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2020.06.01
特集 スペシャルインタビュー“プロへの道”

File No.2 【代々木ゼミナール 生物講師 鈴川茂先生】
路上ライブをしていた音楽少年が生物学に目覚めた! そのきっかけとは

 代々木ゼミナールで生物講師として活躍中の鈴川茂先生。奥深く難解な生物の理論をユーモラスにわかりやすく紐解く講義内容は、「いつも楽しい!」と評判。現在、全国に2万人もの生徒を受け持っています。またTVアニメ「はたらく細胞」専属の細胞博士に就任したり、『世界一やさしい! 細胞図鑑』(小社刊)の監修を務めるなど、多方面から“生物の面白さ”を広めています。

 今回、鈴川先生ならではの、とっておきのエピソードを交えつつ、内に秘めた思いや今後の夢について語っていただました。

ーー まずは、このたびは『世界一やさしい! 細胞図鑑』を出版した後、動画でも細胞の楽しさをわかりやすく解説していただき、ありがとうございました。

 

 こちらこそ、ありがとうございました。少しでも多くの方々に、細胞ってこんなに面白いものなんだと知ってもらえたら何よりです。

ーー 今回の動画は、今までにないコミカルな鈴川先生の解説を拝見することができました。(笑)

また、「えっ? そうだったんだ!  今まで知らなかった!」 と思うような気づきも多く、細胞のことを今からでも学び直したいな、と思いました。

 

 おお、そう思っていただけたら、僕の願い通りです(笑)!  動画では、細胞の面白さを全身で表現したつもりです。まだ観ていない方は、ぜひご覧くださいね。

(👉書籍情報・動画はこちらでご覧いただけます)

ーーさて、全身で細胞の面白さを伝えてくださった鈴川先生ですが、鈴川先生にとって「生物」という学問はどのような存在なのでしょうか?

 

 生物、というと、多くの学生にとって「物理や化学よりはわかりやすいと思って履修したけれど、なんだか難しくて…」と思われがちな科目かもしれませんが、僕にとっては「自分」を知る手段でもあるくらい、大きな存在です。とはいっても、自分と生物が結びつくのは、かなり後になってからのことで、子どものころから好きな分野だった、というわけではありませんでした。

ーー子どものころは、どのようなことに興味を持っていたのですか?

 

 子どものころに夢中になっていたもの、それは「音楽」でした。自分で曲を作り、中学生のころからギターやハーモニカを演奏しながら、下北沢などで路上ライブもしました。年越しライブをしたとき、見知らぬおばあちゃんから2万円もいただいて、びっくりしたことも(笑)。自主制作のCDも出しました。

 さらに高校へ進学してからは、さらに本格的に。レーベルに所属してCDを出し、将来は音楽で食べていきたい、と思っていました。ちなみに当時よく聴いていたのはQUEEN 、ブルーハーツなどです。ライブにも足を運んでいました。今年の1月には、QUEEN + ADAM LAMBERTのライブにも行き、やはり音楽の力は偉大だなと再確認しました。

ギターとハーモニカでライブ。とにかく音楽が好きだった
高校時代は友人とデュオを組み、さらに本格的に(上下ともに写真右)

ーー路上ライブをしたり、レーベルに所属してCDを発売したり。本当に音楽が好きだったんですね! その鈴川先生が、生物に興味をもつようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

 

 じつは、僕は子どものころから集団になじむことが苦手でした。とくに小学校時代は楽しい思い出はほとんどなく、コンプレックスを常に抱いていました。いじめにあえば、その原因のすべてを自分のせいにし、とにかく自分を責め続けるばかり。当時は学校で起こる出来事が人生のすべてですから、自分や自分の周りの状況を客観的に見るなんて、できるわけもありませんでした。

    その後、中学校から高校へ。中学時代よりもさらに音楽にのめりこんでいた高校時代は、友人とのバンド活動が中心の毎日で、勉強はほとんどしていませんでした。なので、通知表にはその通りの数字ばかり…。そのなかで、本当にたまたま成績のよかったのが生物だったので、なんとなーく「得意科目なのかも?」 と思うようなレベルでした。

 

 そして3年生になり、いよいよ進路を決める時期になったのですが、そこで両親から「将来役に立つ学問を身につけておくのは今しかない。音楽の道を進むのは、大学に入ってからでも遅くないでしょう」と強く説き伏せられたんです。何度も強く言われているうちに、僕は、「ああ、それもそうか」と思うようになりました(笑)。そして高校3年生の秋から受験勉強を始めましたが間に合わず、1年間の浪人生活を送ることになり、代々木ゼミナールへ。なんとそこからです。生物の面白さに目覚めたのは…。

――親の力は強し! ですね(笑)。生物が面白い、と感じたのはどのようなことからですか?

