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2020.10.01
スペシャルインタビュー “プロへの道”

File No.4 【小児科医 草川功先生】
小児科医になって30年以上。時代の流れとともに思うこと

草川功先生

医学博士、聖路加国際病院小児科医長。1983年東京医科大学卒、1987年東京医科大学大学院を修了。東京医科大学付属病院、国立小児科病院、ピッツバーグ小児病院などを経て、現職。NHK Eテレ『すくすく子育て』では医療の専門家として出演。穏やかな口調とやさしい笑顔で、新米ママからの信頼も厚い。

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 小児科医として30年以上の経験を持ち、現在の所属先である聖路加国際病院では20年以上にわたってたくさんの親子を見守ってきた草川先生に、育児のあるべき姿や、これから親になる人へのメッセージなど、いろいろなお話を聞かせていただきました。

――現在、聖路加国際病院で勤務される傍ら、テレビの子育て番組をはじめ、多方面で活躍されていらっしゃる草川先生ですが、いつも笑顔で、そしてとてもやさしい口調でお話しされるので、初めての育児に不安を抱えている多くのママ・パパにとって、安心感を与えてくれる存在だといつも感じています。 

 本日は、医師になったきっかけ、医師になって思うこと、将来の夢などをお話しいただきたいと思います。さっそくですが、まずは小児科医になるまでのいきさつをお話しいただけますか?

 

 実は私の父も小児科医でしたので、将来なりたい職業のなかに、医者という選択肢が子どもの頃から頭の片隅にありました。父は開業医ではなく勤務医だったので、仕事をしている姿を直接見たわけではありませんが、それでもその影響は大きかったと思います。

幼少期の草川先生(写真右)。お父様も小児科医だった

 高校時代、物理と生物が得意だったこともあり、その2科目が受験科目に含まれている大学の医学部を受験したところ、合格することができたので進学しました。一般的には理科の科目選択で、物理と科学、もしくは化学と生物、の2科目を組み合わせて選択する方が多いのかな、と思いますが、なぜか私は物理と生物が好きでした(笑)。医師以外の職業としては、建築家にも憧れたりもしていました。

――医学部で6年間学んだ後、最終的に小児科を選ばれた理由はどのような点だったのでしょうか?

 

 大人に対する医療というのは、年齢が上がっていけばいくほど、「この治療をすれば完璧に治る」という病気は少なくなっていき、慢性疾患をコントロールしながらほとんどの患者さんは症状を抑えながら疾患と付き合っていきます。

 それに対し、子どもの病気は完治までの道筋さえ作ってあげれば、8~9割は治っていきます。子どもたちはその後もどこかで元気に暮らしていく。そして彼らがこれからの社会を担っていく…。小児科にはそこにとても大きな魅力があると感じました。

 

 また、ひとえに小児科といっても、大きく分けて2方向あり、小児内科と小児外科とがあります。当時の医学部には今のような研修制度はなく、卒業時に進路を決定するシステムになっていましたので、在学中は外科に進むことも考えていましたが、進路選択の時期にさしかかったときに、入院を必要とする病気にかかってしまったこともあったので、卒業時には体力的なことからも小児外科ではなく小児内科を選びました。

――学生時代のエピソードなどがあれば教えてください。

  

 大学時代の思い出というと、じつは当時、ヨット部に所属し、競技ヨットをやっていました。

 

 神奈川県の葉山にあるハーバー近くに合宿所があり、かなり本格的に取り組んでいたんですよ。

 

 

――小児科医としてのやりがいを、どのようなところに感じていらっしゃいますか?

 

 やはり、自分が診た子どもたちが元気に生活している、というところですね。病気を克服してたくましく成長している姿、また、病気と闘いながらも前向きに頑張っている姿を見ることができるのは、小児科医ならではです。

とくに新生児医療の場合だと、親より先に医師がかかわる場合もあります。中には生まれてから20年以上診ている子が、進学や就職を報告しに会いに来てくれることもあります。

 その一方で、たくさんの悔しい思いもしてきました。私が小児科医になってから今までの間に医療は大きく進歩し、昔だったら助けられなかった子たちが治るようになってきました。「今だったら助けられたのに…」という思いは、今も心の中に常にあります。助けてあげられなかった子たちのことは、一生忘れないだろうと思います。

小児科医になりたての頃の草川先生

――たくさんの子どもを見てこられた草川先生だからこそ、時代の流れとともに親子の変化、というものも感じていらっしゃるのではないでしょうか。

 

 30年前と今とでは、まず親の年齢層が全然違いますね。うちの病院に来られる新米ママも、35歳以上が約6割。40歳以上の方も1~2割ほどいらっしゃいます。育児に関する知識、常識も大きく変わったと思います。

――どんなところが変化したのでしょうか?

