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2020.11.05

人の脳は何歳まで成長できる?
【最新科学が解き明かす脳のふしぎ①】

 脳は、最新の科学を使っても解き明かせない無数の謎に包まれています。だからこそ、私たちの探求心も刺激されます。

 ここでは最新の知見をふまえ、「脳は何歳まで成長できるのか」について解説します。一緒に脳の不思議に迫っていきましょう!

「可塑性(かそせい)」が広げる能力の可能性

 動物には、学習や経験などによって脳の働きが変わりやすい時期があります。これを「感受性期」と呼びます。たとえば、自分の子どもをバイリンガルにするなら、この時期から外国語に親しませるのが有効といえます。

 

 ヒトの場合、感受性期は多くのケースで9歳くらいまでと考えられており、感受性期を過ぎてから、さらに神経細胞がつながり、20歳の頃、脳神経のネットワークが完成します

 

 しかし、その後は成長が止まってしまうのかというと、そうではありません。

 

 それ以降も学習や経験を生かして新しい脳のネットワークをつくっていきます。このように脳が生涯にわたり変化することを脳の「可塑性」といい、ヒトは人生で得た、いろいろな経験や知識を脳回路に蓄えることで、ネットワークをカスタマイズしていくのです。

 

 

 可塑性があることは、“個人の可能性”を広げます。つまり、生まれた瞬間は、遺伝子で決まる能力に圧倒的に左右されますが、脳に可塑性があることで、学習や訓練によって先天的な不利を覆し、脳が健康である限り、能力をつけ加えていくことができます。熟練した職人の技術はまさに、脳の可塑性によって新しいネットワークが構築されることで獲得できるのです。

長老の知恵は存在する?

 それでは、老年期まで伸び続ける能力はあるのでしょうか?

 

 これまでは、年をとるとともに、すべての能力が次第に低下していくと考えらえてきました。しかし、すべての機能が老いとともに一律に衰えていると結論付けるのは早計です。高齢化社会を迎え、高齢化を前向きにとらえ直すジェントロジー(老人学)の進展により、従来の認識と異なる事実も明らかになっています。

 

 

 物事を即座に理解し、適切に判断して、問題を解決する能力を「流動性知能」といいます。ヒト以外の動物も持つ知能行動で、俗にいう“頭の回転”にあたります。この知能は比較的早期に熟成し、成人する頃にピークを迎え、以降はだんだん衰えるといわれています。

 

 一方、これまでに学習・経験してきた事柄を理解し、新しい物事に照らしてより適切な判断を行い、問題を解決する能力を「結晶性知能」といいます。俗にいう“博識”のイメージに近いですが、単なる知識ではありません。物知りなだけではなく、それを問題解決に生かす、まさに“長老の知恵”です。この結晶性知能は学習や経験の蓄積を前提とし、老年期まで伸び続けるといわれています

 

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※イラスト・写真/shutterstock

 

※本記事は、下記出典をもとに、一部加筆し、再編集したものです。(新星出版社/三井)

 

脳と心のしくみ
池谷裕二 監修(プロフィールは下記参照)
最新の知見を盛り込み、インパクトのあるビジュアル表現にこだわりながら脳と心の謎に迫ります。
巻頭特集では、2014年にノーベル化学賞を受賞した超解像・蛍光顕微鏡によって、初めて人類が目にすることができた脳神経細胞のクリアな画像や、複雑に絡み合った神経細胞の姿をリアルに可視化した3D神経回路地図「コネクトーム」など、世界最前線といわれる脳画像を掲載。
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監修・取材協力は、東京大学大学院の教授として脳科学研究の第一線で活躍しながら、脳科学の面白さを広く一般にも伝えている池谷裕二先生。誌面では池谷先生のインタビューも収録。
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池谷裕二(イケガヤユウジ)
東京大学大学院薬学系研究科薬品作用学教室 教授。1970年静岡県藤枝市生まれ。研究テーマは「脳の可塑性の探求」(脳自身が作り出す脳の変化について)。特に記憶をつかさどる海馬の神経回路に内在する「可塑性」のメカニズム解明に向け、細胞生物学および生理学的観点からアプローチしている。
『進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線』(講談社)、『単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)、『海馬―脳は疲れない』(新潮社)など著書多数。

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