ビジネス&マネー&スタディビジネス&マネー&スタディ

2026.04.09

日本の「半導体」はなぜ負けたのか? 
日米協定だけでは語れない産業衰退の裏側を歴史と構造から読み解く

 日々のニュースで目にする「半導体」という言葉。私たちの生活にどのくらいの影響を及ぼすものなのでしょうか。

 長年、半導体部門の経営戦略に従事し、現在コンサルティング会社グロスバーグ合同会社代表の大山聡さんは、次のように言います。

「私たちの生活は半導体なしでは成り立ちません。スマートフォンも、自動車も、社会を動かすインフラも、半導体がなければただの箱になってしまいます。半導体が手に入るかどうか。それは企業の利益だけでなく、国や地域の未来、もっと言えば「存亡」に関わるほどの大問題になりました。1つひとつは目に見えないぐらい小さな部品が、それほど重たい意味を持つようになったのです」と。

 

「半導体」とはどのようなものなのか。また、現在の日本の半導体市場はどうなっているのか。知っているようで知らないその実情を解説します。(本稿は、『サクッとわかるビジネス教養 半導体』(大山聡監修/新星出版社)の一部を再編集したものです)

車もスマホもAIも。社会は半導体で動いている

 半導体とは、ひと言でいうと電気の流れを精密に制御する物質、または電子部品です。現代社会において、半導体と無縁の生活を送るのはほとんど不可能といえます。

 スマートフォンやパソコン、身の回りの家電をはじめ、自動車や産業機械、通信網やインフラなど、電気で動く無数の機器に半導体は使われています。

 私たちの生活が便利で快適になり、経済が発展してきたのも半導体の支えによるもの。だからこそ、半導体は世界中で求められ続けているのです。

半導体の機能・用途はさまざまだ

 「半導体」とひと口に言っても、文脈によって指すものは様々です。大きく分けると、その意味は2つ。

 ひとつは電気を通したり通さなかったりする物質という意味。半導体製品の素材になるシリコンなどが含まれます。

 もうひとつの意味は、この素材から作られる半導体素子(デバイス)。

 素子を様々な電子部品と組み合わせると、CPUやメモリなどの製品ができあがります。素材、素子、製品はそれぞれ性質や機能による違いがあり、その種類は多岐にわたります。

半導体産業をリードした国・地域の変遷

【移りゆく産業の覇権 製造の中心地はアジアへ】
 半導体産業の覇権は、時代を象徴する製品の登場とともに移り変わりました。

 黎明期は米国で産業が発展。当初は軍事利用が需要の中心でしたが、その後「メインフレーム」という大型コンピュータや電卓向け市場が盛り上がります。

 やがて80年代には価格と品質で優れた日本企業が台頭。メインフレーム向けのDRAMで世界シェアの大半を占めます。

 しかし90年代に需要の主役がPCへ移ると、日本に代わって、韓国が安価なPC用DRAMで世界を席巻します。

 現在はスマホの爆発的普及や、AIの台頭など高性能のロジック半導体への需要が伸び続け、ファブレスで米国が、製造で台湾・韓国を中心とするアジア太平洋がリードする現在の構図に至りました。

 

【再び“買う国”から“つくる国”に? 日の丸半導体の現状を見る】
 かつて日本の半導体産業は世界を席巻していました。80年代から90年代にかけて、日本は産業発祥の地である米国を追い抜いて世界シェアトップとなったのです。

 ところが、時代の波に乗り切れなかったために多くの事業が縮小・撤退。市場の変化に対応できず国際競争力を失い、半導体を「つくる国」から「買う国」へと転落して久しいのが現状で、現在はニッチ分野が残っています。

