File No.20 【国際動物行動コンサルタント協会公認インコ・オウム行動コンサルタント 石綿美香先生】
国際動物行動コンサルタント協会公認インコ・オウム行動コンサルタント
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『インコのための最高のお世話』の監修者である石綿美香先生は現在、国際動物行動コンサルタント協会公認インコ・オウム行動コンサルタントとして活躍されています。どのような過程でインコ・オウムの専門家となったのか、これまでの仕事を通じて思うことなどを、赤裸々にお話いただきました。
『インコのための最高のお世話』大好評発売中!
――大好評発売中の『インコのための最高のお世話』には、インコの飼い方だけでなく、人間とインコとのコミュニケーションについても詳しく載っており、とても勉強になります。
インコというと小さくてかわいくて、手に乗ってくれたりなでさせてくれたりするだけで十分! と思う方も多いと思いますが、人とのコミュニケーションもじつに上手くとることができる生き物なんですよ。インコと一緒に遊ぶ様子を見て、「こんなことまでできるの!」と驚く方も多くいらっしゃいます。
インコは、本当に賢い生き物です。賢すぎるためにいろいろな問題も起きています。
たとえば、「もっとかまってほしい!」「もっと遊んでほしい!」といった自分の感情を、飼い主さんに伝えるために、どうすればうまく伝わるのかをあれこれ考えているんです。
自分の意思を伝えようと、飼い主さんに聞こえるようにピーピーと鳴いてみたり、顔を覗き込んでみたり。けれどもそこで反応がなかったり、「かわいいね」で終わってしまうと別の方法で伝えようとします。あるとき、飼い主さんの耳をかじってみたところ、大きな反応があれば、その方法を学習して自分の望みを叶える手段として使うようになります。
このように、一見、理由がわからないように思えるインコの行動にもちゃんと意味があるんですよ。
また、インコも基本的には人間と同じように感情を持ち、それを相手に伝えようとします。その伝え方や行動の仕方を知っておけば、上手にコミュニケーションがとれるようになりますから、ぜひ本書を読んで参考にしていただければと思います。
――さて、インコのスペシャリストとしてご活躍中の石綿先生ですが、子どものころから動物が好きだったのですか?
はい、大好きでした! 動物と話ができるドリトル先生に憧れましたね。子どものころから動物が好きな一方で、なぜか外国の人にも興味があって。「外国の人と結婚するからね!」と幼稚園に通っていたころから言っていたらしいです(笑)。そのうち英語が大好きになり、知らない国の人と話ができる、ということにとても興味を持ちました。
その気持ちは大人になっても消えることはありませんでした。大学を卒業してから2年近く証券会社に勤務したのち、金融雑誌を発行するイギリスの出版社の日本支社に4年ほど籍をおいたのですが、イギリス本社に空きが出たタイミングで渡英し、5年くらい働いていました。
イギリスでの暮らしはとても楽しくて、充実した毎日でした。向こうは夜10時くらいまで明るいので、仕事が終わってから友人とバーベキューをすることもあり、思い切り楽しんでいました。そして、和気あいあいとした雰囲気のなかには、人だけでなく、犬もいました。もともと動物が好きでしたから、私も犬と一緒に暮らそうと思い立って飼い始めたのですが、ぜんぜんこちらの言うことなんて聞いてくれない(笑)。これはだめだ、なんとかしないと、と思って地元の犬のスクールに通ったんです。1990年代、今からもう25、26年も前の話です。その当時はまだ、動物にやさしいトレーニングをするといってもまだまだ未熟なものでしたが、応用行動分析学をベースに、「動物と人間が対等の立場」としたトレーニングの方法を学ぶことができました。
そこでのトレーニングを通じ、自分にメリットがなければ行動しないのは動物も人間と同じであること、どちらが上でどちらが下という位置づけはないということを知ってから、動物の行動の理由を考えるようになりました。学んでいくうちに、「こんなにも楽しい学問があるんだ! さらにもっといろいろなことを知りたい」と思うようになり、動物の行動に関する事を学ぶための通信講座も受講して知識を深めていくにつれ、動物と関わる仕事がしたいと思うようになったのです。そのタイミングで日本へ帰国しました。
――日本へ帰国してからはどのような活動をされたのですか?