 

 昔、育児において母親が楽をするための道具は嫌われていました。例えば紙おむつやおしゃぶり。これらは批判の対象だったんです。今は紙おむつなんて当たり前ですよね。子育てに必要なエネルギーの量は変わっていないのに、核家族化、祖父母の高齢化、地域とのつながりの希薄化によって子育てにかかわる人数は減っている。母親を育児のストレスから解放するための便利な道具は必要不可欠なものになってきましたが、そうした利便性の向上とともに、注意すべき点も出てきました。

 紙おむつの例を挙げてみると、昔は紙おむつという便利なものはなく、布おむつしかありませんでした。毎回洗濯をするだけでも重労働でしたが、そのことを通じて、否が応でも親は子どもの身体の様子をその都度つぶさに観察することができていた、ということは言えるのではないかと思います。

 

 また、近年のめざましいSNSの発達により、アプリでベビーシッターを呼べるマッチングサービスなど、育児を支える新しいサービスが登場しています。当然、このようなシステムはこれからも増え続けるでしょう。便利になるのは良いことですが、安全性やそこで働いている人の自覚はよく見極めていくべきだと思います。

 

 このように便利なツールが増える一方で、子どもに及ぶリスクに対して、親がよりしっかりと気を配る必要があるのが今の世の中だと感じています。

――今では共働きの方が多く、そのなかで子どもを育てていくということは大変なことだな、と思います。これから育児をする人たちにアドバイスをいただけますか?

 

 生まれたばかりの子どもを見るというのは大変なこと。1日の半分以上はつらいかもしれないけど、「子どもが笑ってくれるとやっぱりかわいい」「寝顔を見るとほっとする」というような、「瞬間の気持ち」を忘れないでほしい、と思います。

 育児は大変だけれども、子どもを見てあげられるのは親。その基本に立ち返りつつ、喜びも感じながら子どもを育てていっていただきたいと思います。

 そしてこのことをぜひお伝えしたいと思います。

 子どもがいることによって、親は「自分の生きている時代」だけでなく、「子どもの時代」も同時に知ることができる、ということです。子どもの性別や数によっても視野や考え方の幅が広がります。子どもの変化を間近で見ることで、我々大人も、さらに成長することができるのです。

 つらさばかりが強調されるのではなく、子どもがいて楽しい!ともっと思えるような社会になってほしいと思っています。

ーー親が育児の喜びを感じることはとても重要ですね。そのためには、周囲の支えもなくてはならないと思いますが、社会全体として育児をどのようにサポートするべきでしょうか。

 

 今は両親共働きも当たり前の時代となりました。昔はおじいちゃん、おばあちゃんや地域が一緒になって子育てをしていたイメージがありますが、今はそうではありません。そのようななかで、もっとも重要な存在となったのが保育園です。

 現在、私は医療以外に保育関連の仕事もしています。昨今、保育園不足が叫ばれ、環境がいいとは言えない園がどんどん作られているのが現状です。数を増やすだけではなく、質を高めなければいけません。親も保育園を中心に情報収集をしており、保育園が子育ての中心になっています。まずは保育園の質を高めていくことが、より良い子育てにつながると思っています。

(👉公益社団法人 全国保育サービス協会

――最後に、草川先生がこれからやってみたいこと、夢などがあれば教えてください。

 

 子どものころにあこがれた職業のひとつが建築士だったことは最初にお話ししましたが、私の小学校時代からの友人が建築士になり、いま保育園の設計をしているんです。とても良い施設が多いんですよ。広い園庭があって、開放的で。

 その友人と、いつか一緒に保育園を作ろうという話をしています。医療以外のところでも、子どもの健やかな成長を見守り続けていきたいですね。

――草川先生が造られる保育園、楽しみにしています!本日は有難うございました。

 

有難うございました。

 

草川功 語録

◆「育児は大変なことのほうが多い。それでも、全力で取り組むだけの価値がある」

◆「育児の喜びを感じるためには、基本に返り、まず子どもをしっかりと見ることが大切」

◆「子どもを育てることによって、親は『自分の生きている時代』だけでなく、『子どもの生きる時代』も知ることができ、さらに成長することができる」

◆「今や育児において保育園の役割は非常に需要。社会全体で保育園の質の向上に取り組む必要がある」

 

取材・文 神前梨理子/向山邦余

草川功(クサカワイサオ)
医学博士、聖路加国際病院小児科医長。1983年東京医科大学卒、1987年東京医科大学大学院を修了。東京医科大学付属病院、国立小児科病院、ピッツバーグ小児病院などを経て、現職。日本小児科学会専門医、日本周産期・新生児医学会指導医および新生児蘇生法インストラクター、American Heart Association PALSインストラクター。NHK Eテレ『すくすく子育て』では医療の専門家として出演。穏やかな口調とやさしい笑顔で、新米ママ達からの信頼も厚い。

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