 

 「細胞」というミクロの世界を勉強したうえで自分を考えることによって、コンプレックスばかりだった自分自身に対して、違う角度からの見方が生まれたんです。

 たとえば、「今日はいいことがあった」とか、「今日はイヤな気持ちになった」とか、日々、私たちはいろいろな感情に振り回されますよね。だけど、そんな自分そのものを生物学的にみれば、実は「細胞の集合体」によるものなんだよな……。簡単にいうとそんな発想です。人間の体って、肉体と精神とに分けて考えられるけれど、実はそのすべてが37兆個の細胞からつくられる物質でできているもので、その性質は遺伝情報から読み解けてしまうものなんだ…、怒りの感情だって、脳内物質によるものなんだ、と。なんとも無機的で、唯物論的な捉え方ではありますが、そんなふうに自分をものすごく遠くから見たとき、心の中で渦巻いている感情も遠くに見ることができて、なんだか気持ちがちょっと楽になったんです。

 

 もともと凝り性な性格も相まって、いろいろな文献を読み、辞書で調べて知識を身につけていくうちに、生物って面白いものだな、と思うようになりました。そして学問そのものへの興味から、北里大学理学部生物科学科へ進学。大学生活では音楽はほとんどやらず、研究に勤しむほどでした。

 北里大学では古細菌を専門とし、研究員を目指していたこともありました。しかし、研究をグループで行う、という場面で、またもや集団への苦手意識が浮上してきたのです。また、「自分から何かを発信していきたい」という気持ちも強かったので、大学を卒業してからは研究の道には進まずに、高校で教鞭をとったり、塾の講師をしていました。

 

 その後、生物の面白さに気づくきっかけとなった代々木ゼミナールで、今度は面白さを伝える側に立ちたい、と思うようになり、26歳で教壇に上ることになったわけですが、それからも、自分が今まで身につけてきた知識のレベルではとても足りないと思い、とにかく必死に勉強をしました。今も気になったことはすぐに調べ、勉強を続けています。

ーー 生物学への興味、そして紆余曲折を経て予備校講師になり、すでに10年以上ご活躍されている鈴川先生ですが、今の世の中に対して感じていること、学生たちに伝えたいこと、そしてこれからの夢を教えてください。

 

 これは自分の経験則なのですが、勉強していろいろなことを知れば知るほど、逆にグレーゾーンが増える、ということです。物事を考える材料が多くなるので、それだけ考えてから発言することになる。逆に、勉強をしていない人ほど、何かにつけてすぐに否定する一方で、建設的な意見を持てない。また自信のない部分を隠したがる。そして希望的観測でものを言う、ということです。身近な例を出すと、SNSの掲示板への書き込みもそのひとつです。たとえば環境問題についての記事に対する書き込みなどを見ると、単に否定的な内容は多いものの、真を突いているな、と思う意見は非常に少ないなと。

 

 自分自身もそうですが、これからの日本を担う若いみなさんには、知識を持ったうえで考え、「自分の意見を持てる大人」になっていただきたいと思っています。そのためには、詰め込むだけの学習ではなく、論理的に考える力をつけることが必要なので、何らかの形でそういったことも教えられるよう、これからも努力していきたいと思います。

 

  また、僕の場合、子どものころに味わったつらい気持ちは、大人になってもなかなか消えるものではありませんでした。ですが、マイナスの力が大きいほど、プラスに変わったときに大きなパワーを生み出すもの。経験や年齢とともに、長年持ち続けてきた自分に対する「負の感情」を清算することができるようになった今だからこそ、勉強することの楽しさや意義を、さらにもっと多くの方々に伝えていきたい、と考えています。

 

 そして最後になりますが、いつかまた音楽活動を再開し、ライブもしたいと思っています!

ーー これからもぜひ、鈴川先生だからできる生物の授業を、さらに多くの方々に伝えて頂きたいです。そして、もうひとつの夢、ライブ開催の日も、楽しみにお待ちしています! 本日はありがとうございました。

 

 ありがとうございました!

鈴川茂語録

◆「勉強をしていない人ほど、『物事を簡単に否定する』 『自分の自信のない部分を隠したがる』 『希望的観測でものを言う』」

 

◆「これからを担う若者には『意見を持てる大人』になってほしい」

 

◆「マイナスの力が大きいほど、プラスに変わったときに大きな力となる」

 

(取材・文 向山邦余)

鈴川茂

代々木ゼミナール生物講師。TVアニメ「はたらく細胞」の細胞博士「YouTubeにて、「細菌」に関する動画を好評配信中!)」。北里大学理学部生物学科科卒業。大学在学中は「古細菌」の研究に専念。現在は、東大や京大などの難関大から共通テスト(センター試験)まで幅広い入試研究をしながら、「生物学のおもしろさを多くの人に知ってもらいたい!」という思いで、全国で講義活動を行っている。”生物学に興味をもってくれる人が増えれば世の中はもっと良くなる”と信じて、今日も教壇に立っている。(書籍刊行時)

代ゼミ生物講師 鈴川茂のホームページ
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