子どものころ、学校の授業で一度は習ったことのある『万葉集』。元号が平成から令和に変わった際、万葉集が出典という事も話題になりましたね。『万葉集』と聞いて、「興味はあるけど、敷居が高そう」と思っている人も多いのではないでしょうか。そこで今回、『万葉集』の魅力と知っておきたい基礎知識をご紹介します。教えてくれるのは、「スタディサプリ」で大人気の古文・漢文講師、岡本先生です! 学生時代、古文に苦手意識を持っていた方、ぜひお読みください。
📕思わず共感してしまう!
『万葉集』の歌の種類は、雑歌、相聞歌、挽歌の3種類が中心。このうち、男女の恋など私的な内容を詠んだのが「相聞歌」で、約1800首あります。それほど、一個人の感情を詠んだ歌が多く、現代を生きる我々でも、自然と共感できちゃうのです。
📕庶民の暮らしぶりがわかる
『万葉集』全20巻には、約4500首の和歌が収められていますが、その4割強は、作者不明の一般人が詠んだ歌。そこから、歴史の授業では触れられることの少ない、一般庶民の生活や暮らしぶり、気持ちを知ることができます。
作者は、天皇・皇族はもちろん、新羅に派遣された遣新羅使、九州の警備に当たった防人(さきもり)、そして一般庶民まで、幅広く収録されています。
📕時代をこえたSNS!
SNSが欠かせない現代ですが、そのルーツは『万葉集』といえるかもしれません。それほど『万葉集』は、個人の感想を好き放題に詠んでいるのです。「これって、ただの個人の感想じゃん」と思ってしまう歌が多数ありますよ。
『万葉集』の魅力が分かったところで、さっそく一首ご紹介しましょう!
憶良(おくら)らは 今は罷(まか)らむ 子(こ)泣(な)くらむ
それその母(はは)も 我(あ)を待(ま)つらむそ
(山上憶良(やまのうえのおくら)・男/337)
憶良めは もうおいとましよう 子どもが泣いているだろう
ああ、その母親(=自分の妻)も 私を待っているだろうよ
これは、山上憶良が貴人の宴会に招待され、そろそろ帰ろうと思ったときに詠んだ歌です。
出だしの「憶良ら」の「ら」は、「憶良たち」といった「複数」の意味ではなく、現在の「わたくしめ」の「め」と同じ謙遜の表現。つまり、「わたくしめは、もうおいとまします」と謙遜の気持ちを表しています。
ところで、古文の文章中の会話では、男性が自分を下の名前で言うことは珍しいことではありませんが、和歌中で「憶良」と自分の名前を詠み込んでいるのは、珍しいことです。現代の感覚では、自分を自分の名前で言うのは幼子のイメージがあるため、出だしを詠んだとき、「憶良たちね~、もう帰るね」のように感じてしまうかもしれません。が、そういうわけではないのです。
退席する旨を、シラけないように歌で伝えたのかもしれませんね。「家族が待っているからそろそろ帰ります」なんて、現代っぽいと思いませんか。
今でも共感できること、感じていただけたでしょうか。「○○らは 今は罷(まか)らむ」と言われたら、無理に引き止めないであげてくださいね。
📖岡本梨奈先生の著書、『世界一楽しい! 万葉集キャラ図鑑』では、今味わいたい名歌・約60首を厳選。愉快なキャラたちが紹介しています。万葉集の面白さに触れてみてはいかがでしょうか。
出典『世界一楽しい!万葉集キャラ図鑑』
イラスト、マンガ 上田惣子
本記事は上記出典を再編集したものです。(新星出版社/神前・向山)
リクルート運営「スタディサプリ」古文・漢文担当/『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『岡本梨奈の古文ポラリス1・2』(KADOKAWA)など。
大阪府立千里高校→大阪教育大学・教養学科芸術音楽コースピアノ科卒。新卒で予備校講師となり、映像授業も担当。