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2021.04.29

「つい買っちゃう」ものには理由がある!? ヒット商品を生み出す「行動経済学」を身につけよう!②

 前回は「行動経済学」の基本知識と、この学問を学ぶことのメリットをご紹介しました。

 

 今回は、行動経済学を学ぶうえで避けて通ることのできない重要な要素である、「ヒューリスティック」と「システマティック」について学んでいきましょう!

"ヒューリスティック" と "システマティック"
ヒューリスティック

 何か食べたいけど時間がない。 そんなとき、私たちはそれほど深く考えずにメニューを選びます。 10分も20分もかけたりせず、ある程度直感をはたらかせて選んでいます。 このとき、過去の経験などを参考にして瞬時に決定を導き出す意思決定のプロセス「ヒューリスティック」と呼びます。

 

〇ヒューリスティックの特徴

・直感、即決
・高速
・努力を要さない
・経験的

システマティック

 パソコンのような高価なものや、こだわりの強いものを買うとき、人は性能、価格、用途などさまざまな条件を考慮します。 このように、情報を集めてじっくり検討する思考「システマティック」と呼びます。

〇システマティックの特徴

・熟考
・低速
・努力を要する
・合理的

人間は2つの思考を使い分ける!《二重過程理論》

 このように、人の思考には大きく分けて2つのモードがあります。 基本的には素早く答えを出せる直感が使われており、その際の意思決定プロセスをヒューリスティックと呼ぶのですね。

 

 このヒューリスティックを使うと、ある程度満足できる答えを素早く出せる一方で、損失につながる誤った答えを出してしまう場合もあり、行動経済学の重要なテーマになっています。

 

 このように、人間が2つの思考を使い分けるという理論を二重過程理論といいます。

人間がものごとを即座に判断できるのはナゼ?

 何気ないスーパーでの買い物でも、そこには判断がたくさんあります。 たとえば、トマトを購入しようとしているときに、198円のトマトと298円のトマトのどちらにするかを即座に決められるのはどうしてでしょうか?

ヒューリスティックを使っているから!

 人が選択をするとき、伝統的な経済学では、たくさんの情報をきちんと吟味してから決断するとされています。

 

 しかし、すべての場面でそのような判断を行うのは手間や時間がかかりすぎます。 そのため、安いものやこだわりのないものを購入する場合や、瞬時に判断するには情報が多すぎる場合(情報過多)には、効率よく決断をする「ヒューリスティック」を多用するのです。

 次の例は、このヒューリスティックをうまくついた、マーケティングやビジネス上での活用事例です。

見たことのあるものを買ってしまうのはナゼ?

 テレビCMやWEB広告などで、よく目にしていた商品を、つい購入してしまう。 これは、どうしてでしょうか?

記憶に残っているものを信用するから

 「よく見かける」「インパクトが強い」「最近知った」「友人が使っている」……。 こうした商品は私たちの記憶に強く残り、思い出しやすいもの。 その記憶を利用する可能性が高いので、値段や品質について細かく検証することなく、直感的にその商品を選んでしまうのです。

 

 このように、なじみのあるものを選択する意思決定プロセスを「利用可能性ヒューリスティック」と呼びます。

 

 テレビCMやWEBページ、電車広告、街中の看板など、企業がいたるところに自社の商品を露出するのには、この効果を利用して購入に結びつける意図があるのですね。

繰り返すことでブランディングに役立つ

 企業は自身をブランディングするために、思い出しやすくなじみ深いイメージを作る工夫をしています。 たとえば、ブランドロゴの統一、ジングル・音楽(サウンドロゴ)の使用などが挙げられます。

 

 ジングルの利用によって、なじみのある企業は好感度が上がり、商品ならば実態以上に売れていると感じます。

ジングルには、コスモ石油の「ココロも満タンに」、ニトリの「お、ねだん以上。」などの言葉が入ったものや、ファミリーマートに入ったときに流れる「入店音」のような音だけのものがあります。
《単純接触効果》で印象を良くする

 マーケティングだけでなく、営業マンのテクニックとして利用されることも。

 

 一度、取引を断られた営業先に対して効果的な作戦はいたってシンプル。何度も接触を試みること。

 

 メールやDMを送るのはもちろん、直接会いに行くことで、単純接触効果が働き、親近感を覚えるのです。これは、人は接触回数が増えると相手に好感を持つためです。

 

 先ほど解説した広告やジングルも、この単純接触効果を利用しているのですね。

ヒューリスティックは間違いを起こすことも!

