診で大切なのは、最初の診断と治療方針の決定ですので、そこまではたとえ遠方であっても、ベストな眼科医に診てもらい、治療方針決定後には、地元の通院しやすい眼科で治療を継続する形にしてもいいでしょう。ただし、明らかに視野が欠けてきているなど、緑内障の症状が進行している場合には、緑内障が専門の眼科医に診てもらうとともに治療を継続するようにしましょう。高度な治療が必要な場合にも、すぐに対応してもらうことができます。

 また、受診はしたものの、眼科医に気になるところがある場には、セカンドオピニオンとして、ほかの眼科医への受診を考えてもいいでしょう。

 

 セカンドオピニオンは、よりよい治療を求める手段のひとつですので、決して悪いことではありません。しかし、主治医と気まずくなるのが心配なら、伝え方を工夫してみましょう。たとえ事実でなくても、「転居する予定がある」「家族からセカンドオピニオンを受けるように言われた」などと、遠回しに伝えてみるのがおすすめです。もし、通院中のクリニックが手術対応をしていない場合には、「手術を考えたいので」と伝えてみてもいいでしょう。

【症状は検査結果などの客観的評価で確認を】

 

 視野検査で判明する視野欠損の状態は、患者さんの実感とは異なる場合があります。たとえば、視野全体を100分割して考え、そのうち1マス分欠損が起きたとします。緑内障初期の人は、もともと100見えていた状態から1マス欠損ですから、100分の1、つまり1%の欠損。しかし、後期の人はすでに100のうちの10マスしか見えていない状態からの1マス欠損になるため、10分の1、つまり10%の欠損となり、かなり視野が悪化した感覚になるのです。そのため、ちょっとした変化にも思い悩みやすくなります。たしかに視野欠損はつらい症状ですが、症状は検査などをもとに客観的にとらえ、必要以上に悩まず、治療に専念するようにしましょう。

出典 『悩み・不安・困った!を専門医がスッキリ解決 緑内障』

イラスト 熊猫手作業社

 

本記事は、上記出典を再編集したものです。

アイキャッチ画像  Shutterstock

 

 

緑内障 悩み・不安・困った!を専門医がスッキリ解決
平松 類 著(プロフィールは下記参照)
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平松 類(ヒラマツルイ)
眼科専門医・医学博士
緑内障・網膜硝子体・白内障・眼科一般・トラベクトームライセンストレーナ
二本松眼科病院副院長

「安心できる治療を一緒に進めていきたい」という患者に寄り添った診察で、日本全国から患者が訪れる。登録者数25万人を超えるYouTubeチャンネルでは、患者から寄せられるさまざまな質問にわかりやすく答え、定期的にYouTubeライブも開催。
NHK『あさイチ』、TBSテレビ『ジョブチューン』、テレビ朝日『林修の今でしょ!講座』、テレビ東京『主治医が見つかる診療所』などのテレビ番組のほか、『読売新聞』、『日本経済新聞』、『毎日新聞』、『週刊文春』などの各メディアに出演、執筆も行う。
著書に『自分でできる! 人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)、『1日3分見るだけで認知症が予防できるドリル』(SBクリエイティブ)、『眼科医が警告する視力を失わないために今すぐやめるべき39のこと』(SB新書)、『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)など多数。

YouTubeチャンネル👉眼科医平松類 
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