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2023.04.12

「老い」の原因は腸にあった!? 
老化研究の最新トレンド「老腸相関」を、消化器専門医 内藤裕二先生が徹底解説!

 「なんとなくだるい」「疲れやすい」「なにもないところでつまずく」病院に行くほどではないけれど、以前はそこまで感じなかった不調が増え「年のせいかも……?」と感じていませんか?

 一方、歳の割に元気で若々しく、お肌もきれい! なんていう人も周囲にいるのも現実です。同じ年齢でも人によって老いる速度は異なり、その原因が「腸」に関係しているということが、近年の研究で明らかになってきました。そこで今回は、老化研究の最新トレンド“老腸相関”について、酪酸産生菌と健康長寿の関係などの研究をはじめ、長年腸内細菌を研究し続けている本領域の第一人者、内藤裕二先生が解説します。

老化のスピードは人によって違う! 実年齢と老化の速さは一致しない?

 歳をとるスピードのことを、専門用語でペースオブエイジング(PoA)といいます。最近の調査で、人によってこのPoAが異なることが証明されました。暦上は誰もが平等に1年に1歳ずつ歳をとりますが、体や脳の老化のペースは平等ではないのです。つまり、早く老いる人、ゆっくり老いる人がいるということです。

老化のスピードが速い人の特徴

 PoAの調査で、老化のスピードが速い人にいくつかの共通点が見つかりました。主な共通点は下の9つです。

1. 歩行速度が遅い

2. 握力が弱い

3. バランス能力が低い

4. 視力・聴力が低下している

5. 外見が老けている

6. IQのスコアが低い

7. アンチエイジングについて否定的

8. 75歳まで生きられないと考えている

9. 脳年齢が進んでいる

 

 今は当てはまるものがあっても大丈夫。発想を変えて、PoAを遅らせるために、この項目と反対でいられるよう意識してみてください。

 

1.歩行速度、2.握力…フレイル(身体能力の低下に加え、認知機能の低下、社会とのつながりの減少により、心身ともに機能が低下することを指し、健康な状態と要介護の中間くらいの状態)や認知症のリスクを測る指標にもなっています。40代のうちから歩くスピードが遅い人や、握力が弱い人は、将来フレイルや認知症になる可能性が高いのです。握力は、女性では18㎏、男性では28㎏を下回ると要注意です。

 

3.バランス能力…体を支える筋力が弱いこと。転倒のリスクが高まり、ケガや寝たきりにもつながります。腹筋や背筋を鍛えて体幹を強くし、バランス能力を高めましょう。今からでも遅くありませんから、早歩きを意識し、筋力アップに努めましょう。

 

4.視力・聴力…視力・聴力が落ちると、目や耳からキャッチできる情報が減り、老化スピードを速める一因となります。特に聴力が衰えると会話への反応が鈍くなり、人づきあいが悪くなることも。必要があればメガネや補聴器も取り入れて、意識して人とコミュニケーションを取るようにしましょう。

 

5.見た目…2021年に『Nature Aging』という論文誌に掲載された研究(1972~1973年に生まれたニュージーランド人1037人を追跡し、26歳から45歳までの内臓や脳、視覚、歯、運動能力や見た目など、さまざまなデータを収集・分析したもの)によると、その結果、PoAは、0.40~2.44歳と、人によって大きな幅があることがわかりました。

 

 この研究結果でもっとも衝撃的なのは、「顔の見た目が若い人は、体も若い」という事実です。同じ年齢なのに、しみやしわが少なく、肌にもはりがあって、とてもその年齢には見えないという人が、あなたの身近にも何人かいるのではないでしょうか。データでは、そういう人は、筋力、内臓や脳、骨など、体の年齢も若いことがわかりました。つまり、顔の見た目と体の若さには相関関係があるのです。

 

6.IQスコア…これは、勉強が好きな人や、知的好奇心が旺盛な人は脳も活性化され、老化のスピードが遅いということです。積極的に外に出かけたり、新しいことを勉強するなどして、脳に刺激を与えましょう。

 

7.アンチエイジングについて否定的…このような人は老化防止に興味がなく、運動や食事改善をしないでしょうから、当然老化スピードは速くなります。8.のように「長生きできない」と悲観的に考えている人も同様です。悲観的な人は認知能力が低下していたり、加齢関連の病気と診断されることが多いという報告もあります。「自分は長生きできる」と楽観的に考えるほうが、老化のスピードを遅らせられるのです。

 

9.脳年齢が進んでいる…このような人は一度、MRI検査を実施し、脳年齢を計算することも、現状を知る上で大事かもしれません。

老化研究の最新トピック“老腸相関”

👉酪酸を増やす腸内細菌が老化を防ぐ

 

 最近、老化と腸に深い関係があることが明らかになってきています。腸の老化を防ぐことで、体の老化を防ぎ、健康長寿が叶うかもしれません。

 2017年から、長寿地域として有名な京丹後市の高齢者の腸内細菌を調べる研究を行っています。この京丹後市は、驚くべきことに100歳以上の「長寿者」が全国平均の2.7倍にも上ります。調べていくと、「酪酸」という成分と、酪酸を作り出す「酪酸産生菌」という腸内細菌が老化防止に重要な役割を持つことがわかりました。

 酪酸産生菌が増えると、酪酸によって免疫細胞が増え、老化の原因となる炎症を防いでくれるのです。また、酪酸産生菌が増えると、脳細胞の老化を抑制するという報告もあります。

全身の不調は腸の不調にあった!?

