先月、『はじめての多肉植物 育てる・ふやす・楽しむ』の発売を記念し、オザキフラワーパーク特設コーナーにて、初心者向けの特別講座が開かれました。多肉植物ってどうやって育てたらいいの? 失敗しないコツは? など、購入する前に知っておきたい、とっておきの知識をまとめましたので、ぜひ参考にしてくださいね!
新井大介氏(以下、新井):今回のイベントは、オザキフラワーパークさんと一緒に作った『はじめての多肉植物』の発売を記念したものです。これから多肉植物を育ててみたい方に、注意すべき点などを今さんにお話しいただきます。
「多肉植物」には、実にいろいろな種類がありますが、そもそも多肉植物というのは、どのような植物をいうのでしょうか?
今祥太朗さん(以下、今):多肉植物とは、一般的に、葉っぱがふっくらしていて、水を含んで膨らんでいるものを指します。学術的に厳密な規定はなく、広義で使われていて観葉植物なども含まれます。
多肉植物の多くは、日本ではなくメキシコや中南米、南アフリカなど、乾燥した雨の少ない地域で自生しているもので、ときどき降る雨を蓄えて葉っぱに水分を含んでいる植物を総称していいます。
新井:水分を含んだ肉厚の植物というと、メキシコなどにあるサボテンや、最近人気の塊根植物(かいこんしょくぶつ/コーデックス)などもあると思いますが、それらも多肉植物と呼んでいいのでしょうか?
今:そうですね。多肉植物という言葉はとても広い意味で使われていて、多肉植物と呼ばれるものの中にエケベリアがあり、サボテン、塊根植物(コーデックス)、観葉植物っぽいサンセベリア、なども含まれることが多いです。
新井:このパーク内にも、ものすごくたくさんの種類がありますね。ここにあるエケベリアの品種名を見てみると、エケベリアのあとに「桃太郎」という名前がついています。「エケベリア」という名前はそもそもどういったものなのでしょう?
今:「エケベリア」というのは、植物分類学上の属名(ぞくめい)です。「ベンケイソウ科」というカテゴリがあり、その下に「エケベリア属」「セダム属」といったように属名がきます。そして属名の下に品種名がきます。原種であれば産地の名前だったり、交配した人がつけた名前だったりします。たとえば、この品種「桃太郎」というのは、交配した人がつけた名前、というわけです。
新井:同じ属名であっても、品種はじつにいろいろありますよね。属名が同じなら、どれも似たような姿形なのでしょうか?
今:一般的には同じ属名であれば、姿形の似ているものが多く、特にエケベリアは見分けがつかないくらい似ていますが、セダムやクラッスラなどのように、同じ属名でもカーペット上になるものもあれば、ふっくらした形のものもあって、一概にはいえません。さまざまな種類がありますので、ぜひお気に入りを見つけていただければと思います。
セダム(虹の玉)
クラッスラ(火祭り)
新井:初心者が多肉植物の栽培を始めるにあたって、おすすめの季節はありますか?
今:近年の日本の猛暑は、多肉植物にとっても過酷です。購入するのは、気温が20~25℃くらいになる春か秋がおすすめです。多肉植物には、春秋型、夏型、冬型といろいろありますが、エケベリアのように春秋型のものが大多数を占めています。夏や冬は休眠してしまうので、購入するのは、今の暑さが一段落した秋のほうがよいと思います。
新井:ここ最近、日本の夏は暑さが厳しいですよね。購入した後は、どのような場所に置いて育てたらいいですか?
今:多肉植物というと、室内で育てるイメージを持っている人も多いと思いますが、きれいに育てるには、日当たりがよく、風通しのよい屋外がおすすめです。
午前中から朝日が当たり、風通しのよい場所で育てるのが理想ですが、ベランダなどで育てる方も多いと思いますので、風通しをよくするために、ちょっとした棚や台にのせてあげたり、サーキュレーター(扇風機)で風を送るなど、工夫するとよいでしょう。地面から高い方が、風通しがよく地面からの照り返しもありません。日差しの強いところで、地面に直接置くのは好ましくありません。
また、ここ数年、日本の夏の日差しがとても強くなっているので、多肉植物が日光を好むといっても、長時間さらされ続けると葉焼け(はやけ/葉が変色したり、先端が枯れること)したり、溶けてなくなることもあります。直射日光の当たる場所に長時間置いている場合は、遮光が必要になります。園芸店やホームセンター、100円ショップなどで販売されている遮光ネットを使用するとよいでしょう。
新井:水やりの方法について、気をつける点はありますか?