2000年頃、日本へ帰ってきてまず感じたのは、イギリスとの大きな違いでした。イギリスのような、犬と一緒に暮らす上で犬も人も困らないようなコミュニケーションの方法を学べる場所が日本にはなく、犬に対して「お手」や「伏せ」を教えるような訓練所ばかり。
なかなか自分が望むような動物とのかかわり方のできる場所を見つけることができませんでしたが、あるとき、芸能界で活躍された佐良直美さんが主宰する施設の存在を知りました。そこでは、動物と人間が対等な関係でコミュニケーションをはかれるようになるための方法を教えていました。海外からもたくさんの講師を招いていましたので、私はそこで通訳をしながら本格的に学ばせていただいた後、2003年に自分のスクールを立ち上げ、「犬にやさしいトレーニング」を教えるようになりました。
――鳥よりも犬のスクール設立が先だったのですね。
そうなんです。私が活動を始めたころから、「犬にやさしいトレーニング」の市場は徐々に広がりを見せていきました。そんななか、2010年に最初の鳥のパートナーとなるオカメインコの“ばど美”という子をお迎えしたんです。犬のときと同じように自分の愛鳥とも学べる場がないかと探したのですが、当時はほとんどありませんでした。ないのなら、自分で始めようと思ったのがスクール開設のきっかけです。
動物の種類こそ違っても、行動のしくみを学ぶことで鳥との生活をもっと楽しむことができる。その方法を多くの方に知ってほしい。そんな想いから、これまで犬のスクールで行ってきたようなスタイルを踏襲し、愛鳥と飼い主さんが一緒に参加するトレーニングクラスを日本で最初に開きました。
――鳥のトレーニング方法とは、具体的にどのような内容ですか?
先にお話ししたように、インコの行動にも人間と同じようにそれぞれ意味があります。人間からすると困る行動ばかりとる子、たとえば噛みついてどうしようもないと言われていた子であっても、飼い主さんから詳しくお話をうかがいながら、その行動の理由を特定し、噛む以外の方法でコミュニケーションをとれるよう、まず人間がその方法を学び、それを愛鳥さんとの暮らしに取り入れていくような暮らしのご提案をさせていただきます。原因の特定と対応方法が適切であれば、困っている鳥さんの行動も変わっていきます。たいていは、警戒心や構ってほしい気持ちの表れからそのような行動を取ることが多く、鳥たちはそれをボディサインで表してくれているのです。
具体的なトレーニングの方法ですが、スクールでは、まずは飼い主さんと一緒に鳥の小さなボディサインを見る練習をしていきます。動きの速い子はどんなタイミングでどんな行動を取っているのかを録画してスロー再生して見たりもします。
そもそも、人間が思っているように鳥が思っているかというと、必ずしもそうではありません。
たとえば人間が楽しいだろうと思ってオモチャを与えようとしても、単なる大きな怖い物体と感じる鳥もいます。毎回それを人間が自分に向けてくるわけですから、いきなり目の前にオモチャを差し出して遊ばせようとしても無理がありますよね。「飼い主がいつもニヤニヤしながら変なものを出してくる! 逃げろ!」となるわけです(笑)。
おもちゃの目的(遊ぶためのもの)を知っているのは人間である私たちだけ。そこをふまえ、どうやって遊ぶものかを鳥に知らせるところからトレーニングを始めると、こうした誤解は起きません。鳥にとって、人間や対象物がどんな意味を持つのか、ということを少しずつわかってもらうことが大事です。相手のボディサインを見ながら少しずつ行うことができなければ、こちらからの一方的な押し付けにすぎません。鳥が安心できるために必要な距離を十分に取り、ごほうびなどもあげながら、鳥が興味を持って近づいてきてくれるようトレーニングを進めていくことが大切です。
――トレーニングをするうえで、ごほうびはとても重要だと思うのですが、どんなごほうびがいいのでしょうか? 食べ物を毎回あげたりしていても飽きないものですか?