👉腸内環境の乱れがさまざまな病気を引き起こす

 

 腸の機能は「消化・吸収」と「免疫」の2つに分けられます。中でも、免疫を担う細胞の7割は小腸と大腸にあり、私たちを守ってくれています。

 腸内には約1000種類、約100兆個もの腸内細菌がすみつき「腸内フローラ」という生態系を形成しています。ここ数十年の研究で、腸内フローラのバランスがくずれ腸内環境が悪化すると、下痢、便秘、肌荒れ、さらには潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がん、脂肪肝、糖尿病、肥満、貧血、動脈硬化、腎臓病、アレルギー疾患、うつ病、認知症、自閉症など、さまざまな病気を引き起こすことがわかってきました。一見、腸と関係がないように見えるかもしれませんが、腸はさまざまな臓器とつながりを持っているのです。

臓器とのつながりが明らかに

 腸と心臓の関係を例にすると、腸内細菌によって作られるTMAOという物質が動脈硬化を促進することがわかっています。動脈硬化は、高血圧や糖尿病、脳卒中、がんなどの原因となります。実際に狭心症や心筋梗塞の患者の腸内細菌を調べると、特定の腸内細菌の数に変化が起こっていることが判明しました。

 

 腎臓にも、腸内細菌が大きくかかわっています。腎臓は老廃物を体の外に出したり、臓器と連携してホルモンを作りだしたり、全身の調整を行うはたらきを持っています。腸内細菌が作るD-アミノ酸という成分が、腎臓の保護や免疫力の向上など、さまざまな場面で健康にかかわっていることが明らかになりました。

 

 また、腸内環境が乱れると腸の壁が薄くなり、免疫バリアが効かなくなって、有害物質が体の中に侵入しやすくなります(リーキーガット症候群)。体内に入ってきた有害物質を解毒する機能は肝臓が担っていますが、腸のバリアがないと、直接有害物質と接触することになり、肝臓の負担が増えます。その結果、肝臓の炎症や肝がんのリスクを高めてしまいます。

 

 このように、腸内細菌はさまざまな臓器と密接にかかわっています。腸の状態を健康に保つことは、全身の臓器の健康にもつながるのです。

 日々感じる「老い」を止めるためには、日頃なにをしたらいいのか。本書では、「食べ方(考え方、食べ合わせ、食材)」という視点から、さらに詳しく解説している他、老化防止レシピ30品も紹介しています。ぜひ本書を参考に、実践してみてください!

出典『最高の食べ方がわかる! 老けない腸の強化書』

 

本記事は、上記出典を再編集したものです。(新星出版社/内園)

アイキャッチ画像 Shutterstock

老けない腸の強化書
内藤裕二 監修
★あなたの知らない新常識! 「老い」の原因は腸にあった!?

なんとなくだるい
疲れやすい
頭がすっきりしない
なにもないところでつまずく
しみ・くすみが気になる

病院に行くほどではないけれど、
以前はそこまで感じなかった不調が増え
「年のせいかも……?」と感じていませんか。
一方、歳の割に元気で若々しく、お肌もきれい!なんていう人が周りにいると
なにがこんなに違うんだろうと思ってしまうことでしょう。

同じ年齢でも、老化のスピードには速い/遅いがあり、人によって老いる速度は異なります。

その原因が「腸」に関係しているということが、近年の研究で明らかになってきました。

日々感じる「老い」を止めるためのには、日頃なにをしたらいいのか、
「食べ方(考え方、食べ合わせ、食材)」という視点から、
老化研究の最新トレンド“老腸相関”を第一人者が徹底解説!!

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内藤裕二(ナイトウユウジ)
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授。
1983年京都府立医科大学卒業。米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授、同大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長などを経て、2021年より現職。日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事、2025年大阪・関西万博大阪パビリオンアドバイザー。酪酸産生菌と健康長寿の関係などの研究をはじめ、長年腸内細菌を研究し続けている本領域の第一人者。
著書に『消化管(おなか)は泣いています 腸内フローラが体を変える、脳を活かす』(ダイヤモンド社)、共著に『腸すごい! 医学部教授が教える最高の強化法大全』(文響社)などがある。
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