 ヒューリスティックは、常に適切な判断に結びつくとは限りません。 状況によっては、見たいものだけ、聞きたいものだけを見聞きしたり、都合よく解釈したりするなど、偏った考え方(バイアス)を引き起こすこともあります。

昨年活躍した選手は、今年必ず不調になる?

 昨年の得点圏打率3割の選手が、シーズンが開幕してから10試合連続で打点を上げました。 その後、20試合連続で無得点だった場合、その選手は絶不調だと評価されるかもしれません。

 

※毎試合、得点圏にランナーがいる打席数を1回とします

 

 しかし、実際には、合計30試合のうち10試合で得点を挙げているのだから、得点圏打率は3割で、昨年と変わりありません。 この選手の平均値に収束しているだけなのですが……。 このような自然の摂理を「平均への回帰」といいます。

 

 よく聞く「2年目のジンクス」にも、同様の理由が考えられます。 本当の実力はそれほどではなく、初年度が特別な成績であった可能性があるのです。 しかし人は、良い結果や特別なことが偶然連続しているとき、それが普通であると考えてしまいます。

 

 これは「平均への回帰」を忘れ、代表的なサンプルだけで判断するという代表性ヒューリスティックの一例です。

行動経済学を学べば、仕事が大きく変わる!

 いかがでしたか?行動経済学の基本知識があれば、ビジネスや自己実現など、多くの場面で生かすことができます。

 

 行動経済学について、より詳しく知ってみたい!という方は弊社書籍 『サクッとわかるビジネス教養 行動経済学』 をぜひご一読ください。

※イラスト/松尾達

※本記事は、下記出典を再編集したものです。

『サクッとわかるビジネス教養 行動経済学』(新星出版社/大森)

サクッとわかるビジネス教養 行動経済学
行動経済学は個人の心理を扱う経済学で、知識ゼロの人でも理解しやすく、かつ実際のビジネスに役立つテーマです。行動経済学の研究対象である、人間の非合理的な意思決定方法を学べば、営業職にも企画職にも生かすことができます。例えば、宿泊予約サイトにリアルタイムの閲覧者数を表示することで、「これだけ注目されているならいいホテルに違いない」「急がないと埋まってしまうかもしれない」と思わせて予約を促す仕組みは行動経済学の活用と言えます。
本書は行動経済学の基本となる考え方をイラスト図解で簡単に示し、それをビジネスや生活に生かすための方法を豊富な実例とともに紹介します。「見るだけで会話・説明ができる」というシリーズコンセプトの通り、この本を読めば行動経済学的な視点で戦略や企画を提案することができるようになります。
著者は『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)など著書多数の東大教授、阿部誠先生。個人の心理に着目したマーケティング研究の第一人者がおくる、ビジネスパーソンのための行動経済学の本です。

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阿部誠(アベマコト)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。1991年マサチューセッツ工科大学博士号(Ph.D.)取得後、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に論文を多数掲載。行動経済学の研究対象である人間の知覚バイアスや選好逆転に着目し、計量・統計モデルを用いて得られた分析結果をマーケティングに応用する研究を行っている。2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋地域の大学のマーケティング研究者第1位に選ばれる。

主な著書に『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(共にKADOKAWA)、共著書に『(新版)マーケティング・サイエンス入門:市場対応の科学的マネジメント』(有斐閣)などがある。
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