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2023.12.18

「運動後30分以内にたんぱく質摂取」は、もう古い! 
筋肉を作るにはいつ何を食べるのが正解か?

 これまで、筋肉を増強させるためには、たんぱく質を「運動後30分以内」にとることが推奨されていました。しかし、最近は運動後すぐでなくてもよいとされています。では、どのくらいのタイミングで、どのような栄養素をとると効果的なのでしょう。

以前は、運動後30分以内にたんぱく質摂取が推奨されてきたが…
たんぱく質摂取はタイミングが大切

 運動をして筋肉を増強させるためには、たんぱく質合成に必要な血液中のアミノ酸が不足しないよう、タイミングよくたんぱく質を摂取することが大切です。

 

 筋肉は、負荷をかけることで筋たんぱく質の合成を促進するように指令が出ます。そのため、たんぱく質が必要となるのは、おもに運動後になります。

 

 以前は、運動後30分以内にたんぱく質を摂取しないと筋肉の合成に間に合わないとされていました。しかし近年では、運動後すぐにとらなくても有効であるといわれています。運動の刺激によるたんぱく質をつくる作用(同化作用)は24時間以上持続するため、運動前後だけでなく、継続的に毎日たんぱく質をしっかりとるのが効果的です。

 

 運動中はエネルギーも必要です。エネルギー源が不足すると、筋肉のたんぱく質が分解されてエネルギーとして使われてしまうため、運動前や運動中には糖質補給も忘れずにしましょう。

筋トレ前は糖質とたんぱく質を、筋トレ後はしっかりとたんぱく質補充をしよう

【POINT1 たんぱく質を十分にとる】

 運動をすると、筋肉のたんぱく質が分解されます。それを防ぐには、血中アミノ酸濃度を保つことが重要。運動によるたんぱく同化作用は24時間以上持続するので、運動前後でしっかりたんぱく質をとりましょう。

【POINT2 糖質もとる】

 運動するにはエネルギーが必要。まずは糖質が、次に脂質が使われます。食事によって体内にアミノ酸が充実し、筋肉がつくられていきますが、この状態を「アナボリック」(同化)と呼びます。

 一方、糖質と脂質のどちらも不足すると、たんぱく質がエネルギーとして使われますが、この状態のことを「カタボリック」(異化)と呼びます。できるだけたんぱく質の減少を防ぐため、運動前や運動中は糖質もとるようにしましょう。

筋肥大に必要な1日のたんぱく質摂取量は?

 筋肉を肥大させるために必要なたんぱく質の摂取量は、体重1㎏当たり1.4~2.0g/日とされています。たとえば、体重が60kgであれば、1日に84~120gのたんぱく質を摂取するとよい、という計算になります。

たんぱく質の質を判断する「たんぱく質評価」は、時代で変わっていく

 筋肉を肥大させるには良質なたんぱく質を積極的にとり入れたいもの。その際、たんぱく質の「質」を評価するためにこれまで目安としていたのが、アミノ酸スコアです。アミノ酸スコアは、9種類の必須アミノ酸が食品にどれだけバランスよく含まれているか点数化したもの。数値が100に近いほど良質といえます。

 

 しかし、アミノ酸スコアは体内吸収率が考慮されていません。そこで2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)により新たに提唱されたのが、「DIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)」です。食品に含まれるアミノ酸のバランスや質の高さだけでなく、体内での吸収率も考慮された数値となっており、必須アミノ酸をバランスよく含み、体内吸収率が優れているほど数値が高くなります。今後の研究で、さらに多くの食べ物の詳細なDIAASが判明することでしょう。

アミノ酸スコアでは考慮されなかった体内吸収率が、DIAASでは考慮されている

 DIAASの数値を見ると、牛乳や卵に含まれるたんぱく質の評価が高いことがわかります。とはいえ、牛乳や卵ばかりをずっと食べ続けるわけにはいきません。栄養的には、たんぱく質を含むいろいろな食品をバランスよく食べることが大切です。

筋肉をつくるには、たんぱく質以外に多くの栄養素が関わっている

 筋肉を増やすには、筋肉をつけたい場所に運動や筋トレで負荷をかけるだけでなく、主成分となるたんぱく質を十分に摂取することが大切です。ただし、筋肉をつくるのに関わる栄養素はたんぱく質だけではありません。

 

 たとえば、筋肉を包む筋膜や、筋肉と骨をつないでいる腱はコラーゲンが主成分です。このコラーゲンを合成するためにはビタミンCが欠かせません。

 

 ビタミンB群は、三大栄養素の代謝をサポートしているだけでなく、細胞内でアミノ酸を分解してエネルギー源にしたり、別のアミノ酸の合成を助ける働きもあります。

 

 ビタミンDは筋肉の収縮で使われるカルシウムの吸収を助ける働きがあります。また、近年の研究で、ビタミンDが不足すると筋肉量が低下することがわかっています。ほかには、亜鉛もたんぱく質の代謝をサポートします。

 

 一方、運動では多くのエネルギーが必要になります。不足すると体内のたんぱく質がエネルギーとして使われるため、運動前には糖質をしっかり補給します。脂質も、エネルギーとして使われますが、とり過ぎると体脂肪として体内に蓄積されるため注意が必要です

筋トレ後のアルコールは、筋肉をつくる働きを弱めてしまう

 筋トレをすると、それが合図となって体内のアミノ酸から筋肉がつくられますが、そのピークは筋トレ後1~2時間といわれています。このとき、アルコールを多量に摂取すると、ストレスホルモンのコルチゾールが分泌。筋肉を分解する作用により、筋肉をつくる働きが弱まると考えられています

 

 また、実験によっては、アルコールの摂取によって筋肉の合成率が約3割減少するという結果もあります。これには、アルコール摂取により筋肉合成を高める男性ホルモンのテストステロンの分泌が抑制されること、アルコール摂取による脱水で血流低下が起こり、筋肉の合成に必要な成分の運搬が滞ることなども原因として考えられています。

 

 汗をかいたあとのお酒は格別おいしく、それを楽しみに筋トレをする人もいることでしょう。ただ、せっかくの筋トレも効果が減少してしまってはもったいない話です。効果を最大限に活かしたいのであれば、運動直後のアルコールは控えること。飲む場合は翌日くらいまで十分に時間を空けてから、ビールなら350ml缶1~2缶程度に抑えるのが賢明です。また、血中のアルコール濃度が上がらないよう、一気に飲むのではなく、時間をかけて飲むようにしましょう。

サクッとわかる ビジネス教養
栄養学
飯田薫子 監修(プロフィールは下記参照)
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お茶の水女子大学大学院教授。医師。博士(医学)。筑波大学大学院講師、お茶の水女子大学准教授を経て、2017年より現職。専門は代謝学、応用栄養学。食の観点から、生活習慣病の予防・治療について研究を行っている。

監修書
『一生役立つきちんとわかる栄養学』(西東社)
『世界でいちばん素敵な栄養素の教室』(三才ブックス)
など
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