 近年、多額の国家予算を投じた再興戦略が始動しましたが、過去の挑戦が失敗に終わったことから、その実効性を疑問視する声も。

 日本の半導体産業の現状と挑戦の取り組みを見ていきましょう。

日の丸半導体がしくじったワケ

【日米協定だけじゃない 日本が負けた本当の理由】
 日本の半導体産業が衰退した原因として、日米半導体協定がしばしば指摘されます。

 貿易摩擦の解消を目的としたこの協定は、日本製品の価格競争力を削ぎ、韓国などの新興勢力がシェアを伸ばす一因となったことは確かです。しかし、本質的な問題は産業構造の変化に適応できなかった国内企業の戦略にもあります。

 その一つが、品質への過剰なこだわりです。長期の使用に耐えうる高品質は、低コスト・低価格かつライフサイクルの短いPC市場にはそぐわないものでした。

 加えて、DRAMに代わる主力製品を生み出せなかった点も大きな要因。メーカーは一時期、ロジック半導体(システムLSI)への注力を打ち出すも、戦略も製品もないまま技術競争に取り残されたのです。

日本の半導体政策

【国内生産の強化と次世代技術への投資】
 日本政府は2030年までに官民で50兆円規模の投資を行い、売上高を15兆円超(20年時点から3倍)に引き上げる野心的な目標を掲げています。

(1)すでにある技術の生産基盤を強化し、(2)次世代技術の確立、(3)将来技術の実現を目指す3つのステップで産業を育てる計画です。

 

■ステップ1 生産基盤の強化
半導体や装置・素材・原料等の生産基盤の強化。

 

■ステップ2 次世代半導体技術の確立
2ナノ以降の先端ロジック半導体を中心とした次世代半導体技術の確立。

 

■ステップ3 将来技術の実現
光電融合や量子コンピューティングなど、将来技術の実現。

 これまでにはTSMCの誘致や、国内の生産拠点への支援を実施。さらに、次世代半導体の国産化を目指す新興企業「ラピダス」に累計約2兆円の支援を行うなど、大規模な公的支援が実行されています。

 効果が現れるまで時間がかかる投資もありますが、2020年時点で約5兆円だった国内市場の売上高は2024年時点で約7兆円に増加するなど、徐々に市場規模は拡大しつつあります。

 

【独自の強みを持つ日本企業たち】
 世界シェアが低下した日本ですが、独自の強みを持つ企業も多く存在します。

 たとえばスマホの記憶装置などに不可欠なNAND型フラッシュメモリにおいては、キオクシアが世界有数のシェアを維持しています。

 また、東京エレクトロンは、リソグラフィ工程で使われる塗布・現像装置で世界シェアの約9割を握るほか、成膜、エッチングなど幅広い工程の装置を提供。最先端の半導体は、同社の装置なくしては製造できません。

 素材においてはウェハで高いシェアを誇る信越化学工業のほか、フォトレジストや研磨剤など、やはり最先端プロセスで不可欠な素材を供給する企業が数多く存在します。

 日本の技術力は、今なおサプライチェーンにおいて重要な役割を担っているのです。

出典 『サクッとわかるビジネス教養 半導体』

イラスト 松尾達

いちばんわかる半導体(サクッとわかる ビジネス教養)
大山聡 監修(プロフィールは下記参照)
現代、身の回りのありとあらゆるものに搭載され、私たちの日々の生活からビジネス、医療や教育、そして安全保障にまで関わる半導体。
しかし、社会全体を支えている存在なのにもかかわらず、その重要性は多くの人にはあまり知られていません。

本書ではニュースなどで耳にする機会の多い半導体のトピックスから、その技術やテクノロジーなどの基本情報、世界を巻き込む製造工程やバリューチェーン、世界的な覇権争いの背景まで、半導体に関する情報を総合的に紹介します。
さらに、かつては半導体製造で世界一だった日本の現状、そして半導体の未来についても考えます。

イラストや図表を豊富に使っているので、2時間あれば半導体の技術や政界情勢が理解できるはずです!
購入はこちら
大山聡(オオヤマサトル)
慶應義塾大学大学院管理工学にて修士課程を修了。 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレ クトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、 半導体部門の経営戦略に従事。2010 年よりIHS Markit(現Omdia)で、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。

新着記事