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2022.07.14
もしもの時に困らない【大切な家族が亡くなった後の手続き】

連載第5回(最終回) 「遺産の分割で知っておくべき知識」

 大切な人が亡くなったとき。失った悲しみでいっぱいの時でも、しなければならないことが次々に押し寄せてきます。

 

 さまざまな届け出や手続きは、故人の喪もあけないうちに済ませなければならないものも多く、スムーズに済ませたいもの。そこで今回は、『改訂3版 大切な家族が亡くなった後の手続き・届け出がすべてわかる本』から、最低限知っておきたい手続きについて、5回に分けて説明していきます。今回(最終回)は、「遺言と遺産分割の手続き」についてです。

まずはここを確認!遺言と遺産分割に必要な手続きは?

 亡くなられた方が残された遺産を、相続人の間でどう分けるか。これは、故人が遺言を残されたかどうかで大きく変わります。遺言が残されていた場合、最も簡単なケースでは、遺言の指定通りに遺産を分けて手続きが完了です。相続人はすぐに、自分に与えられた遺産の相続や、名義変更の手続きに進めます。

 

 これに対して遺言がなかったときは、相続人全員で話し合うことが基本となります。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議のためには、まず相続人と相続財産をはっきりさせなければなりません。特定された相続人全員で、判明した相続財産の分け方を協議するからです。

 

 うまく話がまとまれば、「遺産分割協議書」を作成して手続きは終わりますが、なにぶんお金の絡む話、まとまらないこともあるでしょう。その時は最終的に、裁判所に調停を申し立てることも考えなければなりません。

相続財産を確認して故人の借金が判明した時はどうすればいいの?

 相続財産の確認を進めると、故人の借金や保証債務など、債務が判明することがあります。その時は、大急ぎで相続財産と債務を概算してみることです。

 

 相続人が故人の債務を背負わないためには、「相続放棄」などの方法がありますが、その手続きの期限は相続人であることを知ったときから3か月以内になっています。

相続放棄を決めたらするべきこと

 

「相続放棄」を選択すると、最初から相続人でなかったとみなされます。遺産分割の協議などにも一切参加できません。

 

 また、相続人に子どもがいても、代襲相続をすることはできなくなります。慎重に考えて決めましょう。

 

 「相続放棄」をするための手続きは「相続放棄申述書」を家庭裁判所に提出します。手続きの期限は相続人であることを知った時から3か月以内です。とくに他の相続人の合意は必要なく、ひとりで手続きすることができます。

 

 なお、相続の放棄は、故人の負債が理由でなくても行うことができます。たとえば、先祖伝来の土地建物を分散させたくない、自分だけ生前に贈与を受けていて他の相続人に申しわけない、といった場合も、それを理由に相続放棄を申し立てることが可能です。

遺言がないときは遺産分割協議をしましょう

 亡くなられた方が遺言を残さなかったときは、相続人が話し合って財産の分け方を決めます。これを「遺産分割協議」といいます。

 

 遺産は、相続人全員が合意すればどのように分割してもかまいませんが、目安となる「法定相続分」というものが法律に定められています。まず配偶者が、第1順位の子どもがいるときは2分の1、第2順位の父母などだけのときは3分の2、第3順位の兄弟姉妹だけのときは4分の3を相続するというものです。子・父母・兄弟姉妹が2人以上いるときは、残りをそれぞれ等分します。

 

 実際に遺産をどう分割するかについては、主に3つの方法があります。もっとも一般的なのは「現物分割」の方法です。

 

 現物分割で相続人全員が合意できないときは「換価分割」の方法もとられます。また、たとえば長男に家を継がせたといったケースでとられるのが「代償分割」の方法です。

 

 なお、遺産分割協議を円滑にする目的で、2020年4月から、相続時に自宅に住んでいた故人の配偶者に「配偶者居住権」という「住み続ける権利(居住権)」が認められるようになりました。これにより自宅の権利は居住権と所有権の2つに分けられ、それぞれの権利を別の人が相続できるようになっています。

必ずしなければならない手続きに慌てないために

 5回にわたり、説明した内容はほんの一部に過ぎず、その家族ごとに必要な手続きや届け出も変わってくる場合があります。そうなったときに慌てず冷静に対処できるように、日頃から準備を整えておきたいものですね。

 今回ご紹介した内容は『大切な家族が亡くなった後の手続き・届け出がすべてわかる本』でさらに詳しく説明されています。詳しくは👉こちらから

出典『改訂3版 大切な人が亡くなった後の手続き・届け出がすべてわかる本』

本記事は、上記出典を再編集したものです。(新星出版社/室谷・向山)

イメージ画像 Shutterstock.com

大切な家族が亡くなった後の手続き・届け出がすべてわかる本 改訂3版
関根俊輔 監修/大曽根 佑一監修/関根圭一 監修(プロフィールは下記参照)
葬儀までの手続きは、だいたい葬儀屋さんにお任せできます。
でも、その後の手続きや届け出は自分でしなければなりません。
じつは、これらの手続きには、結構いろいろなものがあり、手間がかかります。

相続の手続きはもちろんのこと、亡くなられた方の確定申告も、代わりにしなければなりません。
また、健康保険や年金の手続きもあります。
亡くなられた方が持ち家をお持ちなら、世帯主の変更手続きが必要なケースもありますし、光熱費の支払先の変更やNHKの受信料の手続きなども必要です。

これらの中には、手続きや届け出をしなければ、損をしてしまうものが少なくありません。反対に、手続きや届け出をすることで、得するケースもあります。


本書はこれらの手続きや届け出の仕方を、記入例とともに、ていねいに解説しています。
また、これらの手続きをするために必要な書類を、役所などから入手しなければなりません。本書では、これらの入手方法にも触れています。

これらは一般に、税理士、司法書士、社会保険労務士など、何名かのプロに相談しなければなりません。
本書は監修者に、税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士の資格を持つ方をむかえています。

懇意にしている税理士や司法書などの専門家がいらっしゃるのでしたら、これらの手続きは彼らにお任せできます。
でも、そのような方々が周囲にいらっしゃらないのでしたら、本書はとても役立つ一冊になります。

※本書は2019年刊行の『新版 大切な家族がなった後の手続き・届け出がすべてわかる本』を最新の法律や手続きに沿って新しくしたものです。
購入はこちら
大曽根佑一(オオソネユウイチ)
司法書士、行政書士。
中央大学法学部法律学科卒。平成17年司法書士登録、平成26年行政書士登録。司法書士・行政書士大曽根佑一事務所代表。街の法律家として、相続発生以前の遺言書等による紛争予防アドバイスから、相続発生後の登記手続・相続財産管理業務に至るまで、相続にまつわる多岐の分野に積極的に取り組む。
関根俊輔(セキネシュンスケ)
税理士。
中央大学法学部法律学科卒。平成19年税理士登録、税理士法人ゼニックス・コンサルティング社員税理士。近年の高齢化に伴い「亡くなる前」の贈与や相続税の事前対策から、「亡くなった後」の遺産分割、二次相続に至るまで、財産の収益化・コンパクト化を重視した、遺族の暮らしの総合コンサルティングを提供している。
関根圭一(セキネケイイチ)
社会保険労務士、行政書士。30 年を超えるキャリアのなか、就業規則の作成、労使紛争の解決、給与計算実務や社会保険についての手続き、アドバイスをおこなう専門家。健康保険、労災保険、遺族年金の請求等、数千件の実務に対応した実績を持つ。
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