今:多肉植物は、基本的に3~4週間は水をあげなくても大丈夫。水が切れると葉にしわがよってくるのですが、むしろそのくらいまで乾かした方がいいです。
多肉植物は、もともと乾燥地帯に自生し、スコールの雨水を蓄えて育ちます。乾燥には強いので、あまりかわいがり過ぎずに育てるくらいでよいでしょう。
水やりは、なるべく涼しい時間帯にします。春~秋は朝7時~8時くらいで大丈夫ですが、真夏は早朝、もしくは夕方になってからにしましょう。朝7時、8時でもすでに気温が高いので、4時~5時、もしくは夕方にあげるのがよいでしょう。ポイントは、水を葉にかけないようにすること。お皿に水をため、10~15分くらい鉢をつけて下からしみ込ませるのもよいでしょう。
ばしゃっと上から水をかけてしまうと、水が溜まりやすく、とくに真夏だと溜まった水が日光に当たってお湯になってしまい、腐ってしまいますので、注意しましょう。
新井:夏に育てるのは、いろいろ工夫が必要であることがわかりました。冬場は、どのような点に気をつければよいでしょうか?
今:軒下で寒さが避けられ、霜が当たらなければ外で育てても大丈夫ですが、マイナス5℃以下になるようであれば屋内に取り込み、日当たりのよいところで管理するとよいでしょう。エアコンの温風が当たらない場所がおすすめです。
また、夜間は冷え込むので、屋内に取り込むか、フレームを作って囲んであげるとよいと思います。
冬の水やりにも注意が必要です。水やりをした後に凍ってしまうと、一気に根っこがやられてしまうので、冬も乾燥させておいた方が、枯れるリスクを減らせます。冬以外でも、梅雨や秋雨の時期は、雨の当たらない軒下で育てるのがいいでしょう。
新井:夏、冬とそれぞれに気をつけるポイントがありますね。
「春秋型」は、穏やかな春と秋に生育します。3つの生育型のなかでも1番種類が多く、ベンケイソウ科のほとんどがこの春秋型です。花が春先に咲くものが多く、紅葉するものもあります。生育適温は10~25℃程度です。日本の高温多湿が苦手なので、夏の管理には注意しましょう。
アドロミスクス、エケベリア、グラプトペタルム、グラプトべリア、コチレドン、セダム、セネシオ、センペルビウム、ハオルチア、パキフィツムなど。
グラプトべリア(白牡丹)
夏前の5月から秋口の9月中旬頃に生育期を迎えるタイプで、生育適温は20~35℃程度。ほかの生育型にくらべ、暑さに強いのが特徴といえます。
アガぺ、アロエ、ガステリア、カランコエ、クラッスラの一部など。
カランコエ(月兎耳)
冬に生育期を迎えるタイプで、5~23℃が生育適温です。ただし、5℃未満の寒さと夏の蒸し暑さは苦手なので注意して管理しましょう。
アエオニウム、クラッスラの一部、コノフィツム、ダドレア、リトープスなど。
アエオニウム(カシミヤバイオレット)
じつに様々な種類があり、見ているだけでも楽しい多肉植物。『はじめての多肉植物』には、置き場所や苗の選び方、ふやし方や仕立て直しなどの管理方法をはじめ、育て方のポイントが詳しく載っています。また、園芸店で購入可能な約300種を図鑑で解説しているほか、寄せ植えや鉢の選び方など楽しみ方も詳しく紹介していますので、楽しみ方がぐんと広がりますよ。ぜひ育ててみてはいかがでしょうか?
写真 田中つとむ
レポート 向山邦余
本書は、寄植えや鉢の選び方など楽しみ方や、生育のタイプや置き場所、ふやし方や仕立て直しなどの管理方法なども解説。園芸店で購入可能な300種以上を図鑑で紹介しています。
監修は首都圏最大級の園芸店オザキフラワーパークが協力、できるだけ身近で購入できる種類を選んで解説しています。たくさんの種類のなかからお気に入りのひとつを見つけましょう。