わかりやすいごほうびは、鳥が喜ぶ食べ物をあげることですね。食いしん坊な子なら喜んで食べてくれますし、よく食べる子はトレーニングもラクといいます。ごほうびというと食べ物が最初に思い浮かぶかもしれませんが、必ずしもそうではなく、その時にその子が欲しいものを知るというスキルが実はとても大事です。「少しお腹が空いたなー」という時であれば、鳥にとって食べ物は魅力的かもしれませんが、鳥がこちらに対して怖がっているのであれば、まずは十分な距離を取ってあげることが必要です。おなかがいっぱいで眠そうな時なら、休息の場を与えたり、または飼い主さんから優しく声をかけたり、撫でてあげたりすると喜んでもらえると思いますよ。
――「その時に鳥の望んでいるもの」を考えながら、少しずつこちらに興味を持たせるには、飼い主側の観察する力量が必要ですね。
そうですね。ごほうびをあげて褒めたりしながらこちらの存在が怖くないことを少しずつ教えることができれば、だんだんと向こうから興味を持って近づいてきてくれます。それを待つ根気強さも必要です。うまくいかない場合、たいていは刺激が鳥にとって強すぎることが原因なので、トレーニングの内容を見直します。鳥が受け入れてくれるポイントを見つけ、そこからスタートするのが良いでしょう。またステップアップしていく際の注意点は、ハードルを一気に上げないこと。鳥の様子を観察しながら進めるようにしていきます。短い時間でも構わないので、鳥が成功して楽しんでいることを確認し、「もっとやりたい」と思うくらいで終わらせるのがコツです。最初は1分でもいいと思います。お互いにストレスを感じない程度にとどめておくようにしましょう。
――ほどよい距離感を保ちながら、無理のない範囲でトレーニングを重ねていくことが重要なのですね。石綿先生がこれまで数多くのトレーニングを教えてきたからこそ感じていることはありますか?
トレーニングに通ってくださるお客様から、「最初は鳥の行動を変えたいと思って通っていたけれど、実は人間が変わることが大切なのですね」と言われることがよくあります。まさにその通りなのです。自分が変わらなければ動物も変わりません。裏を返せば、自分が変われば相手も変わります。鳥にとって人間は、自分を取り巻く「大きな環境のひとつ」でしかないのです。鳥のニーズを満たし、生活しやすい環境を作ってあげることが大切です。鳥の幸せが人の幸せに、人の幸せが鳥の幸せになるような環境作りを目指したいです。
また、そのための制限はありません。雛から育てた鳥でないとだめだとか、保護した鳥や高齢の鳥はだめ、ということはないのです。高度な知能を持つといわれる鳥です。私たちが行動の科学を学び、鳥たちとしっかりと向き合っていくことで、深いコミュニケーションがとれます。
これからも鳥との暮らしを豊かにするためのお手伝いをしていきたいと思っています。
🔹インコも基本的には人間と同じように感情を持ち、それを相手に伝えようとする。その伝え方や行動の仕方を知っておけば、上手にコミュニケーションがとれるようになる。
🔹自分にメリットがなければ行動しないのは動物も人間と同じ。どちらが上でどちらが下という位置づけはないのだ。
🔹鳥にとって、人間や対象物がどんな意味を持つのか、ということを少しずつわかってもらうことが大事。相手のボディサインを見ながら少しずつ行うことができなければ、こちらからの一方的な押し付けにすぎない。鳥が安心できるために必要な距離を十分に取り、ごほうびなどもあげながら、鳥が興味を持って近づいてきてくれるようトレーニングを進めていくことが大切だ。
🔹自分が変わらなければ動物も変わらない。逆を返せば、自分が変われば相手も変わる。鳥にとって人間は、自分を取り巻く「大きな環境のひとつ」でしかない。鳥のニーズを満たし、生活しやすい環境を作ってあげることが大切である。鳥の幸せが人の幸せに、人の幸せが鳥の幸せになるような環境作りを目指したい。
取材・文 